第17話


「そこ!! 右から妖弧が来ています!! バリケードのように壁を厚くしなさい!! 消耗の激しい者は一度撤退を!! 今突出してきたのは僕が処理します!!《ニードルレイン》!! っく!? 仕留め損ないましたか!?」


 シュン達がやってきていたのは、先ほどまで戦っていた東口ではなく南口だった。そこでは見覚えのあるメガネの先輩が指揮をとっていた。


 だが、いかに理論派のリーダーといえど学生が指揮を執りながら戦闘するのは少々きつかったらしい。数匹の《幻想種》がニードルレインの効果範囲を抜けてきていた。


「《フレイムタワー》!!」


「「「「GUGYA!?(KUOOO!?)」」」」


「やっほー、レイヤ援護に来たよ?」


「アナタたちは!? ――ええ、助かりました」


 突如として発生した火柱にレイヤも面食らったようだが、すぐにアカリが発生させたものだとしって感謝の言葉を述べていた。


 しかし、ゆっくりと話している時間はない。今こうしている間にも、《幻想種》達は攻めてきている。


「どんな状況? そして私達はどうすればいい?」


「最前線では本職の《魔導戦士》達が各方向に別れて戦闘中です。ですが、鬼などの上級低位種の存在が複数あるそうで、その余波ぐらいでしか低位種は処理出来ていない状況です。ほとんど学生だけで処理する必要があるでしょう。アナタたちには遊撃部隊のような役割を果たしてもらいたいと思います。アカリがいるのならば大丈夫だと思いますが、少しでも危険だと思ったら撤退してください」


 ――言いたいことは分かるが、危険性はあるな。そもそも、前線では鬼クラスまで複数いるとなるとこの状況も致し方がないか。


 てっきり関東エリアの《魔導戦士》がふがいないのかもと思ったが、そういうわけではなさそうだ。戦闘できる教師も出動しているらしく、戦いは互角というよりも学生達有利で進んでいるようだった。


「分かったわ! いくわよ!!」


 矢継ぎ早に返答したアカリはシュン達を率いて《幻想種》達へと突撃していく。



 というわけで、今、《幻想種》達と戦闘しているわけである。


 眼前に映るのはこの間の妖弧達よりもさらに多い《幻想種》達。防壁に殺到しているのは妖弧、火車、子鬼、スケルトンでいずれもシュン達が《クラン》活動で倒したことがある《幻想種》ばかりだが、それぞれ特徴が違う上に、波のように押し寄せてくるのだ。学生達では苦戦するのも頷ける。


 そして、現在、その防衛が崩れそうなところを支えるためにあちこち飛び回っていたのだが――


「この状況で新手!?」


 何故か次々現れる《幻想種》の群れに翻弄されていた。


 そんなに前線の《魔導戦士》が抜かれているとでも思えないのだが、とにかく《幻想種》の数が多い。


「どうしますか!! 《クラック》! 《アクアバレット》!」


「ほどほどに撃退したら撤退するしかないかしらね。……――《フレアボム》!!」


 アカリの等外合成魔導によって《幻想種》の群れをほぼ一掃する。だが、すぐにその穴を埋めるように新たな《幻想種》達がやってくる。


「「ナイトメア!!」」


 ヒナとヤナが広範囲に闇属性の《魔導》をばらまいて《幻想種》達の動きを止めにかかる。


「《フレアカノン》!!」


 そこをシオンの高火力で仕留めていく。


 ようやく大部分が減ってきたといったところか――などと思った時だ。


「あれは!?」


 シオンが悲痛そうな声を上げる。


 視線の先には今戦っているのとは別の《幻想種》達が存在していた。


 学生達によるバリケードを突破し防壁に向かおうとする《幻想種》の群れを発見する。このままだと数分で防壁にとりついてしまう。


 ――おかしい、あのあたりに敵の姿はなかったはず。まるでどこからか生み出されたような……。


 シュンが《幻想種》の不可解な動きに訝しがるも状況は何一つ変わることはない。


 このまま街へ侵入されるのを黙って見ているしかない。


 しかしながら、それをよしとしない人物がここにいた。


「あのままじゃ街が!! ……――《》」


 シオンが何か《魔導》を発動させようとしていた。


「一体何を――」


 しようとしているのですか!? とシュンが聞く前にシオンの《魔導》は発動していた。


 黄金色の球体が目の前にいた《幻想種》を呑み込んでいったのだ。


 掃除機か何かに吸われたように一瞬にして消滅してしまった。


 その光景にシュンもアカリもヒナとヤナも言葉を失ってしまった。


「この力なら!!」


 そして、その隙をつきシオンはかけだしていく。


 それを見てようやく現実へとかえってきたアカリが、


「シオンちゃん!?」


 呼び止めるも聞こえていないのかそのまま突っ走っていく。アカリもすぐに後を追おうとするのだが、新たな《幻想種》達が近寄ってきておりなおかつ襲いかかってきていた。


 これでは無視するわけにも行かない。


「僕が行きます!!」


 シュンはアカリの方を見ずに一言言い残すとシオンを追いかけて走って行く。アカリよりもシオンに近い場所にいたため《幻想種》の妨害が少ない。


「ちょ、ちょっと!?」


 これまたアカリが声を張り上げるがシュンも無視してかけていく。


 それを見たアカリがため息を吐くと、


「ヒナちゃん、ヤナちゃん! 私達もこの場を乗り切って二人を追いかける……わよ?」


 振り返ると、いつの間にか二人ともいなくなっていた。周囲を伺えばいるのは《幻想種》ばかり。完全に取り残された形だった。


「もー!! お姉さんを一人置いていくなんて!!」


 アカリはおいていかれた苛立ちを近くの《幻想種》へとぶつけるのだった。


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