第14話
数日後。
本日もまた《クラン》活動である。《学院魔導戦士協会》を生かすためなのか、この天羽士官学院では最低でも一週間に一度は午前授業の日が用意されている。
今回は前回から一週間も経ってはいないが、行われることが決定していた。
前回の鬼の事件はただのイレギュラーで〝救済教団〟はそれに巻き込まれただけとして処理されたようだった。
とはいえ、注意するようにという通達と、巡回する《魔導戦士》の増員がすでに行われていた。そういう所は手早いようだ。
シュンはアカリ達の棟へと移動するために席を立つ。そのついでにカイトに挨拶してから行くことにした。
「今日もクラン活動に行ってきますね」
「おう! 頑張れよ……ってあれ?」
「どうかしましたか?」
シュンが普通に移動するのにどこか違和感を覚えたカイトは疑問を口にする。
「あれ? 前回は姫さんが迎えに来てくれたのに今回はいないのか?」
「ああ、ちょっとありまして……」
――よく分からんが、距離が開いたような気がするんだよな。
「喧嘩でもしたか? 同じチームなら気まずくなったりしてるんじゃないか?」
「してませんよ。あと、多分大丈夫です」
カイトを適当にあしらいつつシュンは棟へと足を進めるのだが、
――全く……なぜ俺は避けられているんだ? ホントに分からん。
カイトの言葉は全て事実だった。
あの鬼の事件以降シュンはシオンから避けられているのだ。
露骨すぎるほどではないが、簡単に気付くレベルではあるといえばわかりやすいだろうか。
会話などは出来るのだが、余り続かないのだ。最初の時のように緊張しているというわけではなく、単に話したくないというのはなんとなく伝わってくる。
さらに、ヒナとヤナも以前よりはシュンに話しかけなくなっていた。アカリはその理由に気付いているらしく苦笑いを浮かべていたが。
正直、護衛する側として不仲は避けたかったのだが、どうしようもないと諦めていた。むしろチームを解消するなどと言われないだけマシだと思っている。
「お、シュン君も来たね」
「僕が最後でしたか……もしかして待たせてしまいましたか?」
そんな風に考えているといつの間にかチーム全員が揃っている部屋へ着いていた。
「いやいや、少し前に揃ったばかりだから大丈夫だよ! ほら今日の依頼を決めるところだからシュン君も来て!」
「分かりました」
アカリに手招きされ、シオン達も集まっているところに合流するのだが、やはり会話はない。むしろシオンの頬がやや膨らんでいるようにも見える。
「はい、じゃあ今日も適当に選んでーって言いたいけど、今日の依頼はほぼ決まっちゃっているのよね」
「「「「え?」」」」
これには全員肩すかしを食らったせいか自然と声が漏れ出ていた。
「あははー、やっぱりそういう顔になるよね。でも、決定事項だから――ほらこれを見てちょうだい」
前回同様室内に表示されたモニターの依頼を指し示す。
「街の中に出現した《幻想種》の退治ですか?」
シオンが依頼名を読み上げる。
「そう、その通り!」
「いや、これってかなりマズい状況なのではないですか?」
ごく普通に言っているが結界の外とはいえ街の中に《幻想種》が出ればかなりヤバい事態だろう。《魔導戦士》が出張っても問題ない状況だ。
「うーん。街の少し外れの空き家にそれっぽい影を見かけたっていう話で、実際の被害はないらしいのよね。
あと、鬼事件の影響で《魔導戦士》の殆どは外の見回りを行っているから、確証のない依頼は後回しにしているらしいのよ。一応、近隣住民は一時避難させているっていう話だしね」
――まあ、優先するのは確実にいる《幻想種》の方になるな。
可能性でも余裕があれば動くが、余裕がないときは後に回す。至って当然のことだ。ましてやイレギュラーである鬼の出現を加味すれば仕方が無いといえる。《魔導戦士》だって無限にいるわけではないのだ。
「それでも、見過ごせません!」
「まあこういうのも訓練になるかなー」
「しっかり探索するのです」
妙にやる気の入ったシオンに追従するようにヒナとヤナもグッと手に力を入れていた。
「おっ、やる気満々だね! じゃあ、準備して行こうか!」
以前と同様にアカリに連れられて結界の外の街へと向かうのだった。
シュン達がやってきたのはアカリが説明していた通り、街の少し外れ。中心部よりも防壁に近い空き屋――正確には空き屋群だろうか。
このあたり住人達はより内部の方へ引っ越したらしく、殆ど残っていないらしい。
「じゃあ、探索開始と行きましょうか。周辺の警戒を忘れずにね!」
全員で一緒に進んでいく――のだが、どこにも何もいない。
どこかで……というか前回と全く同じパターンにシュンが口を開いた。
