第2話 魔法試験

 魔法の勉強を開始して早六時間。

 困難を極めることも予想されましたが、意外にもすんなりと進んでいきました。


 確かに頭を使う所はありますが、私たちで言う所の公式を頭に叩き込んでおけば、解けない問題は無いし、暗記も多い。

 真に理解しなくても点数自体は取れそうです。


 あのシルバーネさん達が馬鹿なのか、私が天才なのか。んー、両方ですかね。


「えっと⋯⋯次は、あっ、もう範囲終わりですか? チョロいですねー魔法の勉強って」


 私は一日とかからずに魔法の勉強を終えると、自分の驚異的な順応能力に酔いしれつつも、喉の乾きを感じました。


「何か飲みたいですけど⋯⋯、何処で飲み物って貰えるんでしょう。私まだお金の使い方とか分からないんですけど」


 私は顎に手を当てて、それっぽいポーズで考える。

 誰かに聞く?もし魔物ばかりだったら流石に怖いし避けたい。

 そんな時、扉をノックする音がした。

 身構えながらも、「どうぞ?」という返事をする。

 扉が開き、翠色の髪と瞳に、綺麗な顔立ちをした女性が何やら食事を持って、部屋に入ってきた。ちなみに見た目は人間みたいだ。



「失礼致します。レミリエル様、食事の御用意が出来ましたので持って参りました」


「はい? ご飯持ってきてくれるんですか?」


「はぁ⋯⋯ずっとそうだったじゃないですか。魔法学校の首席様特典の一つです」



 ほほう、いいことを聞きました。首席だと飲食が部屋に自動的に運ばれるわけですか。それに、首席特典なる物があるんですね。



「ちなみに、首席特典って他に何がありましたっけ? 少しド忘れしてしまいまして」


「えと、学費免除と、飲食無料で持ち運びと、寮代無料と、個人で部屋にお風呂がついてる権利と、高級ベッドと、外出の自由と、師匠を自由に選ぶ権利です」


 私が大根役者っぷりを発揮しながら聞くと、女性は特典を羅列していった。

 聞く感じによると制限なく生活が出来そうだ。お金もかからなさそうだし。

 ただ、師匠を選ぶ権利というのか気になる。



「あの、師匠を選ぶ権利って?」


「魔法学校では教師から団体の中で魔法を教えて頂くんですけど、成績優秀者は先生が師匠となり、個別で教えて頂けるんです、その師匠を自由に選ぶ権利です」


 成程。師匠ですか。

 確かに、この世界では魔法が必要みたいだし覚えるに越したことはないし、個別教えて貰えるのならまあまあ助かる。



「ちなみに、レミリエル様のお師匠様が試験終了後に来いと言っていましたよ」


「あ、え、私もう師匠いる感じなんですね」



 恐らく当たり前の事を何度も質問してくる私に女性は、「悩み事があったら聞きますからね、それでは失礼致します」と部屋を出た。


「師匠かぁ⋯⋯。誰かに何かを教わるのは何年ぶりでしょうか。直ぐに追い抜いて立つ瀬を無くしてしまったらと考えると憂鬱です⋯⋯」


 私は贅沢な悩みを抱えつつ、高級ベッドとやらに横になる。外見はまるでお姫様が使うようで、上から幕が垂れている。

 正直落ち着かないが、寝心地は高級なだけあって中々良い。


 私は直ぐに眠りに落ちた。異世界生活初日で、疲れていたのかもしれない。




 翌朝、私は鳥の鳴き声で目を覚ました。眠い目を擦り、鏡で自分の顔を見る。

 相変わらず、白髪の髪に翠色の瞳をしている、そして可愛い。

 私はアホ毛が立っていることに気付き、丁寧にくしで寝癖を治す。ちなみにくしは部屋を探索している時にたまたま見つけたものだ。


 これ、昨日着てたやつですけどまだ着れますよね⋯⋯。よし、着ましょう」


 私は昨日着て、床に脱ぎ捨てておいた魔法使いのローブを身に纏う。大丈夫、まだ着れる。三角帽子もあったが、サイズが大きくて邪魔だったので部屋の隅に投げ捨てておいた。


 壁に掛けてある時計を見ると、時刻は九時を回っていた。異世界でも私の前の世界と同じ時時間軸で回っているのなら、学校はもう始まっている。


 まあこれも首席特典とかで何とかなるはずです。あれ、ならなかったでしたっけ?


