第2話 始まりの放課後2

 第二図書室は別棟の二階、存在は知っていても生活上行く理由はない、そんな如何にも文学少年少女が好んで生息していそうな立地である。


『こんなところ初めて来るなぁ……』

 そんなことを考えていると、遅れてきたヒトミが合流する。

「待たせてゴメン」

「こっちも今着たとこだよ」

 迷った末にたどり着いたので随分と時間がかかってしまった。

「じゃあ……」

 今にも部屋に突撃しそうなヒトミを見て、レイジが問いかける。


「部屋に入る前にちょっといいかな」

「どうしたの?」

「自己紹介って言ったけど、部員ってどんな感じの人達なの?」

 今日だけの部活といっても、日常生活では顔を合わせるかもしれない。最低限のマトモな印象は植えつけないと後々に響くこともある。

 少し考えた後にヒトミが口を開く。

「どんな人って言われても……。三年の先輩が一人、後輩ちゃんが一人、もう一人は同級生の紫宮さん。お金持ちで有名な」

 紫宮さんの名前が出たことに少し驚く。

 失礼な言い方だが、もっと華やかな部室に所属しているイメージがあった。

「口で説明するよりも、実際に話してみた方が早いと思うな」

 言うやいなやヒトミがドアを開ける。緊張の瞬間だ。


「みんな! 新入部員を連れてきたよ」

 ヒトミに遅れて部屋に入り、狭い部屋を見渡す。

 そこには二人の女性と一人の男性が机を囲んで座っており、全員の視線が彼らに集中するのが分かった。

「今日から入部することになった、二年の百瀬レイジ君。早速自己紹介をよろしく」

 早々に話を振られる。

「えっと、二年生の百瀬レイジです。趣味はゲームを少しやってます。本はライトノベルくらいしか読んだことないです。なので、おすすめの本がありましたら教えてください。今後ともよろしくお願いします」

 事前に考えていたのが功を奏したのか、噛むことなく無難に終えることが出来た。

「レイジ君ありがとう。じゃあ次は部員の紹介だね。みんなよろしく!」


 ヒトミがそう言うと、一番端で本を読んでいたロングヘアーの女の子が立ち上がった。

「入部ありがとうございます先輩。私は一年の爾階堂ニコです。私もライトノベルをよく読みますので、何かお勧めできるかもしれません。趣味は小物集めです。これからよろしくお願いいたします」

 小さくて小動物の様な女の子。レイジの印象はそんな感じだった。


「次は僕かな」

 そういうと手前の席で本を読んでいた男子が立ち上がった。

「僕は三年生の美剣ミカサ。ミステリー系の小説をよく読んでいるよ。趣味は旅行かな。と、言ってもほとんど卓上旅行なんだけどね。これからよろしく、レイジ君」

 透き通るような声で紹介を終え、中性的な顔立ちの先輩は席に着く。

「じゃあ次はシノン、お願い。……おーい! シノン!」

 ヘッドフォンを付けてゲームをしていたシノンは呼びかけに気付かなかったようだ。

 ヒトミは近寄り、シノンの肩をたたく。

「シノン。新入部員に自己紹介をお願い、好きな本と趣味の流れで」

 シノンがこちらを見、コントローラーを置き立ち上がった。


「二年生の紫宮しのみやシノンと言います。本を読んだことは殆どありません。趣味は……、まぁ見てのとおりゲームです。テレビゲームだけでなくゲーム全般を好んでおりますので、機会があれば対戦してもらえると嬉しいですわ。これからよろしくお願いいたします」

 学校には似つかわしくないゲーミングチェアに腰掛けるシノン。

 恐らく個人の持ち込み品であろう。軽く引いているレイジ。

「偏見かもしれないけど、紫宮さんもゲームとかやるんだね。意外だったよ」

「家で一人でいることが多いからかしらね。気が付いたらハマっていましたわ」

『そんなものなのかなぁ……』と一人思いめぐらすレイジをよそに、ヒトミが場を取りしきる。


「これで全員紹介が終了したということで、じゃあ各自活動に戻ってもらって大丈夫だよ」

 各々が元通りの一人作業に没頭していく。


「活動って、普段からこんな感じなのか?」

 もっと詩を作る、執筆をするなどの堅苦しい活動を想像していたレイジがヒトミに問う。

「まぁ大体はね。文芸部って名前はついてるけど、実質ダベったり、好きなことやってるだけだから。好きな時に来て好きな時に帰る。私は小説を書いてるけど」

「自由だなぁ」

 ともあれ、最低限の約束は果たしたレイジ。

 当初は自己紹介が終わったら帰宅しようと思っていたが、ヒトミから聞くに居心地は悪くなさそうだ。本を読むもよし、宿題をしてもよし、ゲームをしている人間までいる始末だ。

 また、ニコと名乗った後輩の女の子も、紫宮さんも顔のレベルが高い。

 打算的な考えだが、かわいい女の子たちと自由な放課後を過ごせるのは悪くない気がしてきた。

「なぁヒトミ、今日は俺も残って最後まで活動していくよ」

「どういう心境の変化?」

「いや、思ったより居心地が良さそうだったから。宿題でもしていくよ」

 机の上に教科書を広げる。


 こうしてレイジの放課後は始まった。

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