「なんか前回と非常に似ていてすごく嫌な予感がするのですが……」
「大丈夫よ! 今回は街の中だし、いてもそんなに強い《幻想種》は出てこないわ! それに私の怪我も治ってるしね!!」
アカリがむんずっ! と力こぶをつくる動きをするが、そこまで出来ていない。少女らしい肉付きのためただ可愛らしい格好になっただけだった。
「まあ、アカリ先輩が大丈夫というなら大丈夫なんでしょうけど」
「お姉さんに任せなさい!」
そんな風に探すこと約一時間。やはり一向に見つからない。
「となると、後見ていないのはあそこだけかしら」
アカリが視線を向けた先にあったのはマンションだ。結界内で見かける高層マンションほどではないが七階ほどはあるだろうか。
「マンションですか……珍しいですね」
「そうかなー」
「そうなのです。外縁部では余り大型の建造物は作られていないのです」
シオンやヒナ、ヤナが声を上げるのも当然だった。
それに返答したのは元外の街の住人でもあるアカリだった。
「結界の外でも中心部なら良かったんだろうけどね……作られたはいいんだけれど防壁に近いところじゃ逃げにくいってことでマンションは人気が無くってそのまま放置ってわけ」
「少し考えれば分かりそうな物ですが……」
「さあ、当時はいけると思ったんじゃない? もしくは利権がらみとか」
私も詳しくは知らないけど! と努めて明るく言ったアカリが先行していく。
「じゃあこのままここも探索を――!?」
アカリが方針を説明している最中に振動が起きる。
「地震ですか!?」
「いや、これは多分建物自体が揺れています!」
シオンが地震なのかと問いかけるがシュンはそれをすぐに否定する。
その直後頭上から通路かなにかが崩落したと思われる瓦礫が降り注いできていた。
「逃げて!!」
アカリの声に反応するように全員その場から飛び退く。シュンはシオンの手を引いて、だ。
その直後ドシャァ!! という音共に砂埃が舞い上がる。手でそれを払いつつシュンは周囲の状況を確かめる。
――しまったな……アカリ達と分断されてしまった。
シュンと一緒にいるのは自身が手を引いたシオンだけで、アカリ、それにヒナとヤナの二人は目の届く範囲にいない。瓦礫に潰されたのでなければ、瓦礫の向こう側にいる事になるだろう。
「みんな無事!?」
アカリの心配する声に全員返事を返す。
「大丈夫です、アカリさん!」
「自分も無事です!」
「ヒナは無事かなー」
「ヤナもなのです」
「よかった……でも、別れてしまったわね。ヒナちゃんとヤナちゃんとは一緒だけど……シュン君達は一緒なの?」
「はい! シオンさんと自分は一緒の場所にいます!」
「そう。まだ単独でないだけ良かったわね」
ホッとため息を吐くとアカリはどうしたものかと腕を組んで考え込む。
「どうにかして合流したいけど、どうするのが正解かしら」
「どうします? この瓦礫を誰かが吹っ飛ばして合流しますか?」
「うーん止めた方が良いかもしれないわね。余波でさらに崩れ落ちる気がするわ。そうなると合流もさらに難しくなるわね。同じ理由で壁に穴を開けるのも危険ね」
――どっちをより大きなリスクとしてとるかという話だな。
別れて行動する方が危険と判断するか、それとも建物の崩壊の方を危険ととるか難しい判断だ。
現状、次の揺れはなく建物も安定しているが、何が原因かは分からない。それに、そう簡単には崩壊しないだろうが建物全てが崩れ落ちる可能性もゼロではない。
結局、その後別の場所で落ち合うこととして、その場を移動することにした。《魔導発動機》による通信は使えそうなので何か問題があったときや一〇分おきに連絡を取ることを取り決めておいた。
そのまま、二人連れだって歩いて行くのだが相変わらずの無言だった。
厳密にはシュンは少しでも会話を出来ないかとシオンに話しかけているのだが、
「あのシオンさん。大丈夫ですか?」
「……大丈夫です」
こんな感じで続かないのだ。結局、無言と言うことになる。最初に出会った棟の部屋よりも会話していない状況だった。
――ダメだ。こんなときどうすればいいのか分からん。学生の考えなど慮れというのがそもそも無茶だ。
「シュンさんは……」
「はい?」
探索を続けることおよそ一〇分前後、シュンの頑張りが報われたのかそれとも全くの無関係なのかは定かではないが、シオンから話しかけてくれた。このチャンスは逃すわけにはいかないとシュンはシオンが何を言いたいのか細心の注意を払っていた。
「シュンさんは……どうしてあのときあんな冷静に判断できたんですか? それとも、総合ランクが低いから逃げようとしたんですか?」
思わず『あのとき? っていつのことですか?』と反射的に聞きそうになったが、話のながれ的にシオンが聞いているのはアカリが鬼と戦っているときのことだろう。
