第6話 動き出す放課後4

 渡されたデッキの構築を確認するレイジ。


『これなら俺にも使えそうだな……』


 使い慣れたカードが何枚か入っている。これならいい勝負が出来そうだと感じた。

「そろそろ宜しいかしら。百瀬さん」

「オッケー、把握した。紫宮さんをがっかりはさせないと思うよ」

 かくしてシノンとレイジの対戦が始まった。


 ――数分後。

『……強い。初動札の選択から、ルートの展開まで淀みがない』

 同じデッキを使っているのだが、明らかにレイジが劣勢に立たされている。

 流石は一人で回し慣れているシノンである。

「これで私のターンは終了します」

 レイジにターンが回ってくる。

「どう? 勝てそうなの?」

 ヒトミが尋ねる。

「正直厳しい。紫宮さん、umbra verseも強いんだね」

「かなり得意な部類には入ると思いますわ(パチパチパチ)」

 今の手札でこの盤面を返せるのか必死に考えるレイジ。

「あと、わざわざ"さん"は必要ありません。同級生なのですから"シノン"で構いませんわ(パチパチパチ)」

「じゃあ、そうさせてもらうよシノン。俺も呼び捨てで大丈夫だよ」

 話はしつつも墓地やマナを確認し、打開策を絞り出す。


「ちょっと考えさせて……」

「どうぞ(パチパチパチ)」

「……」

「……(パチパチパチ)」


 カードが打ち付けられる音だけが鳴り響く。


「あのさ?」

「何でしょう?(パチパチパチ)」

「手札でパチパチするのやめてもらっていい?」

 性癖をばらされることは許せても、宗教上の理由でイカれた当たり判定の格ゲーとシャカパチだけは許せないレイジ。

「つい癖で……、不快にさせてしまい申し訳ありませんわ」

「いやいやこちらこそ申し訳ない」

 中断された思考を戻すレイジ。

「……」

「……(パチパチパチ)」

「墓地でやり始めたら病気だぞ!? 大丈夫か!??」

「これも心理的作戦の一つ、カードゲームの醍醐味ですわ」

 誇らしげに宣言するシノン。

「ただの嫌がらせだろ!」

 男の友人だったら机の下で蹴りを入れているレベルだ。

「あと、̚カドショでギラついた眼で見てくるオタクや、『男の影響でカード始めたんだろうなぁ……』みたいに舐めてくる輩をボコボコすることも醍醐味ですわね」

「カード本来の面白さを思い出せよ!」

 絶対にこんな奴に負けられない。そう心に決めるレイジだった。


 ――数分後。

「参りました……。降参です」

 レイジが覇気のない声を発する。

「これで負けなの?」

 ヒトミはいつの間にか買ってきたのであろうスナック菓子を頬張りつつ言う。

「うん、もうここからは何をしても無駄なんだ」

「ふ~ん……」

 時間にして二十分程度だったが、中々に濃い内容の戦いだった。

「なかなか良い勝負でしたわ」

 まるで満足しきったといわんばかりに、勝ち誇った顔でほほ笑むシノン。

「次はあなた自身のデッキと戦いたいですわね」

「あのパチパチ止めたら考えとくよ」


 放課後はもう少し続く。

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