第24話

「うーん、とりあえず今日はこれで解散しよっかー」


 八岐大蛇を倒して、ミオの元にやってきたシュンが聞いた第一声がこれだった。


「は?」


 あまりの物言いに思わず目が点となるシュンだったが、すぐにその表情が憤怒へと変わる。


「いやいや、ちゃんと説明を!!」


「シオンちゃんもこんな調子だし……いまここで説明したって誰か来るかもよ? それくらいならあとで説明した方がよくないー?」


 シオンは疲れているのか肩で息をしているし、ヒナとヤナもミオに聞きたいことがありそうな感じだ。もちろん、シュンも。


 そしてそれは正論なのだが、この傍若無人な師匠であるミオに言われるとなぜか無性に腹が立つのは間違いない。


 そんなシュンの感情を見抜いたのか、ミオが苦笑しながら口を開く。


「ほら、後日キチンと説明してあげるから落ち着いて。あ、そうそう、シオンちゃんとリカルド君のお孫ちゃん達はシュン君の事も含めて他言無用だよー? 言ったらどうなるか分からないからね?」


 最後の一言には本気の殺気が含まれていた。軽いものだが、S級 《魔導戦士》の殺気を間近て浴びた三人は怯えたように頷いていた。


「……了解しました」


 シュンに続いて、シオン、ヒナ、ヤナも返事をする。


「わ、わかりました」


「わ、わかったかなー」


「わ、わかったのです」


「うんうん、じゃあまたねー!」


 子供が公園でまた明日ねーとでも言うかのようなテンションで手を振って見送るミオ。

 







 完全に全員の姿が見えなくなり、周囲に誰もいなくなったところで、


「それで? 見ていてある程度納得したー?」


 そのまま、近くの木の陰に殺気を混ぜた視線を向ける。


「おっと……勘弁してくださいよ。こっちに戦闘の意思はないんですから」


「〝今〟はでしょー? エリア管轄特務機関構成員君? いや、それとも天羽士官学院高等部二年五十里カイト君って呼んだ方が良いかな?」


 手を上げながら出てきたのは茶髪で大柄な少年――ミオが名前を呼んだ五十里カイトだった。


「どちらでもお好きなように。それにそれも間違いじゃないですが、正確には〝今〟はじゃなく〝今回〟はですよ」


「まあ、いいやー。そういうことにしといてあげるー」


「そういうことではないんですけどね……」


 コホンと一つ咳払いをしたカイトが口を開く。


「関東エリアとしては今回のことに何も言う気はありません。シオン様は最上位能力者として目覚め、学院は危機感を持つようになり、さらに生徒の意識も改善された」


 アナタの狙い通りにね。にこやかにそう言ったカイトは次の瞬間には鋭い声音に変わっていた。


「ただ、もう一度このようなことをされますとこちらも対処せざるを得ません」


「なに? 私と本気でやろうっての?」


 ピリピリと肌が震えるような、空気が二人を包むがそれは一瞬にして霧散した。


「やるきも無いのによくもまあここまでの殺気を出せますね」


「そりゃちょっとは怒っているからねー」


「意図してアナタの弟子に近づいたわけではありませんよ。転校生のような不確定要素には私のようなものが付くのは知っているでしょうに」


「それは知っているけどー、出来ればキミじゃない方がよかったっていっているだけー」


「まあ、諦めてくださいな。こちらの見解はお伝えしたのでここで失礼させてもらいますよ。それともなにか有りますか? 言付けでも構いませんが」


「ないよー。使いっ走りに言っても意味ないしねー」


「……随分とひどいいざまですね。まあ、ここで失礼します!」


 カイトはそういうと音もなくその場から消え去った。


 完全にカイトの気配がなくなったところでミオがポツリと悪態をつく。


「ふん、あっちも中々狸だねー。でも、いいよ。こっちだってシュン君を最上位能力者と関わらせられたんだから」


 そのとき、月が雲に隠され暗闇があたりを包んだ。


「さて、お次はどうしようかなー」


 何かを漂わせるミオの声は誰にも聞かれず、月明かりにさえ照らされることはなかったのだった。


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精霊指定都市 海星めりい @raiki

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