第11話
「グループはちげえがよく見とけ後輩共。《フィジカルアップ》! 《アースシェル》!」
高らかに宣言したリュウが使ったのは、火属性の自身の身体能力を向上させる《魔導》と土属性の自身の防御力を向上させる《魔導》だ。
アカリよりも身体から迸る《魔導》によるオーラが濃い。それだけ適性が高いということだろう。
「おらぁ!!」
そのまま、一足飛びで鬼の元へすっ飛んだリュウは素手で鬼をぶん殴った。手には
所謂、《武装一体型魔導発動機》というやつである。直接、《幻想種》とやり合うため、故障する頻度は通常の《魔導発動機》よりも多いものの、元々の耐久値が高く、使い勝手も普通の武装のように扱いながら《魔導》を使えるためかなり便利な《魔導発動機》として知られている。
手甲型の《魔導発動機》を振りかぶって次々と鬼へと拳の嵐を見舞う。
鬼も負けじと拳で対抗していた。棍棒は先ほどリュウに吹っ飛ばされた時に落としたのか今の鬼は武器を持っていない。
とはいえ、倍はあろうかという背丈の鬼相手に拳で渡り合う精神力と能力は素直に感服出来るレベルだった。
「能力強化の《魔導》ってのは組み合わせりゃ、自身よりもでけえ相手だって直接戦えんだよ!!」
そう言いながら強めに浴びせた一撃は鬼を後退させるのには十分だった。
「GUO!?」
――あの豪徳寺とかいう先輩はリカルドのじいさんと似たようなスタイルか。だが、身体強化の《魔導》だけを使っているようではいつか限界が……もう来たか。
シュンはリュウの戦い方を見て、どういったタイプなのか瞬時に判断する。学院でのシュンやカイトのような前衛と呼ばれるスタイルなのは間違いない。
そして、その中でも身体強化を主として直接戦うやり方はリカルドを彷彿とさせる。
だが、この戦い方は強みである身体強化の《魔導》の特性がある種弱点にもなっているのだ。
「GUOAAAAAA!!!」
自身が後退させられたことに苛立った鬼の乱打の速度があがる。
「うおっ!? コイツ!!」
リュウも負けじと相手をするが、あれ程の出力で殴り合っていれば……かけた《魔導》の消耗も早い。再び発動させないと元のパワーが出ないのか、リュウは今さっきとは逆に押され気味だ。
「リュウ後退してください……《ニードルレイン》!」
「GUUUUUUUU!?!?」
「あっぶな!?」
不意打ちのような一撃に鬼は回避できず針のような雨をもろにくらう。リュウはレイヤの声を聞いてすぐに飛び退いたため無事だった。
「ふぅ……なにしやがる!?」
「何って援護ですよ。大体、身体強化の《魔導》を使用しても同格や格上相手に真正面から挑むのは工夫が足りない証拠ですよ?」
「ぬぐっ!?」
そう言われてしまえばリュウとしては反論しづらい。自分でも理解しているからだ。本来身体強化の《魔導》を使用する場合は相手の隙を見たり、作り出したりして継続時間を延ばして戦うのがセオリーなのだ。
だが、リュウは後輩であるシュン達にいいところを見せようと調子に乗った挙げ句ああなった。鬼が思っていたよりも元気だったことを含めてもほぼ自業自得である。
反論できないリュウを尻目にレイヤは得意げに話を続ける。
「この場の状況を上手く生かせばいいんですよ。幸いなことにこの区画の地面は土ですからね。そうは言ってもニードルレインは攻撃性を重視した《魔導》ですから、もう少し水を足した方が良いでしょうか……《ウォーターフォウル》!」
レイヤが発動させた《魔導》によって今度は滝のような水が鬼へと降り注ぐ。威力はそれほどでもないが、レイヤの狙いは鬼ではない――地面だ。
鬼の足下の地面はニードルレインとウォーターフォウルの影響で田んぼのようにぬかるんでいた。鬼はその重さ故に足首までにすでに埋まっている。
「さらに、行きましょう。《クエイク》!」
ぬかるんだ地面を攪拌するように揺らした土属性の《魔導》は鬼の体勢を崩させる。
「GUO!?」
攪拌されたせいで鬼は自分の自重でさらに深く沈んでいく。ぬかるみにはまったらしく、足のほぼ全てが地面に埋まってしまっていた。
「《幻想種》といえど人型ならば弱点は人に通ずるのですよ。最も中位種以上になると《魔導》のように自身の強化をしている種類もいるので一概には言えませんけどね」
彼もリュウのように後輩であるシュン達に教えるように解説する。
――なるほど〝理論派〟の代表ってだけはあるみたいだな。確かにその通りなうえ、戦い方も利にかなった動きをするのが得意らしい。だが、ここからどうするつもりだ?
