第五章 私Aは私Bを呼んだ

第23話 何もないはずの世界

 ここは、文字通りの何もない空間。酸素や光すらない。だから、ここでは生き物は生きていけない。なら、ここはあの世なのかと聞かれれば、そうではない。もっと身近な場所である。


 それにしても、この日は珍しい。何もないはずのこの場所に、二人だけいた。いや、二つと言った方が正確かもしれない。


 彼らは、お互いに、全く同じ容姿を持っていた。ドッペルゲンガーに過ぎないようにも見えるし、双子のような関係であるようにも見える。


 もっとも、彼らを見分けるのは簡単である。顔を見ればよい。泥と血で汚れている方。こちらはAという。このAと対照的に、その白く美しい肌を保っている方は、Bという。


 彼らの間には、先ほどから無音の時間が流れている。まさか初めて会ったわけでもなかろうに、彼らは、お互いの様子を伺い合って、沈黙を破るタイミングを探しているようである。

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