第23話

 シュンが八岐大蛇と戦闘を始めて一〇分ほど、戦闘はほぼ互角といった状態だった。

 

 厳密には一手一手はシュンの方が押しているのだが再生能力せいで一進一退を繰り返している。

 

 そんな戦闘を遠目に見ながらシオンたちはミオのレクチャーを受けていた。


「ふむふむー、どうやらシオンちゃんは《空》属性みたいだねー」


「《空》属性……ですか?」


「そうそう、大ざっぱに説明しちゃうと空間に作用するものかなー」


 最上位四属性について知ったとはいえまだまだ初心者の域を出ていないシオンはミオの言葉を一言一句確かめるように呟いていく。


「最上位四属性は《時》、《幻》――」


「《空》、《無》って聞いたのです」


「おっ! リカルド君から聞いたのかな? その通りだよシュン君は《無》属性――不可視の攻撃や相手の攻撃を打ち消したりと多彩な事が出来るのが魅力だねー。といっても、最上位四属性はいずれも多彩なことは出来るんだけどさー」


 ヒナとヤナの疑問に答えて行くミオ。伏せなくていいのかもと思うのだが、すでにここまでバレているから同じ事だと考えているのだろう。


「私は《空》属性……空間に作用……」


「うんうん! 自分の出来ることを認識して……それでイメージするのだよシオンちゃん!」


 シオンは自分の能力がどんなものなのか確認するように目をつぶる。


 一方で八岐大蛇と戦っているシュンは、


 ――あっちが気になって集中でき……おっとあぶない


 ヒュオン!! と風を切って振るわれた首をシュンは屈んで避ける。さらに、別々の方向からブレスが飛んで来るも、そっちは《ストライクリッパー》で首を切ることで方向を変えさせる。


「こらーシュン君しっかりしろー!!」


 ――初心者を使って何かしようとしているアンタが言えることか!?


「《ゾディアックバースト》!!」


 首の二本に集中して《魔導》を使うことで確実に潰す。だが、やはり次の瞬間には再生が始まっている。


 ――どこが弱点なんだ? それともいつかこの再生能力は無くなるのか?


 八岐大蛇の逸話では酒を飲ますことで酔わせて倒したというものだが、《幻想種》であるこの八岐大蛇に同じ手が通用するとも思えない。


 ――他に……他に何かなかったか……八岐大蛇と言えば天叢雲剣……いやあれは倒したときに出てきたものだ。今回は関係ない……のか? 本当に?


 バッと八岐大蛇に目を向けると胴体は一つだがしっぽは八つある。首同様自由に動かせるようだが、一回も攻撃には使用してきていない。移動の際には使っているもののそれ以外には一切使っていない。


 首と違いブレスが放てなくともあの質量だ。振り回されれば、それだけ脅威となるはず。


 なのにそれを使ってこない?


 そのことにどこか引っかかったシュンが、反射的に《ストライクリッパー》を尾に向けて放つ。


「KUKYUOOOOOOOO!!」


 すると八岐大蛇の動きが明らかに変わった。尾を守ろうと首を差し出して防いだのだ。


 ――コイツ尻尾のどれかに弱点があるのか!!


 だが、それが分かったのに気付かれたのか八岐大蛇の動きが激しさを増していく。


「KUKYUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」


 再び吼えた八岐大蛇がシュン目掛け首の振り回しとブレスで攻撃を仕掛けてくる。先ほど吹っ飛ばした首も復活したのか、避けながらさばくだけで手一杯だ。


 そんな中、戦闘の余波から三人を守りながら、ミオは未だにシオンに言葉をかけ続けていた。


「そう、その感覚をしっかりと覚えて……落ち着いて力にのまれないようにねー」


「は、はい」


 ミオのアドバイスに従って、自分の《魔導発動機》を握りしめながらゆっくりと目をつむるシオン。その身体には黄金色の魔力があふれ出ており光り輝いていた。


「きれいかなー」


「神秘的なのです」


「うんうん! 自分の力は認識できているね……シオンちゃんの《魔導発動機》はおそらく最上位四属性にあわせられた特注品。キミの力を感じとれやすくしてくれているはずだよ。自信をもって……大丈夫すでに力は持っているから」


 どこか沈み込むような空間の中、シオンは過去の記憶を見ていた。


 泣いている幼い自分。《魔導》が上手く使えず暴走した自分。また別の方に目を向ければ鬼との戦闘で無力感を感じていた自分の姿もあった。


 そんな、数多の記憶の最後に力の塊のような光り輝く球体へとたどり着く。


『これは――』


 その球体に触れたときシオンは本当に自身の力に気付いたのだ。


「見えました!」


「なら、そのまま放ってー!!」


 シオンの《魔導発動機》から大きな魔法陣が飛び出したかと思うと一つの《魔導》が発動される。


「《ディメンションホール》!!」


 空色の球体が生み出され、八岐大蛇が吸い込まれていく。


 厳密には吸い込まれようとしているだろうか。逸話より小さいといえ巨大な八岐大蛇だ、自身の《幻想種》の能力も加えるとそう簡単に呑み込まれるとも思えない。


「KYUKUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」


 あらん限りの咆哮をあげ耐える八岐大蛇。


 まさに我慢比べだった。


 そして、そのまま数分が経過したが《空》属性に目覚めたばかりのシオンの方が先に音を上げてしまった。


「……はあ、はあ」


 そのせいで、折角の《魔導》も解除されてしまう。


「KUKYUOOO!!!」


 八岐大蛇が勝利したと言わんばかりの声を上げるが、


「ここに一人いるのを忘れているな!! 《シューティングスター》!!」


 シオンが作った八岐大蛇の隙は無駄ではなかった。


 シュンが放った小規模な星々に押しつぶされて、尻尾が全て消滅する。


 すると、甲高い物音ともに尻尾から一本の剣が顔を出し、次の瞬間には砕けてしまっていた。


 そのまま、八岐大蛇はその身体をグズグズに溶かしていく。復活していく様子はない。


「やったかなー!!」


「やったのです!!」


「や、やれました!!」


 それを見てヒナ、ヤナ、シオンの三人は喜びの声を上げる。


「まあ、なんとかなったか……」


 シュンも口の端に笑みを浮かべるのだった。

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