うちの妹は彼女よりも強い

神凪柑奈

妹の圧が強すぎる話がしたい

 俺、朱鷺時雨ときしぐれには妹がいる。遥音はるねという名を持つ俺の妹は、一言で言えばただのヤバい奴だ。


「と、いうことで。お前はいつになったら帰って来れるんだ? もうすぐ春休みだぞ?」

『ごめんなさい、わからないわ』

「……そうか」

『時雨、大丈夫よ。いつか帰るわ。もしかして、私が浮気とかすると思っているの?』

「それはもうミジンコレベルほども思ってないけど」

『そうよね』


 彼女は俺のガールフレンドであり幼馴染みの詩奈しいな。そして、俺が詩奈と話しているときに横槍を入れてくるのは大体奴だ。


「お兄!」

『……元気ね、あなたの妹は』

「本日も穏やかな日常がぶっ壊される時間がやってまいりました。コメンテーターは俺、時雨と」

『詩奈です』

「なにしてんの。ほらお兄遊び行こ?」

「遥音、俺は今詩奈と電話をしてる」

「うん」

『遥音ちゃん、電話の邪魔はしちゃ駄目なのよ』

「うん。馬鹿にしてる? これでも私お兄の一個下だからね?」

「それを理解しているなら話は早くてな」


 遥音を抱えあげて、部屋から出る。そこにそっと遥音を置いて、扉を閉めてついでに施錠。完璧だ、これで平穏が戻ってくる。


「お兄ー」

『……構ってあげれば?』

「詩奈と話せる時間は限られてるんだよ」

『こんな状態じゃまともに話なんて出来ないわよ。それに、もうそろそろ外出規制も終わるからそんなに会いたいなら顔見せに行くから』

「でもなぁ……」


 さて、ここで考えてみよう。俺と詩奈が話しているこの数秒間、朱鷺遥音は静かだった。それはつまり、どういうことか。

 急いで窓へ向かう。ここは2階、普通の人類ならまず入ろうとは思わない。玄関があるのだから。


「ねえお兄」

「……怖こいつ」

『窓、ね。すごい身体能力よね、素直に尊敬するわ』

「何も尊敬するところがない」

「そう? お兄の頭と同じくらい使えるよ?」

「使うところを間違えるくらいなら捨ててしまえそんな運動神経」

『……ふふふっ、相変わらずね』

「「なにが」」


 まさかこの馬鹿に毒されて詩奈までおかしくなってしまったのか。嫌だそんな世界は。やめてくれ。距離が近いランキング一位は既にやばいやつなんだ。


『このまま見てるとヤキモチ妬いちゃいそう』

「……はぁ?」

「あ、やっと諦める気になった? そーですお兄はあたしのものです」

「はっはっはー誰かのものになったタイミングは一度たりともないんだが?」

『私のものじゃなかったんだ……』

「……ごめん、やっぱ俺詩奈のもんだわ」

『別に気を遣わなくても大丈夫よ?』

「くそ可愛かったから……」

「惚気けるな画面割るぞ」


 知ってるか、幼馴染みってこんなに可愛いんだぞ。知ってるか妹よ。少しは見習え。


「でもまあ、そうだな」

『どうしたの?』

「いや、こんなご時世だからあんまり遥音の相手もしてなかったなーと」

「お?」

『だからといって』

「相手をするとも言ってないけど」

「……詩奈さんってときどきめちゃくちゃ腹立つよね。画面割ろ」

「それで被害を被るのは俺なんだが?」


 三人で笑って、そんないつも通りが続いていることに少しだけ嬉しくなる。

 致死率とか、そんなことじゃない。仮に詩奈や遥音が感染すれば俺は気が気じゃないだろう。


「えっ、急に暗。なんなんお兄」

『時雨、ちょっと変よ?』

「いや、なんでもない」

「詩奈さんと喋ってるからそうなるんじゃない?」

『……えっ』

「違うぞ」

『……気を遣わなくてもいいのよ?』

「おい遥音」

「やったぜ」


 軽く頭を叩くとかなりオーバーなリアクションをとってくれる。詩奈とて本気で落ち込んでいたわけではないので、それで空気は元通りだ。


「詩奈が帰ってきたら、三人でどっか行こうな」

「あたしはお兄と二人でもいーよ?」

『それは私が許さないわ。私も混ぜなさい。寂しいじゃない』

「しゃーないなー」

「じゃあ俺と詩奈の二人な」

『適当に宿の予約でもしておこうかしら』

「やだーあたしも行くー」

「ほら、三人でいいんだよ」

『ふふふっ、楽しみねー』

「だから、早く帰ってきてよ。あたしも詩奈さん弄りたいんだから」

『はいはい』


 願わくばこんな時間が続いてくれたらな、なんて。そんな当然のことをちょっと特別だと思うことにしてみた。

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うちの妹は彼女よりも強い 神凪柑奈 @Hohoemi

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