第14話 怪物現る part1

 放課後、私は一人で帰路に就いていた。満足感と達成感で出来た海を、気持ちよく泳ぐようにして。私は帰るときはいつも、ある商店街を通る。その商店街は、日によって印象がまるで違うが、今日は実に素晴らしい。突き抜ける風は、ほどよい涼しさを持ち、大らかに、柔らかく、私を包み込んでくれる。足元の道は、私のローファーとこすれて、ジャリジャリという音を立て、私に心地よい刺激を与えてくれる。


 今日の商店街は、私に、「特別ないつも通り」をプレゼントしてくれていた。ここは、なんていいところなのだろう。やはり、私はこの商店街が好きだ。うん、大好きだ。私は、心の中でひそかに笑った。ついこの間は、クソみたいな場所だと思っていたのである。


「あの……」


 聞き慣れない声が、私のかかとにコツンと当たった。私は、無視するのも悪いと思ったので、とりあえず後ろを振り返ることにした。すると、そこにいたのは、意外にも見慣れた人物だった。


 隣の席の子。へえ、こんな声だったのか。知らなかった。透き通っていて、美しい、いや綺麗な声だ。だがその反面、ガラスのような脆さを帯びている。


 私は、少し感動していた。現代では、生きていると毎日のように、新しいものに触れることができるが、ずっと今まであったものを、新しく感じるというのは、そうそう味わえることではない。


「あの。あのさっ」

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