第4話 二人の会話 その2
園田一花「そういえば先輩はどうして防大に入ったんですか?」
岡本晃司「んー、勉強がしたかったからかな。物心ついたときくらいには軍人に
なりたいとも思ったんやけどね。
ふとこの国には軍隊はない。
なんでやろうと思ったりもしたけど、それから字が読める様になる頃には
学校だけじゃなくて、本やインターネットで歴史なんかも学んでどうも
学校とインターネット動画や本では史実が違うことに戸惑ったかな。
そして軍隊が無い理由をしってからは、よく覚えてないけどそのまま普通
に学校生活したかな。
で小学校中学年くらいやったかな、もうそれくらいなると皆教養も結構身
について、それなりの考えをもつはもんと思うけど、我々の国の先祖は
戦後も確かに、みんな勤勉で優秀で、すぐに経済、技術大国と言われる
先進国に復興したけど、小さいころ俺は何かが他の先進国と違うと思った
なあ。
例えば特に国連軍の人達なんかに、金だけ出して人を出さないのは国民
そろって卑怯のそしりを受けることになる。
そしたら誰がどうやってそれに反論するのか、こう思ってこれを人に
言うのなら自分は行ってもいいなとも思ったかな」
一花「大人でも現状の日本国憲法をそのまま信じているのか誤解しているのか
自衛措置まで戦争という概念でとらえる人もいて戦争反対という人もいます
し、人によっては卑怯でもいい臆病と言うなら言っていればいいが、自分は
個人の自由を主張するって言う人もいますもんね」
晃司「前者は政府解釈では、憲法九条1項の戦争の放棄はいわゆる侵略戦争の放棄で
あるとされているけど、防衛措置までこの九条1項の戦争と考えてる人やろね。
自衛戦争とか防衛戦争とかいう言葉があるけど、あれは戦後の憲法学者が
自衛措置まで放棄させる為にこれを自衛または防衛の戦争という言葉で、
戦争という概念でとらえるようにした造語やからね。
まあ小さい頃は俺もその辺わかってなかったけどね。
後者はそうやね、日本国憲法によって戦後牙を抜かれて更に、日本国憲法
自体を逃げ口上に使う利己的な人やろね。
まあそれで小学校高学年くらいになると極端な話在韓米軍、更には、
在日米軍が一気に引き上げたとすると、日本の国には何が残るのか。
守るのは自衛隊しかない。
自衛隊は軍隊ではなく敵基地攻撃を確実に行える先制的自衛、攻撃防御
どころか専守防衛であり軍隊ではない。
それにアメリカの核の傘下に入っているという在日米軍の持っている
核兵器とミサイルすらない。
それどころか自衛隊は在日米軍がいないと動けない。
果たして憲法改正すらせずに自衛隊のままで大丈夫なのか。
非核三原則は内閣決議やから首相の一言でどうにでもなるのにとか
思うようになっていたかな」
一花「小学生でその辺り考えてたんですね。
確かに日米安保条約があるうちはその可能性は低いですけど、それが
いつまでもあるというのは、違ってくると思いますもんね。
までも安保法制はできましたから米軍の後方に着く様な集団的自衛権は
一部ありますが、攻撃されれば米軍が自衛隊を援護する代わりに自衛隊も
攻撃されれば率先して米軍を援護しなければ米軍は自衛隊や日本国を防衛
するはずないですし、ひいてはアメリカ側から日米安保条約の撤廃か
それにつながる外交カードを出してきそうですね」
晃司「そらそうやね君の言う通りや。まあとにかく子供の頃はそうも考えながらも、
ただそのまま別になりたいものも見失って、防衛にもたいして興味はなくて、
普通に高校に入ったくらいのときは、殊更(ことさら)自衛官になる意思も
なかったんやけど、防大にはいると特に戦略、戦術、戦史、工学技術、
更には法律、経済学等、インターネットの動画や本以上の事が学べるものが
一通りそろってると思って、当面はそれらをとにかく学びたかったから
入ったって感じかな。
まあでも防大にはいって4年近く鍛えられたよ。
それで君はどうして防大に入ったの?」
一花「私はもともとそこそこ難しいほうの、薬剤師を目指していたんですが、実は
私が高校に入ったくらいのとき、実家の父が倒れてしまって、あまり大学
までは学費がかけられなかったんですよね」
晃司「そうなんや薬剤師かあ、理系の女子は大体薬学部行くしね」
一花「はい。でも大学入って、勉強もしたかったんです。
勉強させてもらって給料までもらえる大学、防衛大に入って自衛官になったら
それができる。
国を守るということにも、自分なりに関心が持ててきて、やってみようと
思ったんですよね」
晃司「そっか、結構大変な事情があったんやね。関心が持てるようになったって
いうと具体的にはどういったものなの?」
一花「自衛官になって補給部隊に志願して補給が専門になりたかったんです」
晃司「なんで補給?当然わかってはいると思うけど前線部隊の戦闘能力を
くじくために補給路をたち、孤立させることが常套手段と考えられて、
補給部隊が最前線と同じくらいに危険な任務にあたる部隊と言えるよね」
一花「そうなんですけど憲法前文を中学のとき試験に備えるついでに、句読点の
位置、数まで一字一句間違いなく完璧に覚えたんですけど、その中に天皇
は日本国の象徴ということと、恒久の平和という言葉が頻繁に出てきます
よね。
恒久の平和なんてない。もし戦争になった場合、破壊という行為の中で
唯一物を生産できる部隊だからだからと思ったからかなあ。
もちろん他の部隊に配属されることのほうが可能性が大きいですし、
そうなったら自分の責務を果たすつもりですけど」
