第3話 自信

瑠璃はアパートの部屋に戻って、ベットに滑り込み、布団を被った。頭には違和感の謎で埋め尽くされていく。なんで、わざわざ買ってくれたパン押し付けるように、相手に返してしまったのだろう。

 布団から顔を出して、部屋の薄暗い明かりに問いかける。当然、誰からの返事などない。どうにか答えが欲しい。でも、真っ当な答えなど、今の現状は存在すらしない。ぶつぶつと独り言を発して、納得する答えを探して、どうにか自分を納得させようと考えても、眠気だけが襲ってくるだけだった。


目を擦ると、意識が蘇る。また寝てしまった。また、現実逃避が発症した。時計を見ると、短い針が、6の数字を少し過ぎたところを差している。ベッドから降りて、カーテンを開ける。当然、外は暗く染まっていた。陽が登っている間は、全く起きていられない。そんな日々を9ヶ月は過ごしてしまっている。

ボッーと、床に引いてあるマットに座る。どう生きていこう。ああ、死にたい。でも、遺体はどうなるのだろう。いつ見つかるのだろう。そんな不安で、死ぬ勇気すらない。人間の終わりのような存在だ。

もう一度、あの公園に行こうか。頭が痛い。なんのために、行くのだろう。気分が滅入てくる。明日でいいかと、自分に折り合いをつけ始める。ああ、着替えたい。服を見ると、パジャマのままだった。公園に行った際も、パジャマで、行っていたのだろうか。朝、公園から戻ってきて、着替えた記憶がない。パジャマで公園に行ってしまったんだ。頭が張り裂けそうに、痛くなっていく。情けないその気持ちが脳裏に広がって、現実を見ることを避けたくなっていく。そして、マットに横になってしまう。何も考えなくない。とりあえず、明日になることを願いながら、腕で目を隠してしまう。

 

目が覚めると、4時を回っている。着替えよう。お風呂に入って、全身にシャワーを浴びる。また、1日を無駄に過ごさないようにと、願いながら、体を洗っていく。

髪の毛を乾かして、着替えて、公園に向かう。そこは静まりかえっていて、変なスッキリ感が全身を覆っていく。

「今日も来られたんですね」

そこにいたのは、昨日の女性だ。少し嬉しくなった。どこかで、会いたいと言う気持ちがあったことに、瑠璃は驚いた。また、情けなさも同時に湧き上がってくる。そして、その場から逃げ出したくなる。昨日の態度を謝りたいのに、謝りきれない自分がそこにいる。

「これ、食べてください」

昨日と、同じ、メロンパンとミルクのパックだ。受け取ることに、抵抗があったが、同じ態度を取ることも、できないでいる。とりあえず、相手の顔を見ないで、受け取った。

女性は隣に座って、

「あの、もし、、、」

何かを言いたそうにしている。瑠璃は何の反応もできなかった。

「働き口を探しているのなら、うちの工場で働きませんか?」

瑠璃は唖然と相手の顔を見てしまっていた。

「嫌なら、良いんです」

そんなことを言ってくれた女性に、なんと返せば良いのか。瑠璃の無い脳が動く。無職だと思われていたことのショックと、働ける場所が見つかったとという気持ちが同時に起きてしまった。

でも、またクビになるのがいやだ。その気持ちが湧いてくる。いつもそうだ。クビになるのが怖い。仕事ができない自分が、親切なことを壊してく。

「週一で構わないので、ゆっくり考えて、また連絡ください。」

女性は、そう言って、メールアドレスと電話番号を書いた紙を渡してきた。瑠璃はそれを無意識に受け取った。そして、女性はベンチに立ち上がり、公園を出て行った。

 どうしよう。本当に、働くことができるのだろうか。迷いはかすめる。今逃したら、こんなチャンスは無いのだ。

 迷いはあるが、働く場所を探すことに、抵抗もあった。騙されているかもと思ったが、家に帰って、電話で何を話したらいいのか分からないので、メールした。

返答は30分もしないうちに、返ってきた。明日、指定された場所に来てほしいという内容だった。 バス停を降りて、門をくぐって、奥に進んで、建物に入った。


それから、何年経つのだろう。このパン工場で働いて、もう10年が過ぎた。香織さんが、あの絶望感が漂っていた瑠璃に何かしたかっただけと言ってくれたことが、今の生活に繋がった。結婚にできて、子供を授かることができた。


あのメロンパンの味が、甘くて美味しかったことを思い出す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

静寂と始まり 一色 サラ @Saku89make

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