第6話

 チームを作ったということでアカリの指導の下、シュン、シオン、ヒナ、ヤナの四人は学院を出てさらにその先――結界の外へとやってきていた。


 結界の外は《幻想種》が活動しているためほとんど廃墟となっている。とは言っても、結界のすぐ近くは低位種の《幻想種》しかおらず、危険性の面では余り高くない。


 そんな廃墟の中を全員で進んでいると、


「さて、結界の外に出たわけだけど……ここで質問です!」


 アカリが唐突にこんなことを言い出した。


 ややハイテンションないきなりの発言にシュン達が驚く暇も無くアカリは言葉を続ける。


「ここ天羽士官学院も所属する関東エリア……その結界の周りで確認されている《幻想種》を一種類ずつ答えてください。――ヒナちゃんから!」


 アカリは指をヒナへと向けた。


「子鬼かなー!」


 アカリはヒナの答えに太陽の光のように穏やかな笑みを浮かべる。良く出来ましたといったところか。彼女はそのまま、指を移動させる。今度はヤナだ。


「火車なのです!」


「妖弧ですね」


「スケルトン……一応、極東エリアでは狂骨なんても呼ばれていますかね。火車も本来は火の車と呼ぶのが正しいなんて話もありますけど」


 そんな感じで、ヒナ、ヤナ、シオン、シュンの順で答えていく。全員、回答によどみがない。仮にも士官学院生ならばこの程度は答えられて当然だろう。


「みんなせいか~い! シュン君に至っては補足説明までしてくれちゃって……これじゃお姉さん言うこと余りないじゃない」


 などと、アカリは言っているものの表情は明るくほほえんだままだ。


 勤勉な新人が入ってくるのはグループのリーダーとしては嬉しいのだろう。


「それじゃあ、この場で解説といきましょうか。まずはヒナちゃんが答えてくれた子鬼ね。これは名前の通り小さい鬼の《幻想種》よ。見た目は――」


「GAGYA!」


 アカリが解説している真っ最中にもかかわらずどこからか、小さいが不快な声が聞こえてきていた。


「……あんな感じね」


 ちょっと消沈した様子でアカリが視線を声のした方へと向ける。


 そこにいたのは、頭に小さな角を生やした小型の人型 《幻想種》――子鬼だ。

 今、目の前にいる子鬼の皮膚の色は赤色だが、その他にも青色や緑色のものも存在しているのが確認されている。


「実際に見るとゴブリンと似てるかなー?」


「確かに結構似ているのです」


 ヨーロッパエリアから来たヒナとヤナの二人がそんな子鬼の見た目に反応する。


 体格的にゴブリンと似ているようにも見えるが、こちらの方がやや醜くない。根本的な嫌悪感に余り違いは無いが。ゴブリンも昔は一部で〝子鬼〟と翻訳されたことも考えれば似ているといえなくもないのだろうか。


「ここはお姉さんが対応するね! みんなはちょっと見てて! 《フレイムシュート》!」


 アカリが子鬼に向けて手を構えると腕時計型の《魔導発動機》から赤い魔法陣が生み出され、赤々とした火の玉が飛んでいく。


 ――展開が早いな。さすがはリーダーをやっている先輩というところか。この学院の生徒全員が弱いわけではないのか。


 アカリの《魔導》の発動速度にシュンは素直に感心する。発動速度だけならばすでにC級やB級の《魔導戦士》と比べても遜色なかったからだ。それだけで強さを判断できるものではないが、本来訓練生であることを考えれば十分以上の能力といえるだろう。


 子鬼は飛んで来た火の玉を避けることも出来ずに直撃すると、


「GUGYA!? GAGYA!?」


 瞬時に身体が燃え上がり、もがき苦しむように暴れ回るもその生命活動を停止したのか、倒れ伏し身体がグズグズに溶けて灰になり消えていく。

 

 これが《幻想種》の死だ。どこに消えるのかは定かではなく、説も様々で未だに立証されていない。

 

 人型の存在が燃えて灰になるというのは中々にグロい光景だが、この場にいるのは《魔導戦士》になろうとする士関学院生だ。皆平然としていた。

 

 正直、シュンとしてはシオンぐらいは顔を青くするかと思っていたのだが、そんなことはなかったようだ。


 アカリは完全に消え去った子鬼を見やるとシュン達の方へ振り返った。


「《クラン》活動としては基本的にこんな風に《幻想種》を退治していくわけだけども――っと、ちょうどいいところにきたね。今度はヤナちゃんが答えてくれた火車だね」


 アカリの説明の途中でやってきたのは、燃えさかる二つの車輪を持ちその中に挟まれるように猫のような物体が存在している《幻想種》――火車が二匹こちらに向かってきていた。


