第3話 二人の会話 その1

園田一花「世界線ですか。私もそういうのはよくわからないです。

     私たち、元の世界に帰れるんでしょうかね」


岡本晃司「わからん、帰れるか、この時代、世界で生きていくかわからないけど、

     どっちにしても史実通りなら、まだこの世界の日本は敗戦を免れる

     可能性は大いにはあるね。

     ただ政戦略的にはもう日本は、アメリカの政戦両略に乗せられたあと

     やけどね」


一花「ですね、ABCD包囲網による経済制裁で資源の輸出入は止められ、

   最終的にハルノートにより武力的に先に開戦させられたあとですねもう」


    ABCD包囲網とは、大東亜戦争時の真珠湾攻撃以前から、

    貿易制限を行っていた、アメリカ合衆国 (America)、

    イギリス (Britain)、中華民国 (China)、

    オランダ (Dutch)と、各国の頭文字を並べたものである。

    また、ハルノートとは、大東亜戦争開戦直前の日米交渉に

    おいて、アメリカ側から日本側に提示された交渉文書である。

    このハルノートは交渉のアメリカ側の当事者であったコーデル・ハル

    国務長官の名前からこのように呼ばれているが、これには以下の内容が

    記載されていた。

     第一項「政策に関する相互宣言案」

      1.一切の国家の領土保全及び主権の不可侵原則

      2.他の諸国の国内問題に対する不関与の原則

      3.通商上の機会及び待遇の平等を含む平等原則

      4.紛争の防止及び平和的解決並に平和的方法及び手続に依る

       国際情勢改善の為め国際協力及び国際調停尊據の原則

       (略)

     第二項「合衆国政府及日本国政府の採るべき措置」

      1.イギリス・中国・日本・オランダ・ソ連・タイ・アメリカ間の

       多辺的不可侵条約の提案

      2.仏印[フランス領インドシナ]の領土主権尊重、仏印との貿易

       及び通商における平等待遇の確保

      3.日本の支那[中国]及び仏印からの全面撤兵

      4.日米がアメリカの支援する蔣介石政権[中国国民党重慶政府]

       以外のいかなる政府も認めない

       [日本が支援していた汪兆銘政権の否認]

      5.英国または諸国の中国大陸における海外租界と関連権益を含む

       1901年北京議定書に関する治外法権の放棄について諸国の合意を

       得るための両国の努力

      6.最恵国待遇を基礎とする通商条約再締結のための交渉の開始

      7.アメリカによる日本資産の凍結を解除、日本によるアメリカ資産の

       凍結を解除

      8.円ドル為替レート安定に関する協定締結と通貨基金の設立

      9.日米が第三国との間に締結した如何なる協定も、太平洋地域に

       おける平和維持に反するものと解釈しない

       [日独伊三国軍事同盟の実質廃棄]

      10.本協定内容の両国による推進

    という内容であり実質この様な条件は飲めず事実上の宣戦布告であったの

    である。

    後にこのハルノートの内容を見ればこの様な条件を突きつければルクセン

    ブルクでも開戦すると言われているほどである。

          

晃司「せやね、ここから後、どうしたもんかな、何か手はないかな」


一花「先輩何か考えてるんですか?何かするつもりなんですか?」


晃司「うん、世界線とかがどうとかはわからんけど、ここは過去の世界の日本や。

   日本が負けんよう、何か出来たらと思う」


一花「歴史を変えるつもりなんですね、反対はしません。

   それなら私も一緒に何かしたいですよ」


晃司「そうか、よし決めた参謀本部に行ってこちらの正体を明かして

   使ってもらおう。園田さん、君も一緒に行こう」


    参謀本部(さんぼうほんぶ)とは、大日本帝国陸軍の軍令を司(つかさど)

