第5話 動き出す放課後3

 静かな時が過ぎてゆく。


【ガンッッッ!!】


 机を叩く音を除いて。

 初めは五月蠅いとも思ったが、もう環境音と化していた。

 課題は終わったが帰るには少し早い時間、手持無沙汰になったレイジはソーシャルゲームを周回していた。


 すると突然、

「勝ったッッ!!」

 今まで椅子から腰を上げなかったシノンが立ち上がった。

 PCモニターには「Win」の文字が示されている。

 この短時間で色々と印象的なことが多すぎて、彼女の存在を忘れていた。

「おめでとう。シノン君」

 ミカサが紅茶を差し、受け取るシノン。

「ありがとうございます」

 想定していた印象より随分と異なるが、それでも紅茶を口にする彼女はどこか気品を感じさせる。ハーフ特有の金髪もソレに拍車をかけている。あれだけ暴れていたのがウソのようだ。


「どうかしましたか? おねショタの百瀬さん?」

「聞こえてたの!?」

 見惚れていたのだろうか、彼女と視線が合ってしまう。

「あぁ、いや。何のゲームしてるのかなって気になって」

 完全に口からの出まかせだが、その話題はもうお腹一杯だったので避けたかった。

「『CCCP』です。ゲームがお好きならご存じでしょう?」

 聞いたことはある。プレイヤーが赤い戦士になり百人規模で戦うバトルロイヤル式のゲームだ。

「聞いたことはあるけど、やったことはないなぁ」

 やりたいとは思っているのだが、今プレイしてるゲームで手一杯でそこまで回らない。

「残念。対戦でも申し込もうかと考えていたのに」

「申し訳ない」

 少しホッとする。いくら可愛いとはいえ、あの鬼気迫る迫力の相手と戦いたいかと聞かれると答えはノーだ。


「ほかにどんなゲームをやっているのかしら?」

「うーん……、『umbra verse』とかかなぁ……」

『umbra verse』、世界的に人気を博している1vs1のカードゲームだ。

 とりあえず一番有名なモノを言ってみるレイジ。

 その時、シノンの眼が鋭く光ったような気がした。

「『umbra verse』……。でしたら私と対戦してみませんか?」

 まさか乗ってくるとは思わなかったので戸惑うレイジ。

「でも今デッキ持ってないし、また今度かな」

 小学生じゃあるまいし、わざわざ高校までカードを持ち歩くほど落ちぶれてはいない。そんな彼をよそに鞄を開くシノン。

「デッキならここにありますわ。同じものが二つ。完全なる実力勝負です。如何でしょう?」

 鞄から出てきたのは2つのデッキケースだった。


「……」

 流石に持ち歩いてるとは思わず絶句してしまう。

「シノンはよく『umbra verse』を部室で一人で遊んでるんだよ」

 ヒトミの擁護になってない追撃に、思わず泣きそうになる。

『こんな可愛い子が壁相手にデッキ回してるのか……』

 そう思わずにはいられない。ここまで見せつけられたらもう受けて立つしかないじゃないか。

「わかった。勝負しよう。二先で」

「手加減はしませんわよ」


 まだまだ放課後は続きそうだ。

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