第5話 再会

あれから4年


織田さんは、敏腕マネージャーの腕をふるい

私も、ひたすら写真を撮り

時々、メディアでは撮られる側にまわり


そこそこ有名なコンクールで、賞を取ることも出来た


「センセイ、満足ですか?」

相変わらず、私の撮った写真をチェックしながら

織田さんは聞く


「え?」


「昔、有名になりたいって言ってましたよね?」


「あぁ、そうだったね」

私も写真を見ながら考える


有名にはなったけど

この写真で満足しているのか

と問われている


「でも、これが求められてるんだよね?」

私の問いに、織田さんは答えてくれなかった

自分で考えろ、と言われてるようだ



「しばらくは何もないので、ゆっくりしたらどうですか?」


「そうだね」




1人でふらりと出かけて写真を撮る

チェックをする

ダメだ


しばらく撮るのをやめてみようか

そう思っても、すぐに撮ってしまう

このまま撮れなくなってしまうんじゃないかという焦燥感


はぁ、ダメだなぁ



それでも写真集の売れ行きは順調なようで、重版されるという連絡が来た


その日の午後



インターフォンが鳴った

玄関を開けると


玲香が立っていた



「玲香…」


あまりに驚いて、たっぷり10秒は固まってた

「こんにちは。お邪魔しても?」

「あ、どうぞ」


リビングへ通す


「あ、これ。ケーキだから冷蔵庫に」

「ありがとう、コーヒーでいい?」

「うん」



「全然、変わってないね」

部屋の様子を見て、玲香が言う


「うん、何も変えてないから」


「ふふ」

小さく微笑むとエクボが出る玲香

変わってないなぁ


「変わってないよ」

私の気持ちも…という言葉は言えなかったけど



コーヒーと、玲香が持ってきてくれたケーキを頂く


「あ、イチジク?」

「うん」

「へぇ、珍しいね。初めてかも」

私がイチジク好きだから、買ってきてくれたの?

期待していいの?


「味、どうかな?」

「やばい、美味しい」

思わず、顔が綻ぶ


「ホントに?良かった」

「うん。これ、どこの?」

「実は、まだ試作品なの」

「ん?」

「お店で出そうかな」

「え、ちょっと待って。玲香のお店?」


「うん、小さいけど。つい最近オープンしました」

と、お店のカードを渡してくれた


『パティスリー Schatz 』


「あ、そういえば、玲香の高校、パティシエ科があったっけ」

「うん、毎日実習でケーキ作ってた。それで、ここ出てからね、高校の恩師に紹介してもらったホテルで修行してたの」


「そうだったんだ」


凄いな…玲香

やりたかったこと、夢、叶えたんだ


「おめでとう」

「ありがとう」


「今度、食べに行っても…いい?」

「もちろん。なんか、営業に来たみたい。ふふ」


こうやって笑い合える日が来るなんて思わなかったな


「祐も、おめでとう」

「ん?」

「凄い賞、取ってたよね?」

「あぁ、ありがとう」



「サインください」と言って

バッグから写真集を取り出した

世界でひとつしかない写真集


「約束、覚えてたんだ?」

「もちろん」


写真集を受け取って、捲る


織田さんが、最高の出来と褒めてくれた写真たち


全て見終えてからサインを書く

為書きと一言も添えて


「名前は変わってない?」

「うん、変わってない」


    滝口玲香さんへ

    永遠の愛を込めて



~~~


玲香が帰った後


昔のアルバムをひっぱり出した

データではなく、写真を。


玲香の写真を見て思い出していた


あの頃の写真


思わずカメラを向けたくなる被写体たち


ただ、撮るのが楽しかった日々


床中に写真とアルバムを広げた



そして、織田さんに連絡をした

しばらく留守にすると。




荷造りをして、翌朝、旅に出た


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