晃司「偉いね。俺なんか特に国を防衛するということに関して、そんなに
興味もなかったし、なんとなったら民間に流れてもいいわってくらい
のつもりで、なんとか入ったくらいやし、先に言った学問もやけど、
高校に入ったくらいのときつくづく学校の勉強、特に戦後の日本の高等教育
までというものくらいでは、別にたいして人間としての教養にならないと思
うこともあって、人間としても、もう一度改めて教養をみにつけたかった
というのもあったんよね。
別に中卒とかでも人間として、賢い人はいっぱいいるんやけどね」
一花「色々考える少年だったんですね。そういうふうに考えたのもどうして
なんですか?」
晃司「その一つは、自分たちのいた世界では特に冷戦時代等、核戦争が起こると
地上の生物は、ほとんど、こんな蟻(あり)すらも残らず滅亡すると
言われているよね。
高校のときある同級生で、そこまで学校の成績がいいわけでもない女の子に、
人間にそんな権利があるの?って言っわれてね、権利という言葉の意味に
ついてふと考えさせられたんよ。
義務教育で道徳の教育も受けるよね。
道徳についても考えたよ。
でも国立大の法学部を出ていた担任の教師に言わせれば、道徳なんか国家が
変われば変わるんじゃないかと言っていたけど、とすれば道徳以上の何か
もっと普遍的なものが少なくとも人間にはあることになる。
考えてみればこれを人の道と言うことになるのかもしれないけど、国家に
おいて道徳を反映しているものつまり法律にたいして、それに外れて法に
抵触すれば道徳には唯一ない外的強制力によってある意味物理的とはいえ、
人的に裁かれるだけよね」
一花「もちろんそうですよね。でも現在世界統一の政府や憲法等というものは
なくて、だいぶ以前の時はアメリカが世界の警察のようなことをしてま
したが、民主党大統領のときアメリカは世界の警察をやめると言い出し、
そして中国が技術的にも経済的にも力をつけてきて私たちのいた世界は
アメリカ対中国の構図になってましたよね」
晃司「本当に中国はウイグル、チベット、南モンゴル更にはかつての満州国も
そうなるのかな、この人権問題を始め、世界の中心が中華でそれ以外の領土は
侵略する為にあるという思想が中華思想やもんね。
けど人権問題を始めそれ以外にも手を打っていた共和党政権のアメリカが
勝つと言われてたね。
ただアメリカ合衆国憲法が必ずしも正しいとは言えないよね」
一花「ええ、特にアメリカっていう国は今まで外からは一度も武力的に国土と
非戦闘員を大きく傷つけられたことのない国ですもんね」
晃司「結局何かあるはずで、いわゆる人の道にそむけば、物理的、精神的に強制力が
働くのではないかと思ったんよ」
一花「それで、そのころどう考えたんですか?」
晃司「例えばその女の子が言うことを前提にすれば、人類以外の下等生物を無駄に
殺生すれば、人の道にはずれた行為として物理的にしっぺ返しがくるんでは
ないか。
考えてみれば自分たちは普段何を食料にしているか考えると、人類も他の下等
生物がいなければ存在することは出来ないことになる。
人類は、当面地球上にいる間は、他の下等生物がいなければならなく、同じく
食物連鎖の範疇(はんちゅう)にある。
よくSFの物語等で人類が地球の外にその生存圏を広げている作品が著名
やけど、あれらの作者も食物連鎖に関してはどう考えているのだろうかとかも
考えたかな。
とは言え、冷戦の時代頃から、ボタン戦争と言われていたから、それは政治家
いや、各核武装した大国の大統領の指一本が、軍隊より人類の生殺与奪を握る
ことになってるね。
それは軍隊の存在意義自体、変えてしまっている時代やね。
少なくとも民主主義においては、軍人は政治家の命令を厳守せんとだめ
やけど、しかし政治家が直接軍隊よりそんな武力をもってしまうのは、
これも問題があると思う。
そういう人類滅亡の危機を、乗り越える意味でも、人類は、この惑星から、
その生存圏を広げる必要性が、出てきてるんと違うかなと考えたかな。
その場合、人類以外の動植物をどうするかの問題にも、さらされると思う
けどね。
人類がこんな殺傷力を持った兵器を手にして、更に未来それ以上の高
エネルギー反応の兵器を手に入れた場合、例えば、宇宙空間での戦闘等なら、
少なくとも人類滅亡の回避ができて、非戦闘員を殺傷することも少なく
なるんと違うかなとも考えたかな。
現在は経済、情報、ハイテク、サイバー戦争の時代で武力的な戦争の時代は
終わったとは言われてるが、個人的にはもっと未来にそうなれば、戦争の
形態は古来よりの戦略思想に戻るんではないかとも思ったかな。
まあそういう事はともかく、なんせ要するに、権利とは、そういう物理的、
精神的にもどうしてもそこから逃れられないものなのではないかと、自分では
考えたんよ」
一花「ほんと私は高校のときそこまで考えなかったですよ。
それでその女の人は進学とかされたんですか?」
晃司「同級生の男子を追って、途中から勉強し始めて、一浪して国立の外大に
行ったよ」
一花「やっぱりもともと頭もよかったんですかね?その人」
晃司「どうかな。その子は、権利というものを俺の考えるようには考えないって
いってたけど、さっきも言ったように学校の、まあ戦後の日本の高等教育
までの得手不得手なんて、別に大して人間の教養には関係ないと思うよ」
一花「私もそれはそんな感じがするように思いますよ」
2人の会話ははずむのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます