第24話 AとB
「どうして。どうして、お前が。お前が、こんなとこにいんだよ」
AはBに尋ねた。Aは口下手である。
「どうしてって……。君が呼んだんじゃないか。ここへ来るまで苦労したんだよ。
走ったり、登ったり、降りたりね。こんなに頑張ったんだから、どんなにいいところなんだろうって思ってたけど、なんだいここは。何一つ面白いものが無いじゃないか。さっきは、あの世って言ったけどさ。あの世でも、もっとなにかありそうだよ」
BはAに答えた。Bは口達者である。
彼らの間には、殺伐とした空気が漂っていた。まるで、果し合いの「現場」のようである。
Aは、Bをその眼(まなこ)だけで睨み付け、その奥で、彼への殺意をゆらゆらと静かに揺らしていた。Aのこの殺意は、確かに、急ごしらえではあるようだが、十分に、彼の四肢を動かすことができるほどの馬力を持つように見える。
一方Bはというと、一見すると呑気な様子である。しかし、勘のいいBが、目の前のAの内心を察しないはずはない。彼は、Aに対する恐怖を抱いているに違いない。けれど、それを表には出さないのだ。慣れた手つきで、自分の中で押し潰す。そうやって、彼は自身の表情の涼しさを維持するのである。が、Aが、そんなBの隠れた努力に気づいた様子はなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます