第23話 旗艦での会話 その2
晃司は宇垣の質問に答えた。
岡本晃司「はい。今の話以上に、今度は核融合と呼ばれる原子核物理
反応があります。
これは先ほどの核分裂の反対の反応で原子核が融合して別の
原子になるという物理反応です。
先ほどの核分裂の兵器利用は理論的には、ナチスの迫害から
逃れるために、米国に渡って研究を続けた、ユダヤ人の
アルベルト・アインシュタインがいますが、彼の了承を得た
物理学者達が考案したもので、実用段階程度まで、
少なくとも理論的に、構築したとされています。
そのアインシュタインが提唱した、物理学理論に相対性理論
というものがあります。
これは我々の時代でも、大学の物理学過程専攻の人間しか
詳しくやらず、私も詳しくは分かりませんが、相対性理論の
一部を表現したものに、E=mc^2という数式がありまして、
Eはエネルギー、単位は一般にJ(ジュール)を用い、mは質量、
単位はKg(キログラム)を用い、cは光速
(光の速度:3.0×10^8(m/s)メートルパーセコンド)
です。
言葉で簡単に、この簡潔な数式を言うとすれば、
物質は光の速度を媒体にして、全てエネルギーに変換される
ということになります。
物質の質量が全てエネルギーに変換された場合エネルギー
変換効率100%ということになり、この数式によると、
核分裂反応でエネルギー変換効率0.1%程度、核融合反応で
エネルギー変換効率0.7%程度になります。
核融合反応を兵器利用した物の一つに、水素爆弾というものが
あり、その水素爆弾、通称水爆は私たちが生まれるずっと昔に、
ソ連が世界で初めて、ビキニ環礁で地上実験を行いました。
それだったかなんだったか、水爆は一発で四国と同じ面積の
地上が、一瞬にして焼野原になりました。
それでも、それに利用した核融合反応とは、核分裂反応の7倍
程度のエネルギー反応であり、エネルギー変換効率0.7%程度
なのですが。
実は、少なくとも理論的にはエネルギー変換効率100%の
物理反応で、対消滅(ついしょうめつ)というのがあるの
ですが・・」
宇垣纒「ちょっとまってくれ。この年になると、自然科学的なこと、
特に新しいことには、理解が難しくなるのだが、まあつまりその
水爆で、一発で四国と同じ面積の地上が一瞬にして焼野原になる
というのだね?」
晃司「はいそうです、宇垣参謀長」
宇垣「そしたらそんな破壊力、運搬した爆撃機や潜水艦等が破壊されないか?」
晃司「そう考えますよね。そうなんですが私たちの時代より、ずっと前から
ミサイルという無人の運び屋がありまして、うーんそうですね、
この時代で言ったら魚雷のような物の空中、または、宇宙空間版と
考えていただければわかるかと思いますが、そのミサイルは私たちの
時代では、既に大陸間を横断出来るものなんです」
宇垣「本当に恐ろしいことだここまで聞いたことは、でそしたらどうなるね?」
晃司「はい、これは私たちが生まれる以前から警鐘(けいしょう)が鳴ら
されていたとされていますが、この大陸間弾道ミサイルが
感知されると、自動的に自分の方からもミサイルが発射
されると言われています。
このミサイルに水爆や原爆を搭載すれば、核ミサイルの出来上がりで
あり、これがこのような使われ方をされると、人類は核の冬によって
滅亡すると言われています。
人類どころか、地上のあらゆるほとんどの動植物が、こんな蟻(あり)
すら残らず滅亡すると言われています。
私たちが物心つくまでこの戦争が終わるとアメリカとソ連が世界
二大大国となり対立するようになり、このにらみ合いがつづきました。
これを冷戦といいます。
この冷戦の時代から人類滅亡の警鐘(けいしょう)が
鳴らされております」
宇垣「なんということだ。人類どころか、ほぼあらゆる地上の動植物が
滅亡するだと。
そんな時代が君が生まれるよりずっと前、ということは半世紀もせず
訪れるというのか。
それで君はそのことをフーヴァーに言ったのかね?」
晃司「はい。ここまで事細かに説明する時間と駆け引きの余裕がなかった
ですが、これも時間的には、嘘をつきこの大戦が長引けば人類を含め
地上のあらゆる、ほとんどの動植物が滅亡すると述べました」
宇垣「まったくもって本当に恐ろしいことを考えつくものだ
人間というのは。
それにしても君も飛んだ詐欺師だね」
山本五十六「おいおい、そんな言い方はやめんか」
晃司「いえ山本長官、確かに詐欺師呼ばわりされても、しかたがありません。
しかし、日本の非戦闘員まで、故意に殺戮(さつりく)されるより
はるかにましです」
