魔王城の中で

あきかん

魔王と勇者

「おお!勇者、勇者よ。お前は本当に勇者なのか。我が劵属を切り、勇者という運命に導かれて。そのためならば、我を殺すと宣言しろ。そうすれば、我も魔王として対峙しよう。」


「受け取ります。おことばどおり。勇者と呼んでください。それがぼくの真なる洗礼。これからはもう決して手加減はいたしません。」


「どいつだ。全ての闇を従える、この魔王に挑もうというのは?」


「ぼくが何者なのか。名前を聞かれても勇者とお答えするしかありません。ぼくの名前は、魔王よ、我ながら憎らしい。というのも、それが人々の希望であったからです。この名前を捨てることはできないのです。」


「その口からのことばを我の耳は百とは飲み込めん。でも理解はできる。お前は勇者?モンスターを滅ぼした。」


「はい、魔王、どちらの事実もお気に召すのならば。」


「どのようにしてここに?何のために?城の壁は高く乗り越えるのは難しいはず。それにここはお前の身を考えれば、この城の者に見つかれば死の入り口となろう。」


「勇気の軽い翼でこの城の壁は飛び越えました。壁などでどうして勇気をしめ出せましょう。勇気がなしうることならどんな危険も勇気はおかすもの。この城の者がどうしてぼくを妨げられましょう。」


「それでも見つかればお前を殺そうとするだろう。」


「ああ、あなたの目のほうがはるかにこわい、 彼らの二十本の剣よりも。どうかきびしいまなざしを。そもそも彼らの敵意もぼくには刃が立ちません。」


「どんなことをしたとしても見つかりはしよう。」


「剣を通さぬよう光の衣を身にまとっています。 だが闘って下さらないなら、 あなたを忘れてむなしく死ぬ日をひきのばすより彼らの憎悪にいのちを終わるほうがはるかにましだ。」


「ここがわかったのは誰の手引きだ。」


「神の手引きで。神が探しもとめさせたのです。神が知恵を貸してくれ、ぼくが勇気に目を貸したのです。ぼくは水先案内人ではない、しかしたとえあなたがさいはての海にあらわれるはるか岸辺にあったとしても、このような正義のためならあえて漕ぎだすでしょう。」


「魔王の仮面がこのように我が顔を隠してくれる。でなければ、邂逅の嬉しさで笑みが浮かんでいるはず。神の信託をお前は聞いてしまったのだから、我々の宿命を重んじたい。だが、体裁ぶるのはやめよう。闘ってくれるのだろう?「はい」と答えてくれるのだろう?お前のことばは信じよう。けれども、誓いあっても破るかもしれん。闇の者が誓いを破っても神は苦笑するのみだ、やさしい勇者、闘ってくれるのなら心の底からそういって、あまりに早く闘いを求める魔王と思うのなら、顔をしかめ意地を張り、いやと言ってくれ。それでも闘いを求めてくれるのなら、そうでなければ。なあ、勇者、我はほんとうにおろかな魔王。だから横暴な魔王だと思うかもしれん。でも信じろ、控えめに手管を知る王より、我の方がずっと誠実であることを。」


「ぼくは誓います。庭のトレンドを銀一色にそめる月にかけて。」


「それでは駄目だ、月にかけては、不誠実な月は一月ごとに満ちたり欠けたりするもの。お前の勇気もそのように変わりやすいものになる。」


「では、何に誓えば。」


「誓いなどするな。どうしてもというのならば自身に誓え。我の信じる勇者であるお前にかけての誓いならば信じることができる。」


「もしも、この心からわく勇気が━━━」


「やはり誓うのはやめろ。お前とこうして向き合うのは心が踊るが、今夜決闘を挑むのは嬉しい気持ちはせん。あまりに無鉄砲、あまりに無分別、あまりに唐突、 「光った」というまもなく消えてしまう稲妻に あまりにも似ている。勇敢なる勇者よ、やすめ。この闘いのつぼみは、夏のはぐくむ息吹をうけて、 今度相対するときは美味しい果実となっていよう。 我の胸のうちにある甘美な興奮が、お前にも訪れよう。」


「満たされぬぼくをこのままで立ち去れというのか。」


「どんな満足を今手にすることができる。」


「あなたの闘いの契約を、ぼくの誓いとひきかえに。」


「それは求める前に渡されている。できれば、返してほしいものだ。」


「返してほしいですって?なんのだめに?」


「気前よくお前に挑むために。」


「おお、しあわせな、しあわせな夜、夜だからこれはすべて夢だということになるまいな。 心とろかすこの甘美さ、現実とも思えない。」


「勇者、今度こそ闘おう。 もしお前の勇気がまことのものであり、 決闘ということを考えるのなら、明日お前のもとへと訪れよう。どこで、いつ、決闘をするのか決めてくれ。我はすべての要求に答えよう。我はどこへでもお前のあとへついていく。」


「この魂にかけて━━━」


「おやすみ、一千たびも良い夢であるように。」


「あなたの目に眠りが、胸に平安がありますよう。 その眠りと平安にこの身がなることを夢見るとしよう。もはや、この城には僕たち二人しかいないのだから。」

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魔王城の中で あきかん @Gomibako

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