第1話 目覚めたら魔法の国
暗闇に沈んだ意識の外から、何やら騒がしい音が聞こえる。
どうやら音の正体は鳥の鳴き声みたいだ。
仕方なく、私は重い瞼を開く。
「は?」
私の第一声だ。
本当に「は?」なのだ。目を開くと、見たことの無い天井が飛んできた。直ぐにそこが病院だと察しが付き、ゆっくりと身体を起こしてみる。
意外にも、身体は直ぐに起き上がった。痛みはなく、本当に撥ねられたのか不思議になるほどだった。
「は?」
ここで第二声の「は?」が登場。
私が病院だ思って身体を起こすと、そこには病院等とは程遠い景色が広がっていた。
「なんですか、ここ⋯⋯」
私の視界には、まるで中世ヨーロッパの様な部屋が入り込んできた。木組みの窓に、貴族のようなベッド、紅い絨毯の上には、「これぞ木」と言わんばかりのテーブルが置いてある。
他にも、本棚や諸々の小物が並べられている。
「あ、え、拉致監禁?」
普段取り乱さない私だけど、今回ばかりは大いに取り乱した。
とりあえず、現状把握をしようと思って部屋の探索を始める。
とりあえずタンスなどは遠慮なく開けていく。
「入っているのは服ばかり⋯⋯それにしても黒い服多すぎませんか?」
ブツブツと服のセンスに文句を言いつつも、私はテーブルに置いてある数枚の紙切れを見つけた。
何かの手掛かりになればと思い、その紙を手に取り、読み漁る。
手紙に書かれている文字は、日本語ではなく見た事もない文字だった。
ただ、不思議と読むことはできた。
「えっと⋯⋯これを見ているという事は貴女は今、私の部屋にいるでしょう⋯⋯」
ふむふむ、どうやらここは手紙を書いた方の部屋ということですか。
私は更に手紙を読み進める。
「私はレミリエルという魔法使いです。簡潔に言うと、私はこことは異なる次元の別世界を見つけました。この世界では天才過ぎるあまりに退屈で、私を嫌う者も多いです。なので、人生をやり直すべく貴女と私の精神を入れ替えました」
全くもって理解不能な文章だ。魔法使いというのも私を舐めているのか、
それに自分で自分を天才だなんて言う奴にろくな奴がいるわけが無い。
「それで⋯⋯貴女にはレミリエルとして生きてもらいたいです。それと、同情から文字は読めるようにしています」
ここで察しの早い私は少し嫌な予感がした。見たことも無い文字を読めている、それに魔法使いという文字。
慌てて部屋の中から鏡を見つけて、自分の顔を覗き込んでみる。
「誰ですか⋯⋯。これ⋯⋯」
鏡に映ったのは、見慣れた私の顔ではなく、長い白髪に翠色の瞳、可愛らしい西洋風の顔立ちをしていました。
それに、まるで魔女の様なローブを着込んでいた。
呆然としながらも、私は手紙に目を移す。
まだ続きがある様で、私は食い入るように読み入った。
「ちなみに、この私は魔法学校だとぶっきりで主席だから、評価を落とさないように頑張って下さいね」
そう綴られて、手紙は終わっていた。
成程、たかが学校の成績が良いからって自分を天才だと思い込んでいる馬鹿なタイプか。
世界の広さを知るがいい。愚か者め。
後、今気付きましたが、私事故に遭いましたよね?精神を入れ替えた所で、既に私の身体は虫の息なはずじゃ。もしかして、このレミリエルという方は最悪なタイミンで身体を入れ替えてしまったのでは⋯⋯。
まあ、その辺を考えるのをやめにしよう。
「その前に⋯⋯私の株で稼いだお金⋯⋯」
ここで私の思考は以前の生活に移る。
まず真っ先に頭に浮かんだのは、株取引で得た多額のお金だった。アレを一気に失うのは流石に辛いものがある⋯⋯。
それと学校だ。今のままの学力を維持していれば、名門大学への進学だって可能だ。
幾ら命が助かったからって、やはり名残惜しい。
「実はまだ私の身体は生きていて、なんとか戻れたりは⋯⋯あれ? 直ぐに戻る必要あります?」
ここで私は自分の考えに疑問を持ち始めた。
確かに、五体満足な状態で戻ることが出来れば、華やかな人生が待っているだろう。
けどいくらお金があっても、頭が良くても、あの世界で私が満たされる事はなかった。
なら、私の身体が無事か確かめる方法を模索しながら、ある程度こちらの生活を楽しむのもありじゃないか。
「私は天才です。こっちの世界でもやっていけます」
自分でも驚く程の飲み込みの速さで、こちらの世界での生活を決めた。
そして、手紙の近くに部屋の鍵が置いてあるのを見つけた。
「鍵も見つけたことですし、とりあえず外に出てみますか」
鍵を持ち、部屋の扉を開けると、そこは外ではなく室内で廊下のようだった。
扉を閉めると、一号室と書かれているプレートを見つけた。
