異世界召喚されたのでチートスキルで無双するはずだったのに、いつまで経っても自宅待機が解除されません

amanatz

第1話


おかしい。断じて、納得いかない。

こんなはずじゃなかったのに。

僕こそが、異世界を救う勇者として無双する主人公になるはずだったのに。





ある日のこと、引きこもりだった僕は突然、異世界に召喚された。

気が付くとそこは、魔法世界・オレンジニアの、アフォーラという小国のお城。

僕を喚び出したという王様と王宮魔法士に話を聞くと、いまこの世界では数百年の封印が解けた魔王・アンダルシアが再び強大な力を振るい始め、魔物たちの勢力がどんどん拡大しているところらしい。そこで、かつて魔王を封印しオレンジニアを救った勇者の伝説に倣い、異世界から勇者になりうる人物として、この僕を召還したという。



うんうん。ほぼほぼ、どこかで読んだことあるやつだ。

なんというテンプレ通りの異世界なんだろう。

まさか、この僕が、その主人公になるなんて。



しかも、異世界から召還した人物には、この世界の人間が生まれつき持つ何かしらの魔法スキルを、新しく付与することができるという。

なるほど、何でも自由に選べるというのは、ある種のチート設定だな。ちょっと意外な、一見弱そうなスキルを選んで、はじめは周りからめっちゃ馬鹿にされるんだけど、スキルの特徴をフル活用して無双するタイプのやつだ。

これは楽しみになってきたぞ。



気になるのは、長年続いた平和の末に、この世界では人間同士での争いが常態化していて、魔王が復活した今でも、依然として小競り合いが絶えないということ。むしろ、自分の国で魔王を封印し、その後の世界の覇権を得ようと、先を争っている状況なのだという。


全王国中、最大の版図を誇る帝国、シト=ラス。

世界地図の中央付近、街道が集まり世界一の港町も有する、交易の中心地、タンゴール。

他国に対し極めて攻撃的で、独自の攻撃魔法を多数開発している魔法軍事国家、レモンヌ。

遥か東に位置し、鎖国政策によって独自の文化を守る謎めいた国、ウンシュウ。

その豊かな富により、あらゆる国々の干渉を退けている中立都市、『黄金の街』ショーナンゴールド・・・

その他、もろもろ。

ありあらゆる国が、それぞれに勇者を異世界召還し、続々と魔王のもとへ送り出していると聞いた。


ライバルが多いのか。もしかしたら、これ、クラスメイトと戦うことになるパターンになるのかな。それはちょっとイヤな展開だな。

でも、そんな事情から、一足遅れて僕を召喚したアフォーラは、国を挙げてバックアップしてくれるという。最初、いきなり迫害されて最悪の状況からスタートする展開も多いんだから、そうじゃなかっただけ全然マシだ。

そして、何より魅力的だったのは、旅のお供。王宮一の腕前を持つ女性剣士カラと、百年に一度の魔法の天才だという少女魔法士マーコットという、タイプの違うかわいい女の子を二人連れて行っていいってことになっている。

二人ともめっちゃ強くて頼りになるみたいだし、国を背負う勇者として、好感度も最初からバカ高い。これはもう、やる気充分になるよね。頑張るしかないし、すごく頑張れるよね。



そんなわけで。

召喚から十日以内に魔法スキルを選択するとのことだったので、ここが重要と考えた僕は、お城に与えられた豪華な一室で、期限ギリギリまで頭を悩ませることにした。

さて、どんなスキルなら、無双することができるだろう・・・?



しかし。

事態は、急転する。

残念ながら、急転してしまう。

テンプレ通りの異世界で、まったく予想だにしなかった展開になってしまう。





僕が召喚された三日後のこと、通信魔法を用いて各国の首脳が会談を行う『世界会議』が、緊急事態発生という報を受けて、急遽開催されたらしい。

なんでも、世界中で、未知の病気が瞬く間に拡大しているというのだ。



そしてどうも、原因は、各国が急激に行った異世界召喚にあるらしかった。

少女魔法士マーコットによると、この世界の魔法は、大気中に含まれている『魔胞子』を利用して、さまざまな効果を引き出すという設定、じゃなかった、仕組みになっているという。ただ、異世界から召喚された勇者たちは、それらの魔胞子に触れると、この世界の物質とは異なる反応を引き起こし、魔胞子を人体に有害なものに変えてしまう、らしい。

そして、有害な魔胞子は、取り込んだ人間の身体を病気のように侵しつつ、その飛沫からさらに周囲の人間に拡がってしまう。そう、まるで、ウイルスによる感染症のように。



というわけで、僕のように各国で召還された勇者たちは、世界を救う英雄候補から一転、存在するだけで病気をまき散らす感染源とされ、完全隔離することが決議された。世界会議史上、初めての満場一致で、そう決まってしまった。

そして僕は、自宅待機を命じられたのだった。



気がつくとそこは、見慣れた、悲しいほど見慣れた、もとの世界の僕の部屋。

僕は、せっかく勇者として異世界に召喚されながら、スキルを選んで存分に奮う前に、ダブルヒロインと冒険を通じて心を通わせ合う前に、強制送還されてしまったのだった。



なんだこれ。

僕の物語が、感染症によって、プロローグだけ済ませたところで無期限に中断されてしまった。

おかしい。断じて、納得いかない。

こんなはずじゃなかったのに。

僕こそが、異世界を救う勇者として無双する主人公になるはずだったのに。



「本日の国内の感染者数は三十五人、うち重傷者は高齢者二人。世界全体では、まだ、千人を下回らない状況のようです」

それからというもの、僕の毎日は、一日の終わりに届くマーコットからの通信を聞いて、まったく収束する気配を見せない感染者数にため息をつくだけの生活になってしまった。

現状は、突然変異した魔胞子を浄化する、いわゆるワクチン的な魔法をなんとか生成できないか、世界中で研究開発しているところだという。

まだまるで見込みが立たないというそのワクチンができるまで、僕は部屋で独り寂しく、いつか無双することを夢見て、魔法スキルを選ぶだけの日々を過ごすしかない。こんなの、召喚される前と同じじゃないか。そして、ずっともどかしく、むず痒い。





なお、その後ほどなくして、突然変異魔胞子による感染症は、魔物にも伝染することが確認される。

そして、適切な予防方法も治療方法も持たない魔物たちの間で次々と感染が広がり、結果として異世界から勇者を召還する必要がないほど魔王の軍勢に大きな打撃を与えたため、その後再び呼び戻されることがなくなるとは、このときの僕はまだ、知るよしもないのだった。

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