第5話 二人の会話 その3

岡本晃司「少なくとも動物には生まれながら闘争本能があって、人間の場合その

     形態の一つに軍事というものがあるよね。

     他の動物と違って人間はそれによって殺傷までするけど、人によって

     はこれを愚かにもそして賢明にもという人たちもいるね」


園田一花「さっきもいいましたけど、アメリカは特に戦争で外からの大量の殺傷を

     されたことのない国であって、恐らくは本質的には敵を求め戦争を

     望んでいる人種も多いんでしょうね」


晃司「俺もそうじゃないかと思うよ。俺たちの歴史では第二次世界大戦のうち

   大東亜戦争では、東京大空襲を機に無差別爆撃(無差別攻撃)が開始される

   よね」


一花「ええ指揮したのは、ヘンリー・アーノルドに任命されたカーチス・ルメイ

   ですよね」


晃司「戦後ルメイは日本爆撃に道徳的な考慮は影響したかと質問され、

       

    [当時日本人を殺すことについてたいして悩みはしなかった。

     私が頭を悩ませていたのは戦争を終わらせることだった]

       

    [もし戦争に敗れていたら私は戦争犯罪人として裁かれていただろう。

     幸運なことにわれわれは勝者になった」


    [軍人は誰でも自分の行為の道徳的側面を多少は考えるものだ。だが、

     戦争は全て道徳に反するものなのだ]


   と言っているよね」


一花「ええ、もちろん私もそれは知っています」


晃司「最初の文言に対しては、かつてアメリカ大統領を戦前務めた人物に

   言わせると、特に原爆投下について、


    [アメリカ人の良心を永遠に責め苛むものである。]


   と述べられているね。無差別爆撃もそうじゃないやろうか。

   ルメイはアメリカ軍人のことばかり考え、日本人のことどころか

   アメリカ国民全体のことを考えていなかった。

   これは極論すればほとんど利己主義というしかないんじゃ

   ないやろうか」      


一花「無差別爆撃などせずほかに戦争を終わらせる方法はなかったのでしょう

   かね。

   日本国内では、サイパン島の陥落以来大東亜戦争の帰趨(きすう)は決した

   として日本は、戦争終結の動きが模索されていますもんね。

   アメリカもこれを知っていたと思いますが。

   ウィンストン・チャーチルの言葉を引用すれば、彼は、


    [最後の攻撃の拠点となっていた海洋基地を押さえ、突撃に出る

     ことなく本土軍に降伏を強制することができたのは、ただ海軍力の

     おかげだったのである。日本の艦船は壊滅していた。]       


   と述べていますよね」


晃司「具体的にはどうすればいいかは、にわかには俺にも思いつかないけど、

   決着がついた後の、無差別爆撃など誰でも出来るねえ。

   非戦闘員つまり女子供しか殺傷できないと言う事やね。

   これは軍人の無能を示すといっても、過言ではないやろうか」


一花「確かにそんなこと私でも考えつくことは出来ると思います」


晃司「そして次とその次の文言については、こいつは軍人が人間ではないと

   言っているようなもんやね。

   人間でないなら戦争犯罪人として裁かれようが、怖いものなんか

   ないということになるがそうではない。

   この理屈はなんとルメイという人物は卑怯であり、臆病者であることを

   示してるんやと思う。

   この当時欧米の白人の間では、黄色人は人間と猿の間の動物であると

   聖書を誤解して認識していて、それは俺らのいた世界でも

   無くなっていたと思うけどまだ差別は残ってたよね。

   まあ仮に人間未満の下等生物でも殺傷したら罪になるんやけどね。

   で軍人も人間であり、その殺傷の故意的なものはせめて、戦闘員のみで

   よくて、それでも人として罪を感じることから普通は逃れられない

   はずよね」


一花「無差別攻撃というか、非戦闘員への故意の殺傷というのに、抵抗を

   感じてるんですね。私もそれは同感ですよ。

   それとやっぱり先輩は軍人に対して、悪く言われるようなことには、

   反感を覚えるんですね」


晃司「かもしれんね。それに軍の上層部はともかく、政治家等は直接武器を

   持って、人を殺傷せんから麻痺している人間もいるんかもしれんね」


一花「政治家もそうかもしれませんけど軍の上層部はそうとは限らないんでは

   ないでしょうか」


晃司「まあ、ただルメイは直接爆撃にあたる部下に向かってこうも

   言うているね。


    [爆撃する際、日本の女子供が悲鳴をあげているのを君は想像

     することもあるだろう。

     しかし君にそんな気持ちが少しでも起こればそんなものは

     ためらわず一切捨ててしまうことだ。]


   ってね。軍人になりたかったからかもしれんけど、日本人としても

   俺はこいつだけは許すことはできないんよ。

   こんなやつがいたんやから、俺たちの時代のアメリカの政治家や軍の

   上層部も、素晴らしい人物はいたはずやが、必ずしも全てがそうとは

   限らんと思える。

   だから俺はこの戦争を負けにしたくはないのよ。

   これから自分が連合軍の将兵戦闘員を殺傷することになった

   としてもね」


一花「心中お察しします」


晃司「さっき言った無差別攻撃なんかせんと戦争を終わらせる方法っての

   やけど原爆投下なんかはどうなんやろねえ。

   表向きは原爆投下はアメリカ軍が日本本土上陸しても、日本は

   徹底抗戦するため、アメリカ軍の死傷者をこれ以上増やすことを

   避けんといかんから、ということになっているけどね」


一花「先ほどのかつてのアメリカ大統領と同一人物だと思いますが彼はこう

   言ってますね、


     [1941年の日米交渉では、フランクリン・ルーズベルトは

      日本側の妥協を受け入れる意図は初めからなかった。

      彼は日本側の誠実な和平の努力をことごとく潰した]

       

   と。更にアメリカ陸軍アルバート・ウェデマイヤーは、

  

     [ルーズベルトをはじめとする英米が掲げた日独に対する

      無条件降伏の要求を、戦争を不必要に長引かせ、かつ必要以上に

      残酷なものにした]

   

   とありますね」


晃司「ルーズベルト等は戦争を長引かせたかったんじゃないかな」


一花「どうしてですか?」


晃司「原爆が完成するまで戦争を終わらせたくなかったってこと。

   原爆投下はルーズベルトが決定したもので日本の11都市に投下する予定

   やったからね。

   その中には日本の古都である京都も含まれてる。

   トルーマンは実際命令の一部を下したに過ぎんかったよね」


一花「ですよね」


晃司「とは言え、戦後世界ではアメリカとソ連とが覇権争いになることも

   予測は簡単で、これに対する抑えや威嚇(いかく)の意味でもあるし、

   トルーマンは戦後アメリカの圧倒的な軍事力を世界に示すために、

   実戦においてその効果を地上実験の意図もあって実際に使って

   みたかったというのが本音やと思うよ」


一花「なるほど。そういうことですね」

           

    第一印象とはちょっと違う晃司の考察力に、一花は何か

    憧憬(どうけい)に似たものを無意識のうちにも感じていた

    のであった。

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