第25話 同族嫌悪 part1

 「お前、さ。自分のことどういう存在だと思ってんの?」


 今からBに説教でも始めるかのような口調だ。Aは、やたらと強気である。


「自分がどういう存在……か。うん。ヒト。それ以上でもそれ以下でもないよ」


「いや。あの…。そういうことじゃ、ないんだよな」


「じゃあ、どういうこと?」


「いや。いや、どういうことって言われてもさあ」


 Aは苛立ちを隠せていなかった。Bのあからさまにとぼけた態度それ自体も、彼の苛立ちの原因のひとつだろうが、それよりも、彼の思い通りに話が進んでいないことが大きいのだろう。何かナルシストなことか、もしくは何かうぬぼれたことを言って欲しかったのか。


 どちらにせよ、もちろん、自分の望んでいる通りのことを言ってくださいなんて言えるはずはない。Aは黙り込んでしまった。


「君の言いたいはわかってるよ」


 今度はBが沈黙を破った。


「わかってる。正直なところね。つまり、さっきはわかってない振りをしてたんだ。まあ、とにかく、君の質問の意図は僕にちゃんと伝わってる。そこは安心してくれ。でもね。それだけじゃ全く意味が無いと思うんだ。自分のはっきりとした言葉で聞いた、っていう事実が大切なんだよ。この事実が無いと、僕は、君の質問に〝マトモに〟答える義務が無いことになる。そうなれば、当然僕は、そのように答えようとはしない。それは困るだろう。さあ。ほら。僕に聞いてみるといい。お前は自分のことを天才だと思っているのか、ってね」


 Bは、にんやりとした笑みを浮かべながら、得意げにAに言葉を浴びせる。ペースト状にした優越感を顔中に塗りたくったような顔だ。Aはさぞかし悔しい思いをしているに違いない。彼は野犬のようになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る