名前未定

aaaa

一章 01


                   ⚪︎


医者A:「一華いちかさん、蔵雨くらさめ一華さん。聞こえますか、一華さん」

蓮華 :「一華……一華!!」

医者B:「下がってください!蓮華れんかさん、下がって!

     君、急いで集中治療室へ!」


蓮華 :「クソッ!分かってた……分かってたよ……分かってたんだよ!」

蓮華 :「なのにどうして……どうして俺は何も出来ないんだ……

     どうして俺はこんなにも、無力なんだ」


                    ⚪︎


一華 :「兄さん、兄さん」

蓮華 :「っ!な、なな、なんだ一華」

一華 :「……兄さん?どうかしたの?」

蓮華 :「ど、どうかしたって……別に何も。

     今まで普通に話してたろ?おかしなこと、口にした?」

一華 :「ううん、そうじゃない。だって、兄さん。目から涙が出てるよ?」


                    ⚪︎


安井 :「この度はご即位おめでとうございます、蓮華さま」

蓮華 :「頭を下げないで。当主になって嬉しいなんて、これっぽっちも思ってな

     いよ。16の俺が母さんの代わりにならないこと、安井やすいさん

     も分かってるでしょ?」

安井 :「その継承物を受け取ったあなた様は、もう立派な蔵雨家当主です。

     それに、蓮華さまには天から賜りし才能がございます。

     今はまだ遠くとも、貴方ならきっと直ぐにでも辿り着くはず」

蓮華 :「そんな根拠もないでしょ」

安井 :「沙耶華さやかさまがおっしゃっていましたよ。蓮華さまは特別だと。

     その言葉を、私は信じています」

沙耶華:「蓮華は特別なの。特別の意味、分かる?他の人より優れているって

     意味。だから将来、お父さんみたいにただカッコいいだけじゃ駄目

     よ。凄くカッコいい男になりなさい」

蓮華 :「特別じゃない。俺なんかただの凡人だ」

安井 :「手術が成功、完治と判断されたにも関わらず、沙耶華さまは蓮華さまと

     一華さま、お二人に遺書を用意した。しかも前日、蓮華さまが見舞わ

     れた日に。単なる偶然か、それとも」

蓮華 :「単なる偶然だよ」

安井 :「ですが、これだけは確かです。

     沙耶華さまは、決して嘘を付かないお方でした。だからこそ、もう一

     度言わせて頂きます。蓮華さまには、天から賜りし才能がございます」

蓮華 :「……俺なんか特別でもないし、母さんの代わりにもなれない。当主に

     なっても、期待に答えられるはず───安井さん?」

安井 :「蔵雨の執事として、私安井は最後まで貴方に付き従います。私の意志に

     従って」

蓮華 :「……先に帰る。式典の後片付け、頼んでもいい?」

安井 :「構いません。一華さまのお見舞いへ?」

蓮華 :「後はお願い」

安井 :「承知しました」


蓮華 :「一人、か」


【医者B:「下がってください!蓮華さん、下がって!

      君、急いで集中治療室へ!」】


蓮華 :「絶命の未来視。

     人が死ぬ、絶対の未来を垣間見る特別な力。

     はぁ……そうだよ、特別だよ。他の人にはない才能だ、安井さん。

     けれど、特別だからって何が出来るってんだよ!!」

蓮華 :「死ぬ未来を見たって、何の役にも立たねぇんだよ!!

     こんな右目があったって、俺は……家族一人も救えねぇ。

     どうしてなんだ……どうして……どうして……クソォッ!!」


蓮華 :「……ナイフ」

安井 :「継承物は、一人の時に開封してください。

     限られた者にのみ、目にすることが許されぬ一品。

     さぞや蓮華さまが持つに相応しいことでしょう」

蓮華 :「これが、蔵雨家の継承物。

     普通のより鋭い。ナイフっていうより小さい刀か。あ……血出た」

蓮華 :「簡単に肉を絶てる。簡単に血が出てる……簡単に……簡単に

     ……あぁ、そっか。これで

     ───右目を落とせる」


蓮華 :「……鏡の前でも辛気臭い顔してるな、俺」

蓮華 :「(眼球を抉るって、どんな感覚だろう。

     痛いのか、それとも痛みはないのか)」

蓮華 :「まぁ、実際にやってみるのが、手っ取り早いだろうな」

蓮華 :「(右目が落としたら、当主の座から降ろされる。

      普通の人間としてではなく、特別でもなく、そう……異常者として扱

      われるだろう。けれど、この右目を潰せるのなら───)」

蓮華 :「なんだって受け入れてやるよ」


                   ⚪︎


?? :「存在を許されぬ者、ノーネーム。

     クリフォトに選ばれ、運命を裁断する力を与えられた癖、その力にすら

     気付かない。ふっ、宝の持ち腐れとは正にこのことよ」

蓮華 :「な、なんの……こと……」


蓮華 :「(なんだ、この映像?

     男に首を絞められ……いや、そもそもなんで俺が殺されそうになってる

     んだ?)」


?? :「かわいそうに。だが、これで我々の任務も滞りなく完了する。

     我らは神の代理人。神罰の代行者。我が命に従い、神に逆らいし哀れな

     愚者を、一片残さず絶命すると誓おう。エイメン」

蓮華 :「───ガハッ!───カハッ!」

蓮華 :「(殺されてる……俺が殺されてるぞ!おい、おい……!)」

?? :「おぉ!!肉だ!いい肉だ!もっともっと味あわせろぉぉぉぉぉ

     ぉ!!!!」

蓮華 :「(やめろ……やめてくれ……やめてくれ……!)」

?? :「もっと!もっと!もっともっともっっっっっっとぅ!!!!」

蓮華 :「───俺はまだ、死にたくないんだァァァ!!」


?? :「待っていたぞ、次なる担い手の到来を」


                   φ


蓮華 :「はぁっ……はぁっ……はぁっ……い、一体何だったんだ?

     映像が、止まったのか?けど、ガラスみたいにバラバラに弾け飛んだよ

     うにも」

蓮華 :「このナイフが?……いや、まさか」


詩音 :「夜遅くにごめんね。

     忘れてないだろうけど一応連絡。

     明日、委員会の買い出し。10時に駅前集合。OK?」

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名前未定 aaaa @tukiyashinoyuki

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