第21話 旗艦での会話 その1

    作戦室には山本が人を連れて戻っていた。      


岡本晃司「山本長官、こちらの用事は完了しました」


山本五十六「そうか、こっちが参謀長の宇垣纏だ。黒島がまだ来てない。

      あいつがきてから詳細を頼む。

      宇垣参謀長、彼が軍令部お墨付きの岡本晃司中尉だ、

      時期に軍令部より正式に階級が決まると思う」


晃司「初めまして宇垣参謀長、岡本晃司と申します。詳しい自己紹介等は、

   黒島首席参謀が到着し次第、お二方に致します」


宇垣纏「初めまして、岡本中尉。参謀長の宇垣纏だ、以後お見知りおきを」

 

    しばらくして後、黒島が到着した。


黒島亀人「黒島亀人入ります」


山本「よし四人揃った(そろった)な。晃司、詳しい自己紹介と、

   俺に言ったことを、出来るだけ全部、この二人に話しなさい」


晃司「はい長官。初めまして黒島首席参謀、岡本晃司と申します。

   恐らくしばらくすると、正式に中尉になると思います。

   宇垣参謀長には先程、ご挨拶だけさせて頂きました」


黒島「初めまして、岡本中尉。首席参謀の黒島亀人だ宜しくな」


    晃司は宇垣と黒島に自分の正体と、

    山本に話したほぼ全てを話した。

           

黒島「なにー、本当か?それはー」


宇垣「信じられません。山本長官、本当にお信じになったのですか?」


山本「黒島はともかく、宇垣がにわかには信じられんのも無理はないな。

   ここに軍令部総長永野大将の命令文がある、

   二人ともこれを読んでみい」


    二人は永野の山本宛の命令文を一通り読んだ。


宇垣「こんなことが。本当に、こんなことが」


黒島「こいつは驚いた、本当のようだ」


宇垣「で交渉というのは成功したんですか?長官」


山本「した、大成功だ。だから今、彼はここにいるんではないか。

   今帰ってきたところだ。ここにフーヴァーからの自筆の書面がある。

   少しくらい英語も読めるだろ、これも二人とも読んでみい」


黒島「ほんとうだ。ひえーこいつはまたまた驚いた。お前さん大胆だねー」


宇垣「考えづらいが、それはともかく君、年はいくつだね?」


晃司「はい、22です、宇垣参謀長」


宇垣「22でこれか、大した胆力だ。我々の子孫たちも捨てたもんじゃない

   ですね」


黒島「俺の22の頃もこんなことは思いつかなかったな」


晃司「失礼ですが黒島首席参謀、宇垣参謀長も。私の行っていた

   防衛大学校にも私より優秀な生徒は沢山いますよ。

   私の場合、今回歴史を知っているからできただけのことですよ」


黒島「またまたご謙遜を、にくいねー」


宇垣「それにしてもこれは大した成果です」


山本「うむ。俺はこの岡本晃司を参謀の列に置き、事実上の俺の腹心の一人と

   しようと考えている」


宇垣「とはいえ、まだこんなに若くて、階級も中尉ですよ、長官」


黒島「私は賛成ですよ、これには、長官」


山本「育った環境はどうであれ、優秀なものに年齢や性別、階級などは

   本音のうちでは関係ない」


    このとき晃司は妙に黒島亀人に好感を覚えた。

    山本五十六が宇垣纏を冷淡にし、黒島にじきじきに作戦の相談を

    したこともあるくらいなのが、わからなくもなかった。

    と同時に、自分が山本と宇垣の斡旋をしてみようと考えていた

    のが難しく感じ、情けなくも思った。


山本「二人とも岡本中尉の本当の正体と、今彼が言ったこと、

   軍令部からの命令等は一切他言しないように。

   園田一花時期少尉の正体もだ」


宇垣「分かりました」


黒島「了解です」


山本「他の参謀、艦橋の連中には、彼のことは軍令部お墨付きの士官で、

   海軍兵学校出としておこう。分かったな二人とも、

   晃司お前自身もだ」


宇垣「承知しました」


黒島「了解しました」

 