――一番はアンタを危険から遠ざけたかった、と言うべき何だろうがそれは言えないしな。
アカリの判断が利にかなっているのもあったが、シュン個人としてはシオンを守るのが仕事だ。
そうなれば、ああいう行動に出たのは何も間違いではないのだが、余りにも冷静に行動しすぎたと言ったところか。
とりあえず無難な回答を返す。
「いえ、アカリ先輩が言ったことに従っただけですよ。明らかなに異常な状況だったので先輩の意見に従うのが正しいと思いまして。それと総合ランクが低いのは……行動には余り関係ないと思います」
事実、すぐに否定したが最悪Dランクの《魔導》だけで戦うことも視野に入れていた。
「嘘です! 私は協力すれば大丈夫だと思いました。なのに、シュンさんだけアカリ先輩の言うことを聞こうとして……私がしたのはアカリ先輩を余計に危険に追い込んだだけです! そんなことはもう起こらないように……してきたつもりだったのに!!」
――何がここまでコイツをそうさせるんだ?
やや言いたいことが纏まっていないようだが、頑なに否定するような、それでいてどこか自身を責めているような言動に流石のシュンも気付いた。
ヒナとヤナも判断ミスに落ち込んではいたようだったが、わりとすぐに立ち直っていた。まあ、リカルドに連絡を取っていたらしいことを考えるとこってり絞られていた可能性もあるが……。シオンのそれはちょっと度を超しているようにも感じられる。
大体、シュンも《魔導戦士》成り立ての頃は判断ミスくらいしたことがある。ミオにケラケラと笑われながら訂正された時は『あの
――あのクソ師匠は未だに倒せる気がしない。そもそも普段本気を出しているかも怪しいんだよな。
ミオとの模擬戦では未だに勝てたためしがない。
「どうしたらシュンさんみたいな冷静な思考が身につくんですか! シュンさんはどんな環境で育ってきたんですか!!」
「ええと……そう言われても……僕だってなんとなくですし。環境と言われても……」
ぐいっと詰め寄られてシュンはしどろもどろに答えることしかできなかった。
化け物師匠に教わりながら《魔導戦士》になれば身につくんじゃない? とでも言えればいいのだろうが、言えるわけがない。
とはいえ、無難な答えばかりだと確実にシオンはまた元の無言に戻ってしまうだろう。人付き合いが苦手で、普通の学生の思考回路など全く分からないシュンでさえ理解している。
未だ詰め寄られている中、
「ん?」
「シュンさん! 教えてください!」
シュンはシオンの肩越しに何かを見つけた。
「シオンさん!」
「え!? あっ、はい!?」
そのまま、シオンの肩を力強くつかみ、グッと引き寄せる。
シオンは突然のシュンの変貌に右往左往しているだけだったが、シュンと位置を入れ替えられた事に気がつくと元に戻った。
「何が!!「静かにしてください」……何があったんですか?」
怒りと羞恥で顔を赤くしたシオンがシュンに追求するも、たしなめられ小声で再度問いかけた。今度は落ち着いたのかそこまで厳しい声ではなかった。
「妖弧です。こっちを見ています」
シュンの視線の先にはこちらの様子を窺っている妖弧の姿があった。シオンもそれを自分の目で見て納得する。
「あれが確認された《幻想種》ですか?」
元々の依頼は〝街の中に出現した《幻想種》の退治〟なのでシオンがそういうとるのは当然なのだが、シュンはあっさりと否定した。
「いえ、あれ一体ではなさそうです。その奥に数体はいるみたいですよ」
「え? ……本当ですね。どうしますか」
ここは一旦アカリ先輩達との合流を最優先に、とシュンが言葉を発する前に、
ドゴォ!! という音共に建物が揺れる。
「な、何が!?」
シオンは視線を彷徨わせ状況を把握しようとしているが、それよりもはやく何が起きたのか理解出来る声が響いてきた。
「「アイスサークル!!」」
遠くの方からだが、はっきりとヒナとヤナが《魔導》を発動させた声が聞こえてきた。
となれば先ほどの振動はアカリが出した物の可能性が高い。合流を優先すると言っていたアカリが《魔導》を使う事態となればそれ相応の状況が合ったのだと推測出来る。
だが、シュンが思考できたのはここまでだった。
その理由は妖弧達が一斉に行動し始めたからだ。
「「「「KUOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」」」」
振動に刺激されたのか黙ってこっちを見ているだけの妖弧達が吼えたかと思うとシュン達に殺到し始めた。
「シオンさん! 迎撃しますよ!!」
「分かりました!!」
――手持ちの中でも少しでも広範囲の物を!!