 私は、とりあえず鍵と参考書等々を適当に無地の手提げ袋に詰め、寮を出た。

 寮から五分ほど歩いた所で、魔法学校に到着した。

 近くで見るとよくその大きさが分かる。寮も大きかったが、比べ物にならない。


「一体いくら位かけて建てたのでしょうか⋯⋯」


 私はいらぬ事を考えながら、大きな扉の前まで来た。ちなみに遅刻扱いのようで、既に門が閉まってあったが、無理やりよじ登って侵入した。


 扉は大きいだけあり、中々に重かったが、「ふぬぬ⋯⋯」と目一杯力を込めて押すと、何とか私が通れる程度まで開いた。


 中は、無駄にだだっ広く、二階へと続く階段と幾つもの大きな扉が目に飛び込んできた。

 そして、紅いカーペットが敷いてあったり、シャンデリアがぶら下げられていたりと、やたらと装飾が凝っていた。


「なんだかお金の匂いがしますねぇ⋯⋯。魔法学校って儲かっているんでしょうか、学費がめちゃくちゃ高いとか」


 まあ私は無料なんですけどね。

 内心、勝ち誇った気になりながら目の前にあった一番大きな扉を開いてみようとする。

 ただ、あまりの大きさに私の力ではビクともしない。絶対見栄を張ろうとしたが故に、扉のサイズをミスっている。


「あのー、誰かいませんかー。開けてください、首席のレミリエルです」


 とりあえず私は部屋の扉をドンドンと力一杯に叩いた。後、首席のレミリエルと言っておけば何とかなりそうな気がした。


 十秒程度たった後に、大きな扉は開いた。

 中から年老いたローブと三角帽子を着込んだ魔法使いが、難しい顔をして私の顔を覗き込んできた。


「あの、レミリエルさん? 試験ギリギリに来るのやめて貰えます?皆集中して自習に取り組んでいるのに騒ぎ立てる様な事をしないでください」、老婆は心底迷惑そうに、眉を寄せて私を咎める。


 ちなみに今日が試験とは知らずに来た事は口が裂けても言えない。

 老婆は「入ってください」と私を中に入れてくれた。

 大講堂の様な部屋で、沢山のテーブルに生徒がぎっしりと詰まっており、各々参考書を見たり、書いたり自習に励んでいる。


 そして中には私に「チッ⋯⋯遅れてくるとか舐めてんのかよ」、「人間の癖にイキってんじゃねぇよ」等との不満の声を囁く者達もいた。

 その方達は、人間の様な見た目だったり、ゾンビの様な見た目だったり、多様性に富みすぎてはいませんか?と首を傾げたくなる程だ。


 後、イキりはどちらでしょうか。


 そして陰口を叩くものの中にシルバーネさんの姿があった。

 否、陰口ではなく彼女は堂々と私に文句を垂れてきた。




「ちょっと! レミリエル、真面目に自習している人達が大勢いる中で良くもまあ遅れてきた上に騒げるわね」


「ドアが開かなくて⋯⋯騒いだつもりは無かったんですけど」


「はぁ? そんなの魔法で開けばいいじゃない」



 怒りを露わにするシルバーネさんを他所に、あれは魔法で開くのが正解なのか、と一人納得した。



「はーい、試験を開始するので皆さん席について!」、老婆魔法使いの呼び掛けで、生徒たちは自習道具を終い、試験の雰囲気を作る。



「レミリエル、詫びなさいよ!」


「試験始まっちゃいますよ? 座らなくていいんですか?」


 私は既に呼び掛け共に、空いている席に着席していたけど、シルバーネさんは私の横で直立しながら私の気に入らない点を永遠と垂れ流している。その減らず口絶やしてやろうか。


「ちょっと、シルバーネさん! 早く席について、受験資格が無いと見なすわよ!」


「ひゃっ!? す、すみません、座ります」


 シルバーネさんは老婆魔法使いに一喝されると、情けない声を上げて、慌てたように着席する。

 しかも、何故か私の隣に。咄嗟のことで、本人もそのつもりが無かったらしく、「カンニングしないでよね」等と小声で喚いている。


 黙れ、私は万年カンニングされてきた側です。


「試験開始!!」


 老婆魔法使いの合図で、生徒達は一斉に試験問題を解き始める。

 カリカリというペンで書く音が部屋中に響き渡る。


 ちなみに私は書きなれない羽根ペンに苦戦していた。はい、別にどうでもいいですね。


 試験問題は至って簡単。何故かって、既に何処から出るか範囲が決まっているからだ。

 出題範囲を覚えるだけで点数が取れるんだから楽なものだ。

 私は覚えたての魔法式を次から次へと書いていく。すぐに空白は埋まり、退屈な時間が訪れる。

 見直しという概念がない私は、そのまま机に突っ伏して眠りについた。



「試験終了!! 皆さん、筆を置いて!!」



 老婆魔法使いの声で、私は目が覚めた。

 どうやら試験が終了したみたいだ。


「これより解答用紙を集めます。皆さん、こちらの箱に解答用紙を入れてください」


 老婆が指示する箱に、生徒たちは一斉に解答用紙を持って歩き出す。私もそれについて行った。


 一通り、全員が解答用紙を提出すると、老婆魔法使いは「これより、成績優秀者を発表する!」と声を張る。


 え、もう? 普通、成績発表はテスト後、数日は空くものだと思うんですけど。今テスト終わったばっかりなんですけど。

 もしかしたら、自動採点なんて都合のいい魔法があるのかもしれない。


 老婆魔法使いにより、十位から順々に成績優秀者が発表されていく、現在三位まで発表されたが、未だ私の名前は呼ばれていない。


「二位、シルバーネ! 一位レミリエル!!」


 ようやく私の名前が呼ばれた。

 どうやら無事、首席の座は守れたみたいだ。

 そして、横からシルバーネさんが物凄い形相で睨んでくる。ベタな事に、ハンカチを恨めしそうに咥えて「きっ〜」というのを見事に再現している。


 シルバーネさんに難癖を付けられるのが嫌だったので、私はそッと大講堂を後にした。

 ちなみに他の方が重い扉を開けたタイミングで一緒に失礼させて頂いた。


「そういえば、師匠とやらに試験が終わったら来いと言われていたんでした。仕方ないので出向いてやりますか」


 私は殆どが未知の領域の魔法学校を師匠求めて探索をし始めた。





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