晃司「はい、分かりました」


山本「彼とはさっき、ここに南雲も呼ぼうとしたところだ。

   南雲には時期に、本当のことを伝えるつもりだ。

   他の司令官等にも必要に応じて、最低限のことは伝えるつもりだ。

   あと君らから、彼に話したいことがあったら、俺達以外、誰も聞いて

   いないところで、細心の注意を払って頼む。

   まあ今聞きたいことがあったら、聞いてみるといい。

   ああ、俺から聞こう。晃司、お前フーヴァーに自分の正体は

   明かしたのか?」


晃司「いえ、自分には数年以上の未来が見え、あまり遠い未来のことは

   語らず、自分を捕らえても、日本には同じような人間が、

   沢山いるから両者大損をするだけだ、とまず言っておきました」


山本「そうか年齢等のことを言ってはいかんが、その若さでなかなかだな」


黒島「お前さんくらいならフーヴァー相手に、

   はったりの一つや二つは言えるかもな」


宇垣「大した若者だ、本当に君の様な若者が軍の無くなった未来の

   日本にそんなにいるのか?」


晃司「はい、沢山いますよ。まだ大学生で私より優秀な人間が

   いっぱいいます」


宇垣「それは本当に頼もしいことだな。それはそうと、細かいことはいいが

   最終的にどうやって、フーヴァーと提携したのかな?」


晃司「内容は本当ですが、時間的には半分は、嘘の恫喝(どうかつ)を

   入れました、宇垣参謀長」


宇垣「それなら、ある程度具体的に、聞いてもいいかな?」

 

晃司「はい。話の段階上それまで、政治的に、本当の話をして、彼はある程度

   折れていたんですが、なかなか首を縦に振らず、科学技術の兵器利用に

   ついて、我々の時代にある兵器まで持ち出して最後には了解を得ました。

   兵器についてなんですが、我々の時代まででは、まずこの戦争で米国は、

   日本に対してお話ししたように、原子爆弾を落とします」


宇垣「さっきも聞いた原子爆弾か、核爆弾とは具体的には、

   どういったものなのかね?」


晃司「はい。詳しい物理学は私も知らないんですが、核爆弾というのの一つに

   原子爆弾、通称原爆というものがあって、文面にもあったようにもう

   数年もすれば実戦投入段階に移ると思います。

   この原爆は核分裂という原子核物理反応を兵器利用したものです。

   自然界には元素という、物質の最小段階に、化学として周期表に

   載せられ分類されている物がありますが、簡単に口頭で言えば、

   そのある元素が分裂して違う物質に代わることを核分裂といい、

   原子核物理反応の一つとされます。

   この核分裂を起こす際に、膨大な、エネルギーが発生します。

   これを爆弾という形で、兵器利用したものが原爆です。

   これは日本にしか世界では落とされておらず、

   広島と長崎に落とされます。

   これはさっきお話しした通りですよね。

   それで彼には、もしこの交渉が決裂すれば、我々日本には私の様な

   人間がいくらでもいて、日本は簡単には負けず、世界大戦は長引き、

   その結果この原爆、核爆弾の実戦投入が世界各国で、すぐそこまで

   せまっており、世界は核戦争に突入し、泥沼化すると、ひとつ

   言ってみました」


宇垣「なるほどだいたい原爆の理屈等は分かった。それで、そこでも

   はったりをもちいたのだね、君は」


晃司「未来を見通せる人間が日本にはいっぱいいるというところだけは、

   はったりです。宇垣参謀長」


宇垣「それではそれ以外は本当のことということだね」


晃司「はい。予測も含めてこのはったりが本当だとしたら

   世界はこうなるかと」

      

宇垣「それも恐ろしい話だが、それ以外はなにかあるかね?」


    宇垣が聞き晃司は答えるのであった。


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