マユケン
門前払 勝無
第1話
繭
桃色の花びらが足元に拡がっている。
心に写るまだ見ぬ人は彼方を歩いているのだろうか…小舟に揺れているのだろうか…私には解らない。ただ、貴方の存在は感じている。
私の殻を破れるのは貴方だけ…この田園に輝く夕陽のは貴方の熱い想い。私はそれを感じながら心無き旦那様へついて歩くー。
孔殿と繭姫は幼いときからの許嫁であり、流れのままに結婚してただただ隣同士に身を置いている日々であった。年頃になると“どこかに運命の人がいて迎えに来る”と互いに思っていた。
孔殿は何某の理由を付けては領内を散歩して空を眺め思いに浸っていた。
繭姫も縁側から紅葉を眺めながら過ごしていた。
数十年が経ち孔殿は病に倒れ寝たきりになったー。
「繭よ…ソナタに謝らなければならぬ事がある」
「私も…」
「孔はソナタを騙していた…孔はこの世の中に運命の人が居て…いつか孔の前に現れと信じていた…」
「私も…同じ事をずっと昔から…思っていました」
孔殿が一滴の涙を流すのを見て、繭姫は“ハッ”とした。
そうなのである。
今、目の前に居る孔殿がその運命の人だと気付いた瞬間であった。
「違う!孔殿!違う!」
「…繭?」
「貴男こそ!貴男こそが運命だったようです!私は今頃…気付きました…」
「繭が孔の探していた運命の人…孔は…ずっと運命の人と共に生きていたのか?」
「はい…幸福過ぎて…幸せすぎて互いに気付かなかったのです…」
「…そんな…死にたくない…繭を……」
孔殿はそのまま目を閉じてしまった。
繭姫は泣き崩れ、もう動かない孔殿を何日も何日も抱き締め続けたー。
おわり
マユケン 門前払 勝無 @kaburemono
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