第24話 AとB

「どうして。どうして、お前が。お前が、こんなとこにいんだよ」


 AはBに尋ねた。Aは口下手である。


「どうしてって……。君が呼んだんじゃないか。ここへ来るまで苦労したんだよ。

走ったり、登ったり、降りたりね。こんなに頑張ったんだから、どんなにいいところなんだろうって思ってたけど、なんだいここは。何一つ面白いものが無いじゃないか。さっきは、あの世って言ったけどさ。あの世でも、もっとなにかありそうだよ」


 BはAに答えた。Bは口達者である。


 彼らの間には、殺伐とした空気が漂っていた。まるで、果し合いの「現場」のようである。


 Aは、Bをその眼(まなこ)だけで睨み付け、その奥で、彼への殺意をゆらゆらと静かに揺らしていた。Aのこの殺意は、確かに、急ごしらえではあるようだが、十分に、彼の四肢を動かすことができるほどの馬力を持つように見える。


 一方Bはというと、一見すると呑気な様子である。しかし、勘のいいBが、目の前のAの内心を察しないはずはない。彼は、Aに対する恐怖を抱いているに違いない。けれど、それを表には出さないのだ。慣れた手つきで、自分の中で押し潰す。そうやって、彼は自身の表情の涼しさを維持するのである。が、Aが、そんなBの隠れた努力に気づいた様子はなかった。

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