第8話 お姉ちゃんって友達いないの?

「ねーねー。お姉ちゃんって友達いないの?」


「はい⋯⋯?」


 昼食を食べ終えた後、リリーエ師匠の気まぐれで、「なんか食べたら眠くなってきたので暫く休憩にしましょう」、との事でしばらくの間休憩時間となった。


 そんな時、事件は起こった。



「ねえ、お姉ちゃんって友達⋯⋯」


「他人を見下すのは良くないですよ。一匹狼がいい人だっているんです。分かりましたか?」


「あー、よく分からないけど分かった!」


 唐突にフレアさんに友人の有無を尋ねられた。

 私は今まで堂々と、「友達なんて必要ないです、馴れ合いなんて愚か者のすることです」、と言えていたタイプだったけれど、どうもこの二人に問い詰められてしまうと、変に濁してしまう。

 なので、強引に適当な理由をつけてフレアさんを分からせた。



「ふふふ、レミリエルは本当はお友達が欲しいんですよ。ただ悲しい事に嫌われているようで⋯⋯」


「えっ!? お姉ちゃん友達いないの?」


「可哀想⋯⋯です」


「いやいや、そうやって友達が居ない人間を不幸と決めつけるのはお門違いだと思うんですが」



 だらしなくソファーに寝そべるリリーエ師匠の余計な一言で、二人の熱が一気に高まる。フレムさんからは同情の目、アクリアさんからは憐れみの目が向けられる。

 食べてすぐ横になったら身体に悪い、子供達も見ているので止めてください、という私の忠告を無視したと思ったら、今度は私の友人の無さをつついて来るとは。万死に値する。



「フレムさん、アクリアさん、良かったらレミリエルのお友達になってくれませんか? 二人を見て羨ましくなってしまったみたいで」


「そうなの? お姉ちゃん、友達になろ!」


「私も、良かったら友達にならせてください」


「あっ⋯⋯いえ、別に同情とかいいですから⋯⋯」


 いい関係の友人がいることは、素直に羨ましいなと思いました。認めます。

 ただ、十歳相手に同情で友人になられても⋯⋯。



「お姉ちゃん、魔法カッコイイし、ご飯美味しいし! 友達になりたい!」


「水魔法、綺麗でした。優しいし惹かれるものがあります」


「優しくなんて無いですよ、少し前まで人の事を見下し⋯⋯⋯⋯」、話している途中で、リリーエ師匠が私の口を手で抑える。


「とっても優しい子なので、仲良くしてあげてくださいね」


 リリーエ師匠の言葉に、二人は、「はーい!」と返事をする。

 そして、私の耳元で、「自虐はいけませんよ? 以前の自分から変わりたいんだったら、新たな一歩を踏み出してみるべきです」と囁いた。


 確かに、以前とは違う世界だ、姿も顔も違う。なら前の私の考えとは違う行動を取っても、問題はないんじゃないか。

 ずっと満たされない気持ちだった、理不尽な理由での転生だと思った、だけれどこれを転機にする事だって出来る。


 急に手の平を返して都合がいいかもしれないけど、一歩踏み出してみよう。



「あの、不束者ですが、お二人の友人としてどうかよろしくお願いします!」


「あはは、お姉ちゃん硬すぎだよ。よろしくね!」


「お姉ちゃん、さっき迄の余裕が感じられない。慣れないことへの対応が苦手、友達としてまた新たな発見が出来ました」



 アクリアさんに謎に分析をされたけど、良かった。友達として認めて貰えた。

 表情が硬いみたいだから、少し口角を上げてみる。

 意識して笑顔を作るって中々に難しい。



「あはは、レミリエルちゃん顔引きつってるよ!」


「レミリエルちゃん⋯⋯笑った事ないの?」


「フフ、無理やり笑顔を作ろうとする弟子可愛い⋯⋯引きつってる可愛い」



 笑ったつもりが、どうやら引きつってるみたいでフレムさんが私を指さして大爆笑している。

 そしてアクリアさんは、辛辣な意見を投げかけてくる。本当、最初の控えめだったアクリアさんは何処に行ったんだろう。

 後、引きつってる可愛いってどういうジャンル何でしょうか。



「さあ、レミリエルに初めての友達も出来たことですし、魔法の練習を開始しましょう」


「その言い方やめてください⋯⋯」


「おー! 頑張るぞー!」


「頑張るぞー」


 私達は、外に出て再び魔法の練習を始める。

 ひたすら魔力の弾を放出するリリーエ師匠に、それを横で見様見真似する二人。

 ちなみに私は、お花を咲かせる魔法に熱心に取り組んでいた。


 私が見事に綺麗な花を咲かせられるようになった頃、フレムさんが威力は低いけど、魔力の弾を放出出来るようになっていた。



「やった! 魔力の弾出るようになってきた!」


「え、フレムちゃんもう出たの!? 私まだ何も出てない⋯⋯」



 フレムさんは魔力を少し扱える様になったみたいだけど、アクリアさんはまだ進歩がないようで、自分とフレムさんを比べてしまっている様にも見える。


「大丈夫ですよ、アクリアさん。必ず先生が帰る頃までには出来るようにさせてあげます」


「お、お願いします⋯⋯」


「もう身体自体は魔力を扱えると思うので、後は意識の問題ですね。私と一緒にやってみましょう」


 リリーエ師匠は、アクリアさんを後ろからそっと抱き締めながら、アクリアさんの手を取る。


「さあ、杖の先に意識を集中して下さい」


「杖の先⋯⋯杖の先⋯⋯」


「では、振りますよ」


 リリーエ師匠は、アクリアさんの手を支えながら、一緒に杖を振る。

