第12話


 鬼の消滅を確認した先輩三人組はシュン達の元へとやってきていた。


「アカリさん!! 無事で良かったです!」


「先輩かっこよかったかなー」


「そうなのです」


 シオン、ヒナ、ヤナがアカリへと駆けよっていくも、アカリの表情は険しいままだった。


 普段ならば『え、そう? よかった!!』などと言いそうなものだが、今回ばかりは違うようだ。


 真剣な顔つきのまま、三人へと問いかけた。


「なんで私の言うことを聞かなかったの?」


「え?」


 その声はひどく冷たい物だった。少なくとも今までの付き合いではシュンは聞いたことの無いものだった。


 シオンは戸惑うばかりで何も反論できず、ヒナとヤナも黙って見つめているだけだ。


「だから、なんで私の言うことを聞かなかったのかって聞いてるの!」


 ――まあ、指示を無視されれば当然か。とはいえ、バレるのを恐れて無理に連れて行けなかった俺もあかりの目から見れば同罪みたいなものか……。


 シュンもこの時ばかりは大人しくしていた。口をはさむと余計に拗れそうだったということもある。


「えっと、私は……私達はアカリさんが心配で……それで……援護しなきゃと思って……あの――……」


 か細い声ながらもシオンは言い返した。怒られていることは理解しているのだろうが、自分の感情に蓋をしておくことは出来なかったのだろう。


「あのねえ……私のことを心配してくれるのは嬉しいけど、ちゃんと指示は出したんだから大人しく逃げなさい。ヒナちゃんとヤナちゃんもよ? おじいさんよりも私が弱いから? それとも、自分達なら上手く出来るって思ってた?」


 ヒナとヤナはコクリと頷いた。合成魔導が使えることもあり、特別許可証を持っていることもあり自信があったのだろう。事実、二人の《ライトニング》は鬼にも効いていた。


「でも、シュンさんが止めなければ、アカリさんを危険にさらすことなく鬼をたおせたはずです」


「そこは同意見かなー」


「そうなのです」


 なぜここで俺の名前が出てくる!? とシュンは顔に出さず内心で驚いていた。


「ふぅーん……シュン君のせいね。そんなわけないでしょう!!」


 しゅんと肩を縮こまらせる三人を見てアカリはため息を吐いて視線をシュンへと向ける。


「シュン君もよ! さっさと三人を連れて行って欲しかったわ」


「すいません。頑なに抵抗されてしまって……どこまでやっていいものかも判断が付かなかったので……」


「まあ、そこは一応見ていたからね。でも、三人にはまだまだ言いたいことがあるんだけど……」


 再びアカリの視線が三人へと向くが……助け船は別の所からやってきた。


「あーまあ、何があったのかは今の会話から大体分かるが、それくらいにしておいたらどうだ?」


「ですね。大事なのはこれからの方針です」


「これから……って? あとは学院へ報告して帰るだけでしょう?」


「いえ、個人的には少し気になるのですよ。なぜこんな所に鬼がいたのか。その理由が」


 確かに鬼はこんな結界の近くにいるような《幻想種》ではない。そこはシュンも思っていたことだし、その理由もレイヤ同様気になっているのだが……。


 ――近くに敵性体はいなさそうだが……本当に行く気か?


 その精神力と判断力に驚いていた。


 シュンは先輩達に気付かれないように感知用の《魔導》を発動させていた。これはシュン独自のもので広範囲を探れる優れものだ。


 そう簡単に先輩達に気付かれることはないと思うが、流石に人目の多い状況だと使用するのも使用中も気を遣う。


 反応的に鬼のようなイレギュラーな《幻想種》どころか普段見かけられる《幻想種》もいないようなのでこのまま探索しても大丈夫だろう。


 だが、鬼の出現自体がおかしいこと考えれば止めるべきなのは間違いない。


 なのだが、

「一応、動けるようになったし少しだけいってみる?」

「おう、いいぜ!」

「十分程度にしましょうか。それ以上は危険かもしれませんし」

 そういうことになった。



 そして、その原因らしきものは以外とすぐに見つかった――というより、もろに痕跡が残されていた。


 全員で周辺を警戒しながら鬼が現れた方向に向かうと廃墟の中に公園の広場のような場所が存在していたのだ。


 それを見て、リュウが声を上げる。


「これは……」


 さらに、そこにあったのは地面に彫られた魔法陣が設置してある奇妙な広場――有り体にいって儀式場のような場所だった。


 しかもそこには血で赤く染められた白装束を来た人間が数人倒れ伏していた。一部が白いことからそうだと推測したのだが、半分ほど赤く塗られているように見える。


 どうやら死んでいるようでピクリとも動かない。


 状況から見て、鬼にやられたのだろう。


 白装束を一瞥したアカリが呟くように口を開く。


「〝救済教団〟ね」


「〝救済教団〟ってーと……」


「《幻想種》が生まれてから出来た新興宗教ですね。《魔導戦士》や一般人からすれば唾棄すべき様な主張を掲げている狂信者ですよ。それくらい習ったでしょう?」


「すぐに出てこなかっただけだっつーの!! それくらい知ってる!!」


「はいはい、こんな所で言い争わない。それにしても、こんな所で何をしていたのかしら?」


 ――〝救済教団〟か……あのろくでもない連中がいた時点でいい予感はしないな。


 〝救済教団〟――レイヤが言っている通り、《幻想種》が地球上に現れてから発足した新興宗教。

 

 その教義は大ざっぱに言ってしまうと《幻想種》をあがめ、奉ることであり、《幻想種》は争いばかりする人間を止めるために神が使わした使徒であるというものだ。


 それだけならば構わないのだが、彼ら(彼女ら)の厄介な所はその思想や教義を一方的に押しつける事にある。そのため〝救済教団〟によって被害はかなりの物だ。


 すでにかなりの人数が殺されている(彼ら曰く救済らしい)。《魔導戦士》としては《幻想種》の支援団体として〝救済教団〟を認定しており、残っている各国家間でもテロリスト認定されている危険な団体だ。


「どうみても愉快な出来事ではないわな」


「どのみち、これ以上は学生じゃ無理ね……このことも学院に連絡して、先生か本職の《魔導戦士》を呼んで調査してもらいましょう」


 アカリの言葉に全員が頷く。


 シュンとしても気にはなるが、これ以上この場に残るのは不自然だ。それにシュンは戦闘員であって調査員ではない。

 

 アカリ達より詳しくとも、殆ど何も分からないだろう。今出来るのはこっそり映像を収めておいて、後でフレンに聞くぐらいしかないだろう。

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