第3話 動き出す放課後1
一時間ほど課題をこなしていくレイジ。
課題をこなしつつ、周囲の人間にも目を配り、人となりを理解しようと努めていた。
【ドンッッッッ!!】
たった一時間ほどの時間だが、分かったことがある。
【バンッッッッ!!】
先程から響いてくる喧しい音はシノンが机をたたいている音だ。
「すぅ――………。マック回線で熱帯来んな!」
誰も気にも留めていないことから、いつものことであることが察せられる。
『紫宮さん、あんな人だったんだ……。まぁ無線で熱帯は犯罪だが……』
別のクラスだから普段を知っているわけではないが、彼の中の何となく【お嬢様】であったイメージが消え去っていく。
荒れ狂うシノンをよそにレイジはヒトミに尋ねる。
「ここの棟ってトイレどこにあるんだっけ?」
同じくノートを広げていたヒトミが答える。
「下に降りた突き当り。職員用だけど、ま、大丈夫でしょ」
休憩も兼ねて外に出ようと席を立ったその時、ミカサがレイジを呼び止める。
「ちょうど僕も行こうと思ってたんだ。案内しよう」
「ありがとうございます御剣先輩」
「苗字は堅苦しいから好きじゃないんだ。ミカサって呼んでくれ」
トイレに向かう二人。
流石に何も話さないのは間が持たないと考えたレイジが口を開く。
「ミカサ先輩……って呼んで大丈夫ですよね。ミカサ先輩はどうして文芸部に?」
「バイトまでの時間つぶしに本を読もうと思ってね。家から行くよりも学校から直で行った方が近いんだ」
「あぁ~なるほど。合理的ですね」
そうこうしているうちに一階の突き当りに到着する。
男子用トイレに入るレイジ。
女子用トイレに入るミカサ。
「先輩?! そっち女子トイレですよ?」
レイジは、最初は自分が間違えていると思ったが、標識をどう見てもこっちが男子トイレだ。
「ん、あぁそうだね」
気にすることなく女子トイレに入ろうとするミカサ。
「流石にまずいですよ」
ミカサの手を取るレイジ。
「???」
さも不思議そうな顔でレイジを見つめるミカサ、レイジも同じ顔をしている。
「あぁ、君は知らないのか。僕は女だぞ」
「……はい?」
何が面白いのかわからない冗談に戸惑っているレイジに、ミカサは続ける。
「僕は女性だ」
学生証を提示するミカサ。
「男の制服着てるじゃないですか」
レイジは言って『しまった』と思った。こういう時代だ。人に触れられたくない悩みの一つや二つあるだろう。自分は好き嫌いという区別はすれど、差別は絶対にしまいと心掛けている人間だと思っていたからだ。
「すみません。あの……、」
動揺するレイジに。
「違うんだ。君が思っているほど深刻なことじゃなくて……、」
続けて。
「女性としての私が魅力的なことはもう理解しているんだが、男性としてもそこら辺の男よりも遥かに美しい顔立ちをしていると自負していてね。趣味でやっているんだ。学校側の許可ももらっている」
一瞬の空白。
レイジはミカサが何を言っているのかわからなかった。
しかし、そんなことよりも人として最低の行動はしていなかったことに少し安堵した。
「あぁ……。あぁ、なるほど。そういうことなんですね」
何が『なるほど』なのかは言ってる自身も理解していない。ただそれしか口から出てこなかった。そんな意味不明な理由だとは知る由もなかったからだ。
「理解してもらえたかな?」
「理解しました。俺は大丈夫です」
満足した顔で女子トイレに消えていくミカサ。
レイジの尿意はどこかに消え去っていた。
『何なんだあの人は……。』
時間にして数分。
トイレに用は無くなったが、流石に放って一人帰るのもどうかと思ってレイジはミカサを待っていた。
「待たせてしまって申し訳ないね」
「いえ、俺も今終わったところです」
帰路に就く二人。
その最中、少し気にかかっていたことを興味本位でレイジは尋ねる。
「因みに男性的に見て俺の顔立ちは何点ですか?」
「う~~ん……そうだね」
自分では中の下くらいだと思っている。間違っても下ではないはずだと自分に言い聞かせて生きてきた。
「加点方式で0点かな」
「酷くないですか!?」
「因みに減点方式だと-2兆点くらいだな」
「あんたホント酷いな!」
放課後は続く。
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