第13話
その後、派遣されてきた《魔導戦士》や教師と合流しシュン達は学院へと帰ってきた。
状況の説明等に暫く時間をとられたが、それ以外は特に何も無くシュンとしては肩すかしを食らった形だ。
〝救済教団〟と思われる白装束や鬼の出現についても調査するようだ。結果は教えられるかは分からないと言われたが、警戒は《クラン》活動を行っている全員に通達されるらしい。
「じゃあ、今日はここで解散ね。リュウとレイヤもありがとね!」
すでに日は落ちているため解散するのも当然だろう。
「いや、気にしなくていい。協力するのは当然だからな!」
「ええ、そうですとも。ライバルではありますが、協力できるところは協力しませんと」
そう言って、片手を上げると両者共に自分達の棟へと向かって行った。これから、自分達と一緒に行動していた後輩とそれを任せた仲間に何があったのか説明するらしい。
二人を見送ったアカリはクルリと振り返ってこう告げた。
「全員よく反省すること! 特にそっちの三人はね! じゃあ、来週も《クラン》活動があれば一緒に行きましょ!」
もう一度釘を刺すと軽やかな足取りで寮へと帰っていく。怪我は軽度だという話だが、来週にはまた結界の外に行く気らしい。
「あ、はい。またお願いします」
シュンはアカリを見送って三人に声をかけたのだが、
「じゃあ、僕達も別れましょう……」
「……っ!!」
シオンは返事もなく、スタスタと早歩きで行ってしまった。
「お爺ちゃんに相談しようかなー」
「そうした方が良いかもです。それではさよならなのです」
ヒナとヤナはリカルドに今日の悪い所でも話す気なのか挨拶もそこそこに帰って行く。
「はい……さようなら」
それを見てシュンも寮へ帰ることを決める。
――なんで八幡シオンは無言だったんだ?
寮への道すがらそんなことを考えるも答えは出なかった。
寮の自室へと帰ってきたシュンは、自室で風呂や食事を済ませ待機していると端末に通信が入ったことに気付く。
学院で使用しているものではなく、仕事用の方だ。
「誰だ――ってフレンか」
連絡を取ってきていたのはシュンの《仲介者》であるフレンだ。彼には八幡シオンについて調べるように頼んでいたのだが、連絡してきたということは調査が終わったということだろう。
周囲を確認しつつ、端末から映像通信で起動する。
「遅かったな……それで終わったのか?」
『ああ、うん。一応ねー』
映し出されたのは依然と同じくモニターが複数存在するフレンの仕事部屋だ。
だが、それよりもシュンが気になったのはフレンの表情と声だ。
――やけに歯切れが悪いな。フレンにしては珍しい。
そうフレンは基本的に自信満々な態度をとっていることが多い。それだけの才能があるのはシュンも理解していた。
『ねえ、シュン。あの子なんなの?』
「何と言われても俺が知るわけないだろう。師匠に言われた護衛対象としかわからないぞ」
「ふーん……僕が本気で調べて殆ど分からなかったって言っても?」
「なんだと?」
フレンの発言にシュンが固まった。それほどまでにその言葉が衝撃的だったからだ。
今までフレンがそこまで調べて殆ど情報が無いなどシュンが契約してから一度も無い。
大体、能力が高いからこそシュンはフレンと組んだのであってその実力は直に知っている。そのフレンをして探れないというのは驚くべき事だった。
「厳密には基本的なことは分かったんだけどね。一定レベルから上の情報が固すぎる……いや、多分大半が存在すらしてないんじゃないかな」
「とりあえず、お前の推測と分かったところだけでも報告してくれ」
「分かったよ。八幡シオン――名前はそのまま本名だね。まあ、一般人が偽名を使うとは思ってないけど。物腰の柔らかな態度をするお嬢様――たしか、シュン君の学校だとお姫様なんて呼ばれているんだっけ?」
「よくもまあ調べているな」
学院内の生徒のあだ名まで調べているとはどうやったかは知らないがやはりフレンの調査能力の高さは流石である。