「《アクアバレット》!」
「《フレイムボルテックス》!」
シュンが水の拡散弾で妖弧達を仕留めるのに対しシオンは範囲と威力が大きい一撃で妖弧達を葬っていく。
さらに続けざまに《魔導》放って妖弧の数を減らしていくのだが――
――どう考えても数がおかしい!!
アカリの話では《幻想種》らしき影を見たとの話だったが、それにしては数が明らかにおかしい。普通そう言った場合、多くても五匹前後だ。
だが、今現在シュンの瞳に映るのは一〇数匹の妖弧。すでにシュンもシオンも互いに数匹は倒していることを考えると他にもいてもおかしくはない。
流石に数に押されじりじりと後退していく。
――このままでも負けるとは思えないがかなり時間は掛かりそうだな。
アカリもヒナもヤナもこの戦闘音は聞いているだろう。それに向こうの戦闘音もシュン達の方へ近づいて来ていることを考えれば耐えるだけで妖弧達の消滅は時間の問題だ。
だが、そう判断できるのはシュンが《魔導戦士》としての経験があるからだ。ここにはもう一人ただの護衛対象ではなく、自身も戦う事の出来る人間がいることをいることを忘れていた。
「行ってください! 《イグニッション》!」
「まってください! そんな大技を使っては!?」
シュンの制止は少し遅かった。
ドガァアァァァァァン!!! と耳をつんざくような爆音とともに大量の妖弧が吹き飛んでいく。
シオンの使ったのは《火》属性Bランクの《魔導》で広範囲に爆発を巻き起こすという物だ。シュン達の位置から離れたところに発動させたため、直接的な被害は無いが、建物内で使うにはリスクがある《魔導》だ。
だが、シュンが危惧したのはそこではない。
「……やっぱり」
煙がはれた先――シュンの視線の先にある壁には大穴が開いていた。建物が崩壊さえしていなければ本来大穴ごときどうでもいいのだが、さらに視線を見渡せば、《イグニッション》の範囲から逃れたのか生き残った妖弧がちらほらと目撃できた。
高威力の《魔導》といえど万能ではないいい証拠である。
しかしながら、そんなことをシオンに教えている暇はない。
「「「「「KUOOOOO!!!」」」」」
生き残った妖弧の群れが開いた穴から建物の外に出ようとしていた。
おそらく、今の《イグニッション》を見て、勝てないと判断して逃げることにしたのだろう。
ただ、そうなると、もうどうなるか分からない。放たれた妖弧達が街中で大暴れするだろうということは想像が付くが、このまま周辺の人がいない場所に向かうのか、人が暮らす場所に向かうのかは分からない。
「《ツイスター》! 《アースウォール》!」
流石にそれを見過ごす訳にはいかないと、少しでも進撃を遅らせるために妖弧達の進行ルートに妨害させるための《魔導》を発動させるが、数が多いせいでシュンの妨害を突破する妖弧も現れている。
――即席の妨害では今ひとつか……それよりもこの状況を作り出したシオンは何をしている!?
チラリと視線を向けてみれば、シオンは《魔導》も発動させずに突っ立っていた。《イグニッション》を発動させた影響で疲れや異常でも起きたのかと思ったのだがそういうわけでもなさそうだ。
「……です。このまま……。……絶対」
それどころか、何かを呟いていた。
《魔導》を使って妖弧達の動きを妨害したり、消滅させたり、しながらもシュンが様子のおかしいシオンに話しかけようとするが、
「絶対に――行かせません!!!」
シオンが胸元の《魔導発動機》に手を当て叫んだ。それと同時にゴウ! と空気さえも震えたように感じられた。
そして、それは余り間違っているともいえないだろう。
――なんだ!? この膨大な魔力の塊は!?