 振り下ろされた杖からは、見事に魔力の弾が放出された。大木が僅かに揺れる。



「できたっ⋯⋯!?」


「ふふふ、出来ましたねぇ。今の感覚を忘れないで下さいね」


「アクリアやったじゃない! これで二人とも目標達成ね!」



 フレムさんは勢いよくアクリアさんにハイタッチをする。かなり強い威力だった様で、アクリアさんのハイタッチした手が赤く染まっている。


「フレムちゃん、痛いんだけど」


「え、ご、ごめん⋯⋯。つい嬉しくて」


「まあ、そういう理由なら嬉しいけど⋯⋯」


 二人の幸せそうなやり取りを横目に、私はリリーエ師匠に目を向ける。

 リリーエ師匠が手を出した途端に、アクリアさんは魔力を放出できる様になった。一体どんな仕掛けがあるのか、少し気になる。



「あの、リリーエ師匠。どうして急にアクリアさんが魔力を使える様になったんですか?」


「ああ、その事ですか。一人で杖を支えている分、杖先に意識を集中する感覚が掴み切れていなかったんです。だから私が一緒に杖を支えていれば、より杖先に意識を集中しやすかったんですよ」


「はぁ、良くそんなの思い付きましたね⋯⋯」


「これでも一応先生ですからね。一人一人に合ったやり方で接すれば誰だって、何でも出来るようになるんです。それにあの二人は友達同士高め合えますから、いい魔法使いになるんじゃないでしょうか」



 普段の姿しか見ていないから、頭から抜けていたが、リリーエ師匠は先生という指導者だ。

 それぞれに合ったやり方を見抜いて提示するなんて、私には思い付かなかったし、友達同士高め合えるなんて、考えた事も無かった。

 馴れ合いじゃなくて、高め合い。

 リリーエ師匠の言葉は、私の中で強く響いて、心に残った。



「私も高め合える相手、見つけたいです」


「レミリエルとですか⋯⋯。んー、シルバーネとかなら、いい関係を気付けるんじゃないですか」


「シルバーネさん⋯⋯、マジですか」


「あれ、シルバーネさん嫌いですか?」


「あの人⋯⋯怖いです⋯⋯」



 以前、泣くまでボコボコにされているので、正直苦手意識が凄い。次どんな顔で会っていいかも分からない。



「まあ、わだかまりはいつか解けますから、気楽に行きましょう」


「そうですね⋯⋯」


 少し暗い雰囲気になったが、フレムさんが何時もの明るさで話しかけて来てくれた。


「レミリエルちゃんは何か新しい魔法出来たの?」


「ああ、私はお花を咲かせる魔法を会得しました」


「お花!! やるじゃない!」


「お花⋯⋯咲かせてる所見たいかも⋯⋯」


 私は、二人の意見を飲んで目の前でお花を咲かせて見せる。

 二人から「わー!」、「綺麗⋯⋯」、という絶賛の声が起こる。

 一輪の花を咲かせた私は、したり顔を浮かべる。


「所で、レミリエル。何故お花を咲かせる魔法をチョイスしたんですか⋯⋯? 他に覚えるべき魔法があったのでは⋯⋯」


「あっ⋯⋯⋯⋯」


 暫しの間、微妙な空気感が流れた後に、既に夕日が沈みかけている事に気が付いた。



「わっ! もうこんな時間。帰らないと母様に怒られる!」


「ああ、フレムちゃんのお母さん怖いもんね⋯⋯」


「なら帰りは送っていきますよ。後ろに乗って下さい」



 リリーエ師匠はホウキを取り出して、後ろに乗るように促す。


 あれ、待って下さい。ここは山奥ですし、二人ともどうやってきたんでしょうか。十歳程度の子供の足で来るのは至難なはず。


「あの、今朝二人はどうやってここまで来たんですか?」


「え? 普通に羽で飛んできたよ⋯⋯?」


「はい? 羽?」


「私達エルフは、自在に羽を出す事ができるから」


 アクリアさんは、至って普通の事の様に答える。

 というか⋯⋯エルフだったなんて気付かなかった、言われてみれば耳の形が少し尖っている。



「まあ、羽で飛んでくるのも疲れるんだけどね! せんせー後ろ乗せてー」


「私も、失礼します⋯⋯」



 二人は、リリーエ師匠のほうきに跨る。


「それではレミリエル、お二人を送ってくるのでいい子で留守番していてくださいね」


「私の事幾つだと思ってるんですか⋯⋯」


 リリーエ師匠は放っておいて、この二人とは次にいつ会えるんだろうか。お別れしても、友達でいられるのか、関係性は続くのか漠然と不安になる。



「じゃあね! レミリエルちゃん」


「レミリエルちゃん⋯⋯また会おうね」


 別れの言葉を告げる彼女達に、言葉が詰まる。


 どうして、そんなにあっさりとしているんですか? 本当に友達だと思ってくれているんですか?



「あのっ、さよならしても⋯⋯私達友達ですよね?」


「当たり前じゃない! 何回さよならしても友達よ!」


「友達って、そんな簡単に終わる関係性じゃないと思う⋯⋯」


 二人の言葉に、安堵の気持ちが募る。

 そして、何時にもなく胸が高揚している。



「また、会いましょう。それまで元気でいて下さいね。さようなら」


「うん! 私達ももうすぐ魔法学校に通うから、その時毎日会えるね! さようなら!」


「レミリエルちゃん⋯⋯さようなら」



 私達は、次の再会を約束して、別れた。



 沈みかけた夕日が眩しかったが、私は、何時までもリリーエ師匠の後ろに乗った二人に手を振っていた。


 ⋯⋯⋯⋯次、早く会えるといいなぁ。

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