第10話 ある日の放課後3
グラウンドから球児達の怒号が聞こえてくる夕暮れの放課後。
各々が思い思いの時を過ごしている。
ヒトミは執筆活動、ニコは読書、シノンは自称e-sports。
最近はレイジも課題ではなく読書をする時間が増えた。
読んでいる本に対して、『この小説、ホントに舞台が動かないな~……』、そんなことを考えていると、大きな袋をぶら下げたミカサが扉を開いた。
「どうしたんですか? その荷物?」
ヒトミが尋ねる。
「君達へのお土産だよ」
机の上にドサッと荷を下ろす。
こちらへの興味が勝ったのであろう。シノンもゲームを切り上げ机に集う。
「ようやく目標金額が貯まってね。この前の四連休で大阪を旅行してきたんだ」
ミカサは袋に手を入れ、何やら白い箱を取り出す。
「『通天閣の恋人』と言って、定番のお土産らしい」
ヒトミ、ニコ、シノンがお土産を受け取る。
「レイジ君もどうぞ」
自分の順番になり、いきなり何かを握らされた。掌を見る。
「何で俺だけ龍が巻き付いた剣のキーホルダーなんですか?」
「こういうのが好きかと思ってね」
「嫌いじゃないですけど」
「わざわざ静岡の道の駅で買ったんだよ」
「せめて大阪のにしてくれませんかね?!」
中学生の修学旅行で買ってしまった過去を思い出し、顔が赤くなる。
あの一振りは何処に仕舞ったのかが今更気になってきた。
「冗談だよ。はい、君の分」
「びっくりしましたよ……。」
とは言え、バイトした身銭を切ってまで買ってくれたのだから、後輩思いの良い先輩である。
そこからは大阪旅行の話に花が咲いた。
「まずは大阪城に行ったんだ。後は新世界、道頓堀に……」
レイジ達も知っている有名スポットが次々と挙げられていく。
旅行なんて興味がなかったが、楽しげに語るミカサを見ると旅行に行きたいが湧いてくるから不思議だ。
「USJには行かなかったんですか?」
「限られた時間を待ち時間に取られるのが嫌だったからね。今回は行かなかったよ」
実にミカサらしい合理的な判断だ。
一通り大阪旅行について話し終えたミカサは、次の目標を口にする。
「次は京都に行きたいと思っているんだ。また暫くはバイトに励む日々が続きそうだよ」
大儀そうに振る舞う。
「先輩って、どんなバイトしてるんですか?」
ニコが疑問を呈する。確かにこのハイスぺック麗人がどのようなバイトをしているのかは、気にしたことも無かった。
コンビニのレジ打ちをしているミカサ等思いも付かない。
「駅前ストリートの男装カフェで働いているよ」
驚く一同。
「いいんですか? その、法律的に?」
ヒトミが気にするのも最もだ。
「二十二時迄なら問題ないよ。直接交渉に行ってそのまま採用されたんだ」
行動力もさることながら、"男装カフェ"というモノがこの町に存在していたことに衝撃を受けるレイジ。
どういう空間なのかイマイチ想像がつかない。
「君たちも一度来てみるかい?」
「いいんですか?」
眼を爛々と輝かせるニコ。シノンも割とノリノリだ。
レイジもかなり興味はあったが、一つ気掛かりなことがある。
「でも、そういう所って女性客しか居ないんじゃないですか。男としては入りにくいというか……」
「確かに、日にもよるけど大半は女性だね」
彼のイメージに齟齬はなかったようだ。
流石に女性だらけの空間に突撃する勇気はない。自分は諦めた方が良さそうだ。
「じゃあレイジさんは女装して行きましょう」
「はぁ?!」
さも名案だと言わんばかりに言い放つシノン。
「それいいですね」
完全に揶揄いモードに入ったニコ。
「レイジの女装で受け入れてもらえますかね?」
ヒトミが続く。
「受け入れられるかか……、『有り』か『無し』かで言ったら『無理』かな」
「なんだろう、エクストラの選択肢出すの止めてもらっていいですか?」
いつかはミカサの接客を受けることが出来るのだろうか。
放課後は続く。
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