第28話 同族嫌悪 part4
Aの顔が微妙に暗くなった。彼は不満そうな表情を浮かべていた。Bに、この「独りでいるのが好き」というアイデンティティを共有されたくなかったのだろうか。もしかすると、Bのこの言葉は、Aの自尊心を大きく傷つけたのかもしれない。
「いや、それは違うだろ。な?絶対にそれは……違う。うん。だって、ほら。お前さ。さっき話すのが好きって言ってたじゃんか。人と話すのが好きなやつがさ、独りでいるのも好きって。それ矛盾してんだろ。な」
普段使わない筋肉を一斉に使ったからか、Aは、大粒の唾を飛ばしながらそう言い放った。だが、Bはこれに対して嫌がるそぶり一つ見せることなく、それどころか、相変わらずその顔に笑みを浮かべながら、Aの言葉を聞いていた。彼はすこぶる余裕そうに見えた。今この瞬間、矛盾を突かれているにも関わらず。
「うん。君は、きっと勘違いをしているよ。僕は人と話すのが好きだなんて一言も言っていない。話すのが好きと言っただけさ」
Bは、再びAの周りをぐるぐると回り始めた。再び自分の話に熱中し始めたようだ。
「そう、確かに僕は話すのが好きだ。でも、それは、人と話すのが好きっていう意味じゃなくて、人に話すのが好きっていう意味なんだ。この二つの違い、君にわかるかい」
「うん……。まあ。でも、それがなんで」
「例えば、マジシャンやコメディアンは、多くの人に囲まれながら仕事している。けれど、だからといって、その多くの人たちと一緒に、エンターテイメントをやるなんてことはないだろう。彼らはいつも、たった一人でだだっ広いステージに上がって、遠くにいる客に向けて芸を披露しなければならない。彼らの仕事には孤独が付きまとう。だから、孤独を愛せなければ、ああいう仕事は出来ないんじゃないかと思うんだ」
「それはそうかもしれないけどさ。だからって、お前が」
「僕も同じなんだよ」
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