第19話

 天羽士官学院。校門から入ったシュン達はその惨状に思わず足を止めることとなった。


「痛え、痛えよ!」


「どうして……どうしてこんな……!」


 そこかしこに倒れている生徒達。怪我をしているのも多いようだが、致命傷や重傷を負っている者は一人もいないようだった。


「ひどいかなー」


「《クラン》活動さえもしていない生徒ではあまり戦えなかった可能性があるのです」


 痛ましそうに見ているのはヒナとヤナだ。

 《魔導》の力に頼ったとはいえ年下の少女が全力のシュンについてきたのは凄まじいの一言だろう。


 一方でその光景にシュンは眉をしかめるのではなく、怪訝そうな顔をする。


 ――ほとんどの生徒が倒れているのに侵入した幻想種や救済教団のメンバーがいない? どういうことだ? 


 怪我をしているということは戦闘があったということだ。あれだけの数で襲撃してきたのならば、怪我をして倒れている生徒にとどめを刺すのは容易だろう。


 それなのに、どうして無事なのか。


 そこでとある言葉が思い起こされた。


 ――なるほど、師匠があのとき言っていたのはこういうことか……!




『危機感が足りないんだよ、生徒だけでなく教師もさ』

『《ニル》として活動しているシュン君ならー、分かると思うけどー。私はね、契約は守るんだ。だってそれって、こんな世界において何事にも代えがたい信頼ものでしょ?』



 

 あのときシュンが見せられたのは学院と師匠が決めた契約。


 そう、学院の生徒を死なせないようにする取り決めだった。


 つまり、死ななければ契約違反にはならないということ。


 ――この状況を師匠が作り出した? いや、あり得ないな。あの人はそんなことはしない。


 師匠であるミオはシュンから見て、快楽主義者ともいえる傍若無人な存在ではあるがこんな面倒とも言える襲撃計画などたてるわけがなかった。


 随分と失礼な物言いだが長年つきあってきたシュンとしてはこう認識しているし、あながち間違いでもない。


 だが、襲撃を知っていてあえて無視していたら?


 自ら企てることはしなくてもその程度であればやるのがミオという《魔導戦士》だ。


 頭のネジの一本や二本外れていなくてはS魔導戦士など名乗れない。


 ――他の生徒は師匠に任せても問題はないな。なら、俺は自分の仕事を優先する。


「ここは放置でいい、行くぞ!」


「「分かったかなー(です)」」

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