    った機関で、参謀総長を長として、作戦計画の立案等を練る機関である。


一花「先輩それはだめですよ、信じてもらえる以前にこの格好ですし、

   相手にされないどころか、アメリカの密偵か何かかと思われ、

   逆に捕まってしまって、拷問される可能性も、十分大きく考えられます」


晃司「そうかなあ、やってみないとわからんやん。もし参謀本部が危ないと

   しても、じゃ海軍の軍令部はどうかな。この時期の軍令部総長は

   少々失策はあったと言われてるけど、見識が広く融通がきき、

   物事にとらわれない人と聞くよね」


    軍令部(ぐんれいぶ)とは、日本海軍の中央統括機関である。

    海軍省が内閣に従属し軍政・人事を担当するのに対し、

    軍令部は、海軍全体の作戦・指揮を統括する機関である。


一花「それもだめだと思いますよ、総長に会う前に軍令部の下士官にとらわれて

   尋問を受け信じてもらえず、逆にそれもアメリカの密偵かなにかと疑われ、

   捕らえられる可能性が、大きいと考えられます」


晃司「そうかなあ、早速正体を明かして下士官にでも伝わると総長まで伝わると

   思うけど」


一花「厳密にはいつかからか覚えてないですけど、開戦後軍令部総長は次長以下に

   その責務のほとんどを任せ、自らは戦死者の墓碑銘を書く日が多かった

   と言われています。もうそうだったらやはり危険です」


晃司「そうやったか、やってみんとわからんとはいえ特高警察のせいで、そこら

   へんで天皇陛下の陰口言うただけで捕まりよったって、爺さんがいうてた

   もんなあ。

   この日本や我々の時代の常識じゃ、はかり知れんわなあ。うーん困ったなあ」


    特高警察とは特別高等警察の略であり、国事警察として発足した

    高等警察から分離し、国体護持のために無政府主義者・共産主義者・

    社会主義者、および国家の存在を否認する者や過激な国家主義者を

    査察・内偵し、取り締まることを目的とした日本の秘密警察である。

    内務省警保局保安課を総元締めとして、警視庁をはじめとする

    一道三府七県に設置されたが、その後、1928年に全国一律に未設置県

    にも設置された。

    第二次世界大戦後の1945年にGHQの指示により廃止されたものである。

    満州事変で23万の張学良軍を相手に、1万数千の関東軍で満州を占領して

    戦争の天才と言われた石原莞爾(いしわらかんじ)の政敵であった

    東条英機は、戦争が下手ではあったが、人格的に非常に優れた人物で

    あると言われておりその東条英機が何かの悪趣味で特高警察を組織したと

    言われている。

    

一花「参謀本部とか軍令部とかあまりに中枢過ぎて危険ですよ、

   何か他の手を考えましょう。でも確かに困りましたね」


    2人は困ってしまって身動きがとれなくなっていたのであった。

  

一花「先輩は関西弁ですし、関西のご出身ですよね?」


晃司「うん大阪よ。君は?」


一花「私は横浜ですよ」


晃司「そっか。休みの日は町行くとしても東京ばっかり行って、横浜は

   そんなに行ってなかったなあ」


一花「横須賀からだったらどうせならって感じで東京のほうが多くなるのは

   わかりますよ。

   私は大阪は、結構行きましたよ。泊りがけになりますから京都も

   観光で、あと神戸にも行ったりしました。

   関西は歴史が古くてそう言った意味でも観光する場所が多くていい

   ですよね」


晃司「観光好きなんかな、歴史に興味あるんかい?俺も歴史は好きなんよ。

   子供のときから。別に得手にはつかんかったけどね。

   それにこの学校みんな歴史や戦史なんかできるもんね」


一花「そうですよね。防大は理系ですけど歴史はみんなそれなりにこなしてきた

   人ばっかりですもんね。私も歴史は好きですよ。

   古来からの戦史は研究してみたいとも思うんですけどね。

   でもちょっとそれは」


晃司「インターネットでは不足かな?俺は少年の頃から本やネットで歴史や戦史を

   覚えてきたけどね」


一花「私も10代の頃はインターネットで戦史を中心に政治や歴史なんかの動画も

   見たり本も読みあさったりしました。

   ただ本格的な戦史の研究をもっとしたくて」


晃司「戦史の研究か。どこかの大学の大学院行って博士課程までやる必要があるね。

   俺は勉強はもうここまででいいかな。戦略に関してはもっとやって

   みたいとも思うけどね。防大の学部課程で実戦形式で色々勉強させて

   もらったよ」


    晃司と一花は更にどんどん会話を続けるのであった。

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