レミリエルと魔法の国
しゃる
プロローグ 私は天才だ
私は天才だ。
これは調子に乗っているわけでは無く、紛れもない事実だ。
漫画等の娯楽物の様な話だが。
幼い頃から成績は常に優秀、三桁以外の点数なんて殆ど取ったことがなかった。中学に上がると、自分にかかる費用は全て株取引で得たお金で賄っていた。いわゆる株トレーダーだ。
難関と言われた高校にも楽々と進学し、常にトップの成績を納め続けて、日本でも有数の大学に進学するつもりだ。
何事も自分一人の力で出来てしまうから、学校に行く必要性も感じられず、単位の足りる範囲でよく休む。
教師に進学に響くと言われたので、「筆記で全て満点を叩き出せば問題ないのでは」と素直な感想を述べたら、「お前は馬鹿だ。世の中そんなに上手くいかない」と罵られた。
何故かは知らないがクラスメイト達にもいい顔はされなかった。私が何をしたのか、皆目見当もつかなかったから、原因を探るのは辞めた。
だって、どうせ嫉妬や妬みの類なのは分かりきってる。
私は、自分より脳の無い相手の意見なんて気に留めない。ましてや、親の金で立派な家に住み、温かい食事を摂る、自分一人じゃ何も出来ない人間の意見なんて、何の役にも立たないに決まっている。
両親からは、「人の意見を聞け。自分が全て正しいと思うな」と口を酸っぱくして言われてきたが、私は既に両親以上にお金を稼ぎ、自分で全てを賄っているのだから、偉そうに言われる筋合いはない。
今朝だってそうだ、「学校に行け、勉強してこい」と父と母から怒鳴られた。そして極めつけには、父親は、「俺は若い頃もっと勉強をしておけば良かったと後悔しているから、お前にはそうなって欲しくない」、等と自分語りを初めだす始末だ。何故か母親も同調している。
「それは貴方の話でしょ? 一括りにしないで下さい」、と言いたくなるが、下手に反論すると嫌に長引く事は目に見えている。
だから、仕方なく「はいはい、行ってきますよ」と従順に身支度をする。
仕方なくワイシャツに袖を通し、適当に教科書を鞄に詰めて、靴を履く。
大体靴を履いた辺りで、「朝ごはんは食べないの?」と大声で問われる。そんなに大きな声を出さなくても聞こえているから静かにして欲しい。
時間を考えて欲しい、貴方たちの説教のせいで時間を喰い、直ぐに家出なければ遅刻だと言うのに。
朝食を摂る時間なんてないに決まってる。
「何とか間に合いました⋯⋯」
結局朝食を摂らずに家を出て、何とか時間内に間に合うも、遅刻を免れた喜びを分かち合う友達などいないので、一人でにボソリと呟く。まあ必要性を感じ無いから作らないだけなんですけど。
教室に入ると、一斉に視線を感じる。
まあすぐに目線を逸らされて、「今日は来たんだ、アイツ」、「胸小さいけど顔だけは好みなんだよな」、等と小声で陰口を叩き始める。
後者の会話は、セクハラで幾らかもぎ取ってやれないか、頭の中で計算する。
そんな事をしている間に、一限目の授業が始まった。
古典の教師が、今日も熱弁を奮っている。まあ勢いだけで、時折ミスがあるのに気付くけど、特に言及しない。面倒くさいし。
授業開始から五分経過、圧倒的につまらない。全て知っているし、理解しているから目新しさも無い。
頼むから帰らせて欲しい。いや、もう帰ろう。
「すみません、体調が悪いので保健室に行ってもいいですか?」
「あ、え⋯⋯始まって五分だけど⋯⋯」
「ああ、ありがとうございます。行ってきます」
何か言いたげな古典の教師を強引に遮り、私は荷物を纏めて教室を出て保健室に向かう。
その際にも、クラス中の視線が私に集まった。
保健室の引き戸を、ガラガラと音を立てて開ける。
保健室の中でコーヒーを飲んで寛いでいた保健教師は、「げ、また来たのかよ」という明らかに気だるそうな目で私を見る。
教師はまだ若く、長くボサボサに伸びた髪を見ると相当な面倒くさがりだと言う事が分かる。
「はいはい、今日はどうしたのー?」
「体調が悪いです。帰ります」
「あ、もう帰ること断定しちゃってるんだ。え、じゃあなんの報告?」
「帰る報告です。確かに伝えましたので、さようなら」
保健教師は、「うぃー」と適当な返事をする。上手く帰れる事が決まった私は、上機嫌から「うぃー」と返事をし返す。
扉を閉める際に、保健教師がクスリと笑った声がした。
本来ならば、保健室の先生の判断の元で保護者に電話をしたりして、帰るか決めるのだろうけど、何分ウチの保健教師の性格上そういうのが無いのは素直に助かる。
私は校門を出て、少し浮き足立ちながら家路を辿る。
はい、ここまでが私の日常です。
意外にも、本当に意外にも、私の人生はここで終わりを告げます。
横断歩道の信号が青になったのを確認して渡ったはずが、何故か暴走したトラックが私の身体を跳ね飛ばしました。
横断歩道を渡っていた人は、私以外にも大勢いたのに、何故か私だけを狙ったかのように突っ込んできました。
まるで故意では無いか、という疑念を抱かざる得ない。
辛うじて、視界を横たわるアスファルトに向けると、血に染まっていた。
唐突だったせいか、私程の天才がこんな所で死ぬなんてと嘆く事も、血に染るアスファルトに恐怖を覚える事もなく、意識だけが遠ざかっていく。
そして、恐らく現場に言わせた人が興味半分でカメラを構え、耳に残る不快なシャッター音が鳴り響く。
私の脳内はシャッター音に奪われ、意識は闇の底へと遠のいていった。
既に虫の息だった私は、きっとこの日に死んだんだろう。
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