第16話
その約一時間前。
「「ライトニング!!」」
「KUOO!?!?」
ヒナとヤナが放った複合魔導により妖弧が雷に貫かれ、叫び声を上げながら消滅していく。
それをみたアカリがのびをしつつ周囲を見渡す。
「これでここら辺の《幻想種》はいなくなったかな?」
「そうみたいですね」
シュンも周囲を見渡しながら同意する。
「それにしても、本当に多かったですね」
「確かに多かったかなー」
「そこまで疲れてはいないけどこの数は面倒だったのです」
本日の《クラン》活動を始めてから、一人あたり一〇匹は《幻想種》を倒したのではないだろうか。今、シュン達がいるのは防壁の東口をほどほどにいったところだ。
ここに来る途中も他のチームが《幻想種》達と戦闘しているのを目撃していた。どうやら、本当に《幻想種》の数が増えている様だ。さらに、遠くから戦闘音も聞こえている。
「このまま戦ってもいいけど、一旦帰りましょうか。報告と確認をした方がいいかもしれないわね」
戦闘している時間も僅かで、全員まだまだ魔力も体力も有り余っているが、連戦となると思わぬ出来事に足下をすくわれる可能性はおおいにある。
アカリの言葉に全員同意して一時的に帰還しようとしたのだが、
「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?!?」」」
同じ学生と思われる集団が叫び声を上げながら、こちらに逃げてくるのだ。その表情は必死なものだった。どう見ても何かが起こったのは明白だった。
「あの子達……〝理論派〟の子ね」
理論派というとメガネの先輩――周防レイヤがリーダーを務めているグループのメンバーということになるだろうか。ここに来る前にアカリが言っていたから、余所のグループがいるのは不自然ではないが、一目でそれを理解できるアカリの記憶力はかなりのものだろう。
「どうしますか?」
シュンはアカリへと今後について端的に問いかける。今現在何かに追われているわけではなさそうだ。
「何が起きたのか聞くわ。おーい! アナタたち何があったの!!」
アカリが声をかけると、少しは落ち着いたのか走っていた〝理論派〟の学生はポツリポツリとだが、話してくれた。
シュンは最初、以前みたく鬼でも出たのかと思ったのだが、どうやら違うようだ。
彼らが話してくれたことを纏めると、シュン達同様、最近増えた《幻想種》の退治に来たのだが、倒した数よりも遥かに多い数が増援としてやってきたらしい。すでに消耗していた彼らは一目散に逃げ出したとのことだ。
数は不明だが優に百は超えていたのではないかと彼らは言った。
一通り話すと〝理論派〟の学生達は足早に去って行く。
その後ろ姿を見ながらアカリがポツリと呟いた。
「でも、へんね。さっきの話が本当ならなんで今ここに《幻想種》が来ていないのかしら」
「《魔導戦士》達が引きつけてくれたとかですか? 見回ってはいるでしょうし」
「うーんそれもちょっと違う気もするけど、私達は早めに帰るわよ。今回は様子見もなし! わかった!!」
「分かりました(分かったかなー)(分かったのです)」
アカリの声にあわせ全員返事をすると、学院へ戻るべく歩き始めるのだった。
と、ここまでは良かったのだが、結界の入り口付近にたどり着いたシュン達は目を疑うような光景を見ることになる。人がごった返していたのだ。
中には同じく《クラン》活動をしていた学生の姿も見受けられた。
あまりの光景にだれも口を開けない。
――何があった。先ほどの《幻想種》の大量発生が関わっているのか?
思いつくのはそれくらいだが、一部に大量に出たくらいでここまでの状況が起こるとも思えない。
「そこの〝実戦派〟の人! 何があったのか聞いていい?」
アカリが声をかけたのは入り口の横で誘導を行っている学生だった。
彼は忙しそうにしながらも手早く答えてくれた。
「あ、はい! 《幻想種》の大量発生――さらに、纏まって街に向かって進軍中です! そして、それによる
「そう、分かったわ!」
――かなりヤバい状況だな。こんなこと生きてきて一回も起きたことないぞ。
結界の周辺は安全だからこそ妥協案だとしても街が作られている。人類が生活を再建し始めたばかりならともかく《魔導戦士》の数が増え活動範囲が広がってからは《幻想種》が徒党を組んで攻め入ったことは殆どない。
少なくともシュンは生まれてからは一回も体験していないし、リカルドが一回だけあったことを懐かしんで語っていたのが記憶の片隅に残っているだけだ。
それだって、一部の《魔導戦士》がデタラメな報告を繰り返したせいで《幻想種》の数が増えすぎたのが原因だと言われているくらいだ。
自然的な要因で起きるのは、近年では初と言っていいだろう。
少なくとも学生まで導入せざるを得ない状況はかなり逼迫しているということだ。
そう考えているうちに全員の《魔導発動機》からアラートがなる。出動要請がかかったようだった。
それを聞いたアカリはふうっと短く息をはくと真剣な顔つきでシュン達へと向き直った。
「とんだ状況になっちゃったけど……みんないい? といってももう無理だけどね」
少し申し訳なさそうな声音で告げる。
「やってきているのは全部低位種。そして、防ぎきれないと思ったら下がってもいいとは言われているわ。近くの支部から《魔導戦士》も全員集めているみたいだから、全員命を最優先にして!!」
「「「「はい!!」」」」
こうして、シュン達は防壁の外へと向かうことになったのだ。
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