第9話 ある日の放課後2

 今日も今日とて、放課後を告げるチャイムが鳴る。

 廊下で偶然出会った二年生三人組、レイジ、ヒトミ、シノンは揃っていつもの場所に向かっていた。

 専ら、ここ数日の部活のお題目は、迫る一年生の試験に向けてのニコの勉強会になっている。

 幸いなことに、レイジ、ヒトミ、シノンの三人は他者に教えられる程度には勉学に励んでいる。

 ミカサに至っては、二年時の夏休みに独力で三年間の指導内容をやり切った化物だ。模試での偏差値も相当高い。

 第二図書室に着き扉を開くと、ミカサがテストの採点中であった。

 このテストは、ニコ以外の部員4人で考えたオリジナルの一年向けテスト問題だ。

「お疲れ様です。ミカサ先輩」

「やぁ君たち、丁度いい所に来てくれた」

 手は動かしつつこちらを見るミカサ。

「採点を手伝ってほしいんだ。今英語を採点していて、世界史は済んでいるから、残りの国語、数学、化学をお願いしたい」

「わかりました」

 レイジは化学を、ヒトミは国語を、シノンは数学の答案を手に取り、席に着き作業を始める。

「そういえば、当のニコさんはどちらですの?」

 シノンの言葉は最もだ。部室を見渡してもニコは居ない。

「ニコ君は用事があるとかで、答案だけ提出して帰っていったよ」

『逃げたな』レイジはそう思った。


 それぞれが赤ペンを持ち、採点を始めた。

 のだが、いきなり飛び込んできた未知の化学式にレイジの手が止まる。

「『Na2Cl……?』」

 バツを付けて、答案用紙を読み進める。

「『何故、ファンデルワールス結合だけ説明できているんだ……』」

 一瞬考えた後、まさかと思いミカサに尋ねる。

「ミカサ先輩。世界史の点数ってどうでした?」

 レイジの思いが正しければ、

「満点に近かったよ。中国史だけ間違ってたけどね」

 やはりそうだ、

「『あいつカッコいい横文字だと記憶に残るのか』」

 もう細かいことは考えず、事務的に採点を終わらせるレイジ。

 タイミングよく全員が採点を終えていた。


「シノン、数学は?」

「当然の様に場合分けが出来ていないパワープレイなのは置いておくとして、二次関数で解が三つ出ていたのはさすがの私も驚きましたわ」

「どうやって計算したらそうなるんだ……」

 解の公式くらい覚えておこうよ……。

「設問一と設問二が間違っているのに、設問三が途中式含めて満点なのも衝撃でしたわね」

「何が起こってるんだよ!!」

 もしかしたらニコには何かしらの能力が秘められているのかもしれない。


「ヒトミ、国語はどうだった?」

「古文以外ほぼ満点だったよ」

「ピーキーな性能してんなぁ!?」

「登場人物は二人なんだけど、答案には五人目までいることになっちゃってるね」

「それは……、まぁ俺もよくやるから仕方ないな」

 自敬表現やらなんやらが混ざると途端に厄介だからな。


「英語も今終わったよ。文脈中の"Collect stamps"を"正しい切手達"と訳している以外は悪くない」

「そっちの意味で間違える方がレアですよね!?」

 果たしてこの世に正しく無い切手が存在するのだろうか。

 郵便局員ではないレイジには知る由もない。


 想定はしていたが、やはり理数系をもう少し特訓しないとマズい様だ。

 一通り作業を終え、ミカサが紅茶を入れ全員に差し出す。

 前から思っていたが、年長者が率先してお茶を入れるのはどうなのだろうか。

 四人は紅茶を飲みつつ今後の方針について語り合うのだった。


 放課後は続く。

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