シュンがそのように思うのも無理はない。
なぜなら、
「ですからこういった方法を――」
「おい」
「何ですか?」
「いや、自慢げに語っているとこ悪いけどよ……アイツ抜け出そうとしてるぞ。それも全力で」
「は?」
鬼が沈み込んだ足を動かして力業で抜け出そうとしているからだ。すでに膝ほどまでしかぬるみにははまっていない。
「いや、『は?』じゃねえよ!? さっさと追撃しろよ! なんか予定が有ったんじゃねえのか!?」
「いえ、これで暫く沈めて遠くから攻撃しようとしていたので、こんなにも早く抜け出すのは予定とは……」
「だぁああ! 俺が行く!! もういっちょ! 《フィジカルアップ》! 《アースシェル》!」
再びリュウが身体強化の《魔導》をかけ直して、鬼の元へと突っ込んだ。
鬼はぬかるみから脱出するのを一時的に止めて、リュウの迎撃へと動く。
「くらえやぁ!」
「GUOO!!」
だが、ここでリュウが突っ込んでいったのは正解といえた。かけている《魔導》は同じ物なのにリュウが最初にぶつかり合ったときよりも楽に相手できているのだ。
その理由は鬼の踏ん張りがきいていないせいだ。あれならば簡単に撃ち勝つことが出来るのも当然だろう。
だが、鬼も負けてたまるかと意地で食らいついていた。このままを維持できれば勝てるだろうが、結構な時間が掛かると思われた。
そのとき、二人の戦いを見ていただけだったアカリが二人に声をかけた。
「私だけいい格好見せないのもね! リュウ、レイヤ。もう少しの間鬼を引きつけるのをお願いするわ! 私のアレでとどめをさすから!!」
その言葉を聞いたリュウとレイヤはお互い一瞬だけ目線を交差させると小さく頷いた。
「っち、仕方ねえ。一撃でぶっ倒すなら、確かにお前の方が適任か……いいぜ、もう少し弱らせてやるよ! てめえはそこで大人しく嵌まっていろや――おらぁ!」
「ふっ、そこには同意しますよ。ちまちまやって今の状況から抜け出されても困りますからね」
「お前はさっきまでおたおたしていたくせに偉そうだな!?」
「アナタだって最初は思いっきりミスをしていたでしょうが!? 捕らえなさい……はぁあぁ!《ホーリーチェーン》!」
豪徳寺が鬼に頭から一撃を加えぬかるみへと深く押し込む。さらにレイヤが放った光属性の《魔導》がその名の通りチェーンのように鬼の上半身を縛り上げる。
鬼も必死にふりほどこうとしているが、ここまで戦闘での消耗が激しいのかふりほどけないようだった。
「準備は万端だぜ? 決めろよ! アカリ!」
「お膳立てはしたのですからこれで決めなければ笑いものですよ?」
どこまでも軽口を叩いてくる二人を見て、笑みをこぼしたアカリは自身の《魔導発動機》へと集中する。
「《サンドストーム》! 《ウィンドカーテン》! 《フレイムシュート》!」
アカリは続けざまに三つの《魔導》を発動させる。いずれも放たれた速度が違う三つの《魔導》は見事に鬼の目の前で混ざり合った。
「等外級合成魔導――《フレアボム》!」
アカリの宣言と共に大爆発が発生する。間違いなくそれを発生させたのは、アカリが放った三つの《魔導》であることは明白だった。
シュンはそれを見て分析するも素直に感心していた。
――やっていることはシンプルだが……再現するのは簡単ではなさそうだな。少なくとも俺には無理だ。
アカリが行ったのは単独で《魔導》を使用して混ぜる――合成するという手法だ。魔法陣の時点で最初から混ぜて合成させ《上位属性》にするのではなく、発動しているから合成しているため属性は《火》のまま威力自体は高ランクの《魔導》や《上位属性》にならぶ威力を発揮している。
難点はおそらく三つ以上でないとそこまで威力が出ないのと、組み合わせを考えるのが非常に面倒なのと、タイミングを合わせるのが難しいということぐらいだろうか。
シュンがぱっと思いついたのはこの三つだった。
だが、それを差し引いても有用な技術なのは間違いない。
アカリの発動速度がはやかったのはこの技術を磨いていたというのもあるのだろう。
「GU……GUOOOO……」
力なく膝をついた鬼はか細い声を残したままその身体を消滅させる。
「やったぜ」
「上出来でしょう」
「なんとか……なったかしらね!」
先輩三人組の声を聞いて、シオンとヒナとヤナから安堵の声が漏れ出ていた。
――三人がかりとはいえ学生が鬼を倒すとは……全員の実力が低いのではないかもしれないな。
そんな光景を見てシュンは天羽士官学院の評価を上方修正するのだった――大概失礼である。
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