 すでに臨戦態勢となっているのか車輪の回転が激しい。距離があるというのに火の粉がこちらに飛んで来そうなほどだ。


 だが、そんな火車にたいして恐怖も感じることなくアカリは説明を続ける。


「理解しているとは思うけど火車はその名前の通り、火属性の《幻想種》。だから――」


 そこで言葉を句切ると一拍、


「《ハイドロキャノン》!」


 再びアカリが腕時計型の《魔導発動機》を構え、青い魔法陣を展開すると鉄砲水のような水流が二度火車へと襲いかかる。


 水流の勢いにのまれた火車は何も出来ぬまま吹っ飛ばされ、廃墟の壁にたたき付けられるとそのまま動かなくなり、その身体を消滅させる。


 だが、火車はもう一体いる。


 仲間がやられたことに腹を立てているようには見えないが、先ほどまでと同様に勢いよく突っ込んできていた。


「続いて……《ストーム》!」


 今度は緑色の魔法陣を展開すると、荒れ狂う風が巻き起こされ火車を呑み込んでいく。


 先ほどの水流と違って、火車はすぐには飛ばされず少し耐えていたが最終的にはその身体ごと吹っ飛ばされて、灰となって消えていく。


 二体ともあっさりとアカリの手によって駆逐されてしまった。火車を倒し終わったアカリは笑顔でシュン達へと振り返る。


「さて、確認を兼ねて再度質問といくよ? 一回目と二回目で同じ存在であるはずの火車に《魔導》の効き目が違ったのは何ででしょうか? 使ったのはCランクの《魔導》だから威力の違いは殆どないよ?」


 ――まあ、簡単だな。


《魔導戦士》を目指すのならば常識的とも言える問題だ。学院でもすでに習っているだろうが、《クラン》活動を行う上で念のため再度確認しているのだろう。


 全員答えられそうな問題だが、誰も動かない。ちらちらと視線を右往左往させているところを見ると積極性がないという奴だろうか。


 アカリもそれに気づいたらしく前回の質問同様自分から振っていった。


「じゃあ、これはシュン君に答えてもらおうかな!」


 どうやら一人落ち着いていたシュンに目を付けたらしい。


「先輩も言っていた通り、火車は火属性の《幻想種》です。それに対して、先輩が一回目に使ったのは水属性Cランクの《魔導》でした。これは火属性である火車には有利属性であるため火車はすぐに消滅ということになります」


 一端ここで区切り、呼吸を整える。


「一方、二回目に使ったのは風属性Cランクの《魔導》です。これは火属性の火車に対して不利属性となります。そのため火車が一定時間耐えてから消滅という結果になりました。不利属性でも火車が消滅したのはCランクの《魔導》に耐えられるだけの強さを火車はもっていなかったから……ということでよろしいですか?」


 シュンの回答にアカリは大きく頷いた。


「うん、オッケーだよ! シュン君はしっかり学んでいるね! 解説も完璧だよ。じゃあ、さらに質問! 今度は属性の有利属性、不利属性の関係性について答えてもらおうかな。下位属性……基本属性ともいうね……シオンちゃん答えよろしく!」


「は、はい! 下位属性の種類は《火》、《風》、《土》、《水》の四種類です。関係性は四すくみとなっていて、《火》は《風》に強く、《風》は《土》に強く、《土》は《水》に強く、《水》は《火》に強いといった風になっています」


「うん。こっちもばっちりだね。次は上位属性についてヒナちゃんとヤナちゃんお願いね!」


 続けざまな質問だがすでにある種パターン化されていたのでヒナとヤナの二人も慣れた口調で回答していく。


「上位属性と一般的に呼ばれているものはー、下位四属性が合体したものかなー」


「そのため別称として複合属性や融合属性とも呼ばれているのです」


「《火》と《風》をあわせて《光》―。《水》と《風》をあわせて《雷》―」


「《火》と《土》をあわせると《闇》になるのです。《水》と《土》をあわせて《氷》になるのです」


「そしてー、上位属性は個々の関係性を持っているため有利不利がないと言われているかなー」


「一応、上位属性は全て下位属性には有利に働くとも、《光》と《闇》に関しては互いに有利属性である相反関係とも言われているのです。どちらも未だ立証はされてないのです」


 二人で交互に答えているためかなり聞き取りづらいが、回答としては完璧だろう。


「うん、本当にみんな完璧だね。これだとお姉さん本当に言うことないわね……それじゃあもう少しこの周辺を探索して《幻想種》を倒していきましょうか。みんなの実力の確認も兼ねてね」


 茶目っ気のあるウィンクをしたアカリに連れられて四人は廃墟を移動し始めるのだった。


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