「続きをはなすよ? 八幡っていう名字で分かるとおり、関東エリアの重鎮である八幡家の娘だね。幼い頃から優秀な《魔導》の片鱗を見せていたらしいけど、何故か結界の外に出したことはないみたい。外に興味を持たせないようにしてたとも考えられるけど……」
「ああ、それは間違いなさそうだぞ」
シュンは今日結界の外の街を見たときのシオンの様子をフレンに話す。
「ふんふん。じゃあ、この情報にも間違いはないね」
「そうだな。八幡家の娘ならば情報の入手がしにくいのも仕方が無いか……」
「いや、あんまり関係ないかな」
「そうなのか?」
「何処のエリアの重鎮だろうと調べるのはそんなに苦戦しないよ。ガードは堅いかもしれないけどその分目標は絞りやすいし、噂みたいなのも含めれば周りから集めるのも容易だから」
「そんなものか……」
最低限の知識はあるもののフレンのように端末などを駆使して情報を集めることは殆どしたことないのでいまいち実感がわかない。フレンがいうのならばそういうものなのだろうと納得する。
ここで、根本的な事が気になった。
「じゃあ、フレンが分からなかったのはなんなんだ?」
てっきりシオンが所属する八幡家の情報が手に入らないのかと思っていたが、そうでないならば何の情報がよくわからなかったというのだろうか。
「そう問題だったのは八幡シオンそのもの……よりただしく言うのならば彼女の《魔導》の情報なんだよ」
「どういうことだ?」
「シュンから八幡シオンの《魔導発動機》はオーダーメイドのネックレス型だったって聞いていたからそこからどういった適性を持たせているのか探ってみたんだ。シュンの師匠が護衛を言い渡すぐらいだからね」
「なるほど」
フレンの言葉に矛盾はないように感じられたシュンは続きを促す。
「その《魔導発動機》を作った所が全く分からなかったんだよ。しかも、八幡シオンの適性もどこを探っても出てこなかった」
「バカな……学院に《魔導戦士》を養成する士官学院に入っているんだぞ?」
「だから不思議がっているんじゃないか」
フレンはあっけからんと言っていたが、それはあってはならないはずだ。学院にはシュンも誤魔化しているとはいえ四属性の適性として申請している。
可能性として有りそうなのは八幡家が隠蔽しているということだろうが、それならばなぜ天羽士官学院に入れたのかという疑問も出てくる。そもそも最悪シュンと同じく適当に誤魔化せばいいのだ。シオンは四属性は普通に使える様だったのだから。
「唯一、分かったのは昔……といっても初等部に入るか入らないかくらいの話みたいだけど《魔導》の検査をしたところ膨大な魔力っていうんだっけ? エネルギーを所持していたらしいって事ぐらいかな」
「それは……」
確かそれと似たような事をアカリとシオンが話していた。そうなると結局分かったことは余りないということになる。
護衛する目安としてももう少し情報が欲しいところだったが仕方が無いととりあえずは諦めた。
「なるほど。このまま引き続き八幡シオンの調査は頼む」
「はいはーい、もっと細かくあさってみるよ」
「頼む、それと悪いが追加の調査を頼みたい」
「ん? 今回のに関わってる?」
「ああ――……」
そう言ってシュンは今日あったことをフレンへと伝えた。具体的には結界周辺での鬼の出現や〝救済教団〟についてである。
一通りシュンの話を聞いたフレンは大きく頷いた。
「うん、鬼と〝救済教団〟ね。わかったまたこっちでも調べてみるよ。ああ、それと」
「なんだ? まだ何かあるのか?」
「学院の生活楽しんでいるみたいじゃない!! 頑張ってね!!」
そのまま通信を切った。
「……最後に余計な一言を言わないとダメなのかアイツは」
何も表示しなくなった仕事用の端末を隠すと、特にすることもなくなったシュンは適当にベッドに寝転がる。
妙にふかふかのベッドは大変寝心地がいい。
そのまま暫くボーッとしていたシュンはフレンとの会話を思い出していた。
「訳が分からん……師匠は一体俺に何をさせたいんだ?」
考えても簡単には出そうにない答えにシュンの意識はいつの間にか落ちていくのだった。
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