第4話 動き出す放課後2
トイレから帰ってきたミカサとレイジ。
引き続き課題に取り組もうとしたとき、ニコが手にしている本が目に入った。
最近話題の『Vtuber』の特集本だ。
レイジも存在くらいは知っている。有名どころは切り抜き動画でいたことがある程度だが。
部活を始めて一時間半くらい経つが、まだニコとは話していない。
『会話のとっかかりになれば』と思い、レイジは話しかけた。
「爾階堂さんはVtuberが好きなの?」
「はひぃっっ!!」
いきなり話しかけられるとは思っていなかったのだろう。それが会ってばかりの先輩となれば尚更だ。
「ごめん、驚かせたかったわけじゃなくって」
「いえ、こちらこそすみません」
ずれた椅子に座りなおすニコ。
「えっと、Vtuberですか。まぁ何人かの配信を見ている程度ですが」
「そうなんだ。俺も有名な人は何人か切り抜きで見てるよ」
「そうなんですか!?」
彼女の声のトーンが少し上がったような気がした。
話題のチョイスには成功したようだ。
「好きなVとか先輩はいますか?」
「うーん、最近ちょっと気になってるのは▲▲ちゃんとかかなぁ。作業に丁度良いんだよね」
「あーわかります。▲▲ちゃんは私もずっと追いかけてます」
「良いよね」
「癒されますよねぇ……。あ、あと私はニコで大丈夫ですよ」
「わかった、ニコさん」
初対面としては百点だろう。この調子で会話を増やしていこう。
話が終わり、再び課題に取り組もうとしたが、ニコの様子がソワソワしていることにレイジは気が付いた。
『どうしたのだろう』と思ったが、流石にこの程度の友好度では切り込んでいけないと思い、気づかない振りをした。
「ニコちゃん、言っても大丈夫だよ」
唐突に口を開いたのはヒトミだった。
「えっ……。でも……」
戸惑うニコ。
会話についていけないが、とりあえず後輩であるニコを庇うレイジ。
「無理強いは良くない。気が向いたら話してくれればいいよ」
口ではそういったものの、レイジも内心少し浮かれていた。
もしかしたら"前から好きでした"展開があるかもしれないと考えたからだ。
「レイジは約束は守る奴だし、私が保証するよ」
「だったら……」
もじもじしているニコ。あと一息というところまで来ているのだろう。
「レイジも何か秘密打ち明けなよ。性癖とか。そうすればイーブンじゃん」
とんでもないことを言い出すヒトミ。
「何で秘密が性癖限定なんだよ!」
「いいじゃん。おねショタでしょ。おねショタ」
「言うんじゃねぇよ!!! あと、ニコさんさっきの三倍くらいの距離取るのやめてもらっていい??」
あからさまにレイジとニコの距離が開いている。
この時点で"前から好きでした"展開は無くなったと悟るレイジ。
「おねショタ……、ですか……」
ドン引きしているニコ。明らかに下の者を見る眼になっている。
「君はその時、気持ち的に無垢な少年をロールプレイしているのか? その顔で?」
「顔は関係ないでしょうが!! ミカサ先輩も何言ってるんですか!?」
どうやらこの部屋にいる者の大半がおねショタ概念を知っているようだ。
「これでレイジの弱みも握ったし、いいんじゃない?」
「……そうですね。そこまでの秘密を言ってくれるのであれば……」
「言ったの俺じゃないけどね??」
ひとしきりの喧騒が去った後、ニコは重い口を開く。
「これは部の皆だけにしか打ち明けていないんですけど、実は私もVtuberやってるんです」一世一代の告白かの様にニコが言い放つ。
一拍置いて。
「………それだけ? 俺の損害率が高すぎんか??」
「でも、変な人に言ったら配信荒らされるかもしれないですし……。揶揄われるのも嫌ですし……」
そういうものなのだろうか。イマイチわからない。困惑するレイジに続けて、
「緋桜(ひさくら)牡丹って名前でやってるんです。良かったら見てください」
「おぉ……、それはまた(すさまじい)良い名前だね」
昔の古傷が擽られるようで、何故かレイジが恥ずかしくなってしまった。
「ありがとうございます、ヒトミ先輩」
「言えて良かったね。ニコちゃん」
「良い話で締めようとしてるけど、お前の家のポストには泥詰めといてやるからな」
相も変わらず響き渡る机を叩く音を背後に、
「まぁ、誰にも言わないから安心してよ。緋桜さん」
ちょっとした意地悪でVの方の名前で呼んでみる。
「先輩がおねショタだってことは絶対に黙っておきますね」
仕返しなのか、小悪魔のような顔でほほ笑むニコ。
「それ誰かに言ったら配信で【お前普段と全然キャラ違うのなw】って書き込むからね」
「それだけは止めてください」
放課後はまだ続く。
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