私の視界には、他にも同じように幾つも番号が書かれている扉があった。
魔法学校という口ぶりからするに、寮という事だろう。
ということは私の部屋が一号室か。
「あっ、おはようございます⋯⋯⋯⋯」
「ひっ⋯⋯!?」
私は悲鳴をあげる。
挨拶されただけなら、悲鳴など上げはしないが、挨拶してきた相手が毛むくじゃらの、まるで獣人のような姿をしていた。
「あの、レミリエルさん。どうかされましたか?」
「え、あ、いえ。何でもありません。随分ハイクオリティなコスプレですね?」
獣人は私の異変に気が付き、様子を伺ってくる。私は何とか平静を保ち、コスプレかと聞き返すと、獣人は首を傾げ始めた。
「あの、コスプレって⋯⋯?」
「はい? それ、コスプレじゃないんですか?」
「よく分からないですけど⋯⋯私は産まれた時からこの姿ですよ?」
獣人は最後まで不思議そうな顔をして、私の元を去っていった。
まさか、この世界⋯⋯獣人とか化け物が平気でいる世界ではないですよね⋯⋯。
私は、暫く廊下を渡ると外への扉を見つけた。
思い切って「えい!」と扉を開ける。
外の世界は、日本と同じように澄んだ空をしていた。辺りは木で生い茂っていて、そして少し離れた所に、まるでお城のような建物が目に飛び込んでくる。
「うわ⋯⋯お城だ。めちゃくちゃファンタジーです」
まあ、殆どファンタジーの世界なんでしょうけど。
自分で自分の感想に突っ込みを入れた所で、私はお城の様な建物の正体が知りたくなった。
丁度私の目の前に女性がいる。肌は随分白いが、人間みたいだ。聞いてみよう。
「あの、ちょっと宜しいですか?」
「え、は? レミリエル⋯⋯アンタ、何の用よ」
私が声を掛けた女性は、色白で緋色の瞳にツインテールの銀髪少女でした。そして背が低い。
どうやらわたしを知っているようで、何故か敵意をむき出しにして睨んでくる。絶対これ因縁をつけられてるやつだ⋯⋯。
「お忙しい中すみません、あの建物ってなんですか?」
「は? 魔法学校がどうしたのよ。それより、次の試験は私が一位を取るんだから、震えて待っていなさい」
機嫌が悪そうなので、私は下手にでながらお城の様な建物を指さし聞くと、敵意剥き出しの癖に簡単にそれが魔法学校だと答えてくれた。
ふふふ、ちょろい⋯⋯。
そして聞き捨てならないのが、次の試験というワード。
「え、試験とかあるんですか? というか負けないわよって⋯⋯」
「あるに決まってるでしょ! アンタ今日変よ? あ、変なのは何時もだけど⋯⋯。前回の魔法試験はアンタが一位で私が二位、今度こそ首席の座を奪ってやるわ」
銀髪少女は私を指さして勢いよく言い放った。
「人に指さしたらいけないんですよー」と言ってやりたい。
「大体私が今まで人間なんかに遅れをとっていたのがおかしいのよ、劣等種!」
「とすると、貴女は人間じゃないんですか?」
「私は誇り高き吸血鬼、シルバーネ。魔力だって劣等種の人間と比べて何倍もあるわ、次の試験、地面を舐めさせてあげるわ」
あ、自己紹介してくれとまでは言ってないんですけどね。
名乗ってくれたのなら好都合、確かに口を開いた時に歯が牙のように尖っていたり、服装も黒のワンピースで、如何にも吸血鬼って感じがする。
そして、シルバーネさんの事はよく知らないけど、いきなり劣等種扱いされるのは腹が立つ。
聞く所によると私より劣っているくせに。
「シルバーネさん、これ見てください」、なので私は指で十字架を作って見せてみる。
「えっ⋯⋯昼間にそれやられるとヤバいから、くそっ、覚えてなさい!」
シルバーネさんは、予想通りに私の十字架にやられ、捨て台詞を吐いて逃げていった。
ふふふ、ちょろいですね。魔物の類も弱点さえ分かればこの程度ですか。
私は、一旦寮へと戻った。
寮の外観は木組みで出来ていて、大きさがそこそこ立派なショッピングモール程あり驚いた。
それだけ魔法学校の生徒が多いという事なのだろう。
部屋へ戻ると、私はまだ見ていなかった本棚から幾つかの参考書を見つけた。
「シルバーネさんが地を舐めさせてやるとか言っていたので、試験というのは魔法による生徒同士の戦闘でしょうか」
私は参考書に、「試験範囲」という紙が挟まっているのを見つけた。
そして、その紙には参考書のページ数と、今回の試験には実技はありませんと書かれてあった。
「いやめちゃくちゃ筆記じゃないですか、紛らわしいんですよ」
私は嘆息を漏らしつつ、試験とやらに向けて魔法の勉強を開始した。
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