黒島亀人「確かにその通りだ。俺がお前さんの立場でも、似たような選択を
したと思うぞ」
晃司「私は独創性というのにはそれほど自信があるほうではないですが、
黒島首席参謀でもこんな具合に考えますか。
なかなか発想っていうのも難しいですね」
黒島「買いかぶってもらっては困るぞ、俺だって一人のただの人間だ」
晃司「失礼しました」
山本「しかしお前達の時代の学生は、高度な科学を学問とするものだなあ」
晃司「欧米式です。あちらで学ばれた山本長官なら理解しやすいかと
思います」
山本「この年とはいえ、ついていくだけでも苦労するぞ」
晃司「僕も難しい数式等は、一般教養か雑学程度で、本格的にやるには
20才過ぎても大学課程以上で専攻しなければなりません」
山本「さっきから兵器利用と言っていたが、平和利用はお前たちの時代は、
どうなっているんだ」
晃司「はい、原子核反応に関しては、核分裂反応は原子力発電というもので
平和利用されています。
これは簡単に言うと、火力や水力または風力の代わりに、
核分裂反応により水を沸騰させ圧縮し、沸点が高いため高圧に
された勢いの強い水蒸気で、タービンを回し発電をするというもので、
我々の住んでいた時代の日本では、震災が起きるのですがそれまでは
半分ほどの発電が、原子力発電でした。
火力をはじめ、水力や風力等では原始的でした。
あと核融合反応に関してはこれは制御が難しく、エネルギー反応が
一億度を超えるため、容器がなく、磁器容器等が開発段階ですが、
まだ工学技術には至っておらず、僕らのいた日本や世界中でも、
これはまだまだ実用化されていませんでした」
山本「ふむ。なんとなくわかった」
晃司「すみません長官。僕が原子力については素人で、雑学程度でしか
説明できず、曖昧な表現になってしまいます」
山本「いやいい。それはしかたがない」
宇垣「あとこの人類滅亡の危機を訴える前から、もうフーヴァーは結構
折れていたと君は言っていたね、それはどうやったのかな?」
晃司「はい、世界の各国の主義等に関して、私達の実際の歴史を予言
と言う形で、表現したらぐらっときてました」
黒島「お前さんその時点ではったり使っていたのか。フーヴァーにそこまで
はったりを効果的に使ってのける人間なんて、
今の日本にそんなにいるのか?」
宇垣「まってくれ黒島首席参謀、もう少し具体的に聞きたい。
いいかな?岡本中尉」
晃司「ええ、結論から言うと、この世界大戦つまり第二次世界大戦で一番得を
するのは、戦後すぐ米国と対立する共産主義のソ連であると
説きました。
連合国が勝利したとしても米国は人的、経済的に損ばかりして得する
ものはほぼ無く、英国にいたっては、米国を大戦にまきこむがため、
日本の大東亜共栄圏によりアジアの独立機運を高めさせ、次々に
植民地を失い、大英帝国は滅ぶと。
そしてそれに比べて、ソ連はヨーロッパの半分を支配したばかりか、
毛沢東の共産主義に支援し、中華社会主義大国(中華人民共和国)を
樹立させる。
更には英国、米国内に共産主義を普及させることも、それなりに
詳細に述べました。
大体はそんなところで反共産主義の彼はぐらつきました。
あと前もってルーズベルトを批判していた彼に賛同し、
閣下達に説いたルーズベルトの大東亜戦争の画策についても
言い当てておきました。そんな感じです、宇垣参謀長」
宇垣「うーん、そういうことかあ。結局どこが得したかを説いたわけだな」
晃司「ええ、フーヴァー自身の意見が正しかったどころか、スターリンの
前では、ルーズベルトもチャーチルもまったく、及んでいなかった
ことを述べました」
宇垣「なるほどなあ。で、それを未来が読めるというふりをして
言いのけたのだな」
晃司「おっしゃる通りです、宇垣参謀長」
宇垣「戦後そんなことになるのか。それにしてもまったく、
君は横文字で言うペテンの才があるなほんとに」
晃司「少々褒められたと思っておきます」
黒島「お前さんいい根性してるぜ」
晃司「こうでもしないとフーヴァーなんて、口説けませんよ」
黒島「面白いやつが来たもんだ。戦略の方も是非お手並み拝見と
行かせてもらうぞ」
晃司「一緒にして恐縮ですが、お互い頑張りましょう。黒島首席参謀」
黒島「おう、いい勝負出来るよう俺も頑張るぞ」
晃司「皆さんに置いて行かれないように精進します」
晃司はなにか、自分まで宇垣を、カヤの外に置いたように
思えて申し訳ない気持ちになったのである。
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