放課後は踊る

クラリア

第1話 始まりの放課後1

 放課後を告げるチャイムが鳴り響く。


 スポーツに青春を捧げる者達は、足早に教室を後にする。

 難関校への進学を目指す者達は、特別カリキュラムとして追加授業を受けるため別棟へと歩を進める。

 そんな中、レイジは晩飯までの時間に何をしようかと、ボゥっと虚空を見つめていた。スポーツに励むほどの活力はなく、かといって特別カリキュラムを受けるほど勉強に熱心ではない彼であった。


 帰りどこかに寄って帰ろうか。

 それとも撮り溜めているアニメでも見ようか。

 いろいろと考えながら教室を出ようとしたその時である。


「ちょっと待って!」

 いきなり背後から話しかけられて驚くレイジ。

「今ちょっと時間貰っていいかな?」

 彼を呼び止めたショートヘアの少女の名は春夏秋冬ひととせヒトミ。小学校よりの幼馴染だ。


「時間があるかどうかは用件を聞いてからでもいいかな?」

 何かと雑用を振られがちなので警戒するレイジ。

「どうせ暇なくせに。帰って飯食ってオナニーして寝るくらいでしょ」

「勉強もちゃんとやってるわ!」

「そういえばアンタ成績だけは良かったわね。まぁ、今回はホントに困ってるから助けてほしいの。借りパクしてるゲームも全部返すから!!」

「もう何をパクられてるのかさえ把握してないけどな」

 恐らく軽中古車1台分位にはなっているであろう。

 いつになく必死なヒトミの様子に仕方なく耳を傾ける。


「全部返してくれるなら聞いてやるよ」

「わかったわかった! 明日纏めて持ってくるから。率直に聞くけど、アンタ部活入ってないよね?」

 若干前のめりなヒトミに押されるレイジ。

「まぁ……、生まれた時から帰宅部族だしな」

「じゃあさぁ……」

 一寸の逡巡の後に。


「文芸部に入ってほしいの。今欠員が出ちゃってて、このままだと廃部になるかもしれないの」

「……」

 すぐには返答ができない問いに、快く首を縦に振ることのできない。

 そもそも、何かに属することを嫌うレイジだからこそ今まで帰宅部族だったわけだ。

「名前を貸してくれるだけでいいの。活動は今日の自己紹介だけでいいから。約束する」

 若干の沈黙の後、レイジが口を開く。

「それって差し迫ってる感じ?」

「出来れば今返事してくれると嬉しい」

 初めて何らかの部に属することに一抹の不安はあるが、腐っても気の合う大切な幼馴染の頼みを無碍にすることはできない。


「……、わかった。俺の名前使っていいよ」

「ホント? ありがとう! 明日必ず全部返すから!」

 ヒトミの顔に笑みが浮かぶ。笑うと可愛いからレイジも憎めない。

「第二図書室の前で待ってて。私は名簿を提出したら直ぐに行くから」

「わかった。早くしろよ」

 脱兎の如く走り去るヒトミを見送る。


『……ここで帰ったら面白いよな』と少し意地悪なことも考えたが、それをすると一生彼のゲームは返ってこなくなるであろう。

 けだるげな足取りでレイジは第二図書室に向かった。

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