ドラゴンブレスほどではないものの、人が持つには明らかに多い魔力量をシュンは認識することになったのだから。
「《タイダルウェイブ》!!!」
「なっ!?」
シオンが使用したのは水属性Aランクの《魔導》であり津波を発生させるタイダルウェイブだった。威力・範囲ともに優秀な《魔導》ではあるが、イグニッション同様、少なくとも建物内で使う《魔導》ではない。
いや、イグニッションよりも使うべき《魔導》では無いだろう。
「「「「KUOOOOOO!?!?!?!?!?!?」」」」
発生した大波は妖弧達を押し流しながら消滅させていく。だが、止まらない。
一部はすでに穴から飛び出して、空き屋を呑み込んでいた。
「シオンさん!! もう止めて下さい!! このままでは!!」
「……守るんです! 今度こそ絶対!!」
シュンがこのままだと空き屋だけでなく、人が住んでいる家屋やその先の街に被害が出ると警告するもシオンは何も聞こえていないかのように未だに《魔導発動機》を握りしめて全力で魔力を注ぎ続けていた。しかもどこか目の焦点が合っていないようにも見受けられた。
それを見て、シュンの脳裏にはとある現象が思い起こされていた。
――聞こえていない……いや、もしかして暴走状態か!?
暴走状態とは《魔導》の発動にかなりの魔力を込めた場合に怒る可能性がある現象だ。主に初めて《魔導》を使った子供に起きやすいのだが、大人でも感情の高ぶりなどによっては起こりうる現象だった。
この暴走状態という現象は放置していればいつか止まるのだが、シオンの場合、元々の魔力寮が膨大なうえ、注ぎ続けている限り発動した《魔導》はそのままなので、大波が街を覆い尽くすのは確定だ。
――ちぃ!! 世話の焼ける!!
「っく!? 止まれ!! 《アニヒレーション》!!」
ドラゴンブレスを真っ正面から受け止めるほどの《魔導》であるアニヒレーションを発動させてシオンの発動させている《魔導》を止めにかかる。
後追いの形になるためどこまで止められるか分からないが、やらないよりはマシだろう。それに周りに目撃される恐れはあるが、そんなこと行っている場合ではないだろう。
フラッシュのように光り輝く結界が津波を追うように広がっていき、触れたところでピタっと消滅した。
それを見てシュンはホッと息を吐いた。
「なんとか止まったか……」
マンション周辺の建物を崩壊させてはいるものの、被害はそれだけですんだようだった。
「私……が……」
「おっと」
それと同時に崩れ落ちるシオンをシュンは抱え込んだ。呼吸はしっかりとしており、軽い気絶だと思われた。
――一体何がコイツをそこまで駆り立てたんだ? いや、それよりもあの力は……?
だが、また思考は打ち切られる事となった。
「シュン君! シオンちゃん! 無事!?」
アカリが血相を変えて、やってきたからだ。
一旦上層階に上がってから降りてきたのか、少し息が荒い。
「アカリ先輩……ええ、なんとか大丈夫ですよ。シオンさんの方は《魔導》を使い過ぎたのか気を失っていますが」
「よかった……」
とりあえずの状況を説明したところで、
「か、勝手に行かないで欲しいかなー」
「せ、先輩が単独行動は危険と言いつつ自分がやっては意味ないのです」
アカリ同様息を切らしながらもヒナとヤナもやってきていた。
それを見てシュンが口を開く。
「そちらも無事なようで良かったです」
「うーん、大量の妖弧にあってびっくりしたけどね……シュン君達もでしょ?」
「ええ、こっちも妖弧がたくさん。それに――」
シオンが《タイダルウェイブ》を使ったことや暴走状態になったことを説明していく。ついでに謎の光で《タイダルウェイブ》が止まったことも。いずれも自分は関わっていませんよーというアピールだ。
「また、訳の分からない状況になったわね。これも学院に報告しないといけないわね」
面倒だと思っているのか、アカリががっくりと肩を落とす。
「仕方ないと思いますよ。それで? このまま帰る感じですか?」
「そうね、多分もう妖弧もいないでしょうし……そもそも、結界の外とはいえ街中に妖弧が大量にいることがおかしいのよね。撃ち漏らしがいないかも確認してもらいましょうか」
「そうした方がいいかなー」
「このまま私達で確認してもいいですが、危険が少しあるのです」
「お? 二人も前回から進歩したねー。えらいえらい!」
「な、なでないでほしいかなー」
「そ、そこまで子供じゃないのです」
シオンが意識を失っているものの和気藹々とした雰囲気のまま全員は学院へと帰還していく。そして、妖弧も全て倒したのか一体も出てこなかった。
だからだろうか、だれも――シュン達を見ている存在には気付かなかったのだった。
「見つけ……たか? 我らの……悲願……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます