少女の波乱万丈な人生の始まり

side:河野さくら


今日は多分、これからも含めた私の人生の中で一番多くのことがあった一日になると思う。


昔から大好きだったアイドルのライブに行くため友達と待ち合わせをしている最中に、不思議な男性とあった。


無垢な白髪を雑に伸ばした彼はベンチで寝ながら、拾ったチケットの持ち主を探していて。

...まぁ最終的に持ち主を見つけたのは私だったけど。



彼と別れてPassion Rozeのライブを堪能した後、用事があったみっちゃんと別れて街を散策しているとまたもや彼と遭遇。

雑談に花を咲かせていると、不意に建物が倒壊する時のような轟音が響いてが現れた。


『破滅の蕾』


私がまだずっと幼いころにこの世に現れ始めた災厄。

お父さんとお母さんがまだ出会ってもいないような頃に空から現れた根。そこに生った蕾は地上に落ちると怪物を生み出す。


今まで見たことは無かったけど、一目見た瞬間に理解した。

それがとても、とても恐ろしいものであるということを。


怪物の咆哮を聞いたとき、身が竦んだ。

脚が震えて、立っているのが精いっぱいで頬を涙が伝うのが分かった。


「嬢ちゃん、早く逃げてくれ。今の咆哮で近くのに通報があったはずだ。少し時間を稼げばすぐに救援が来る。」


隣にいたおにいさんのやけに落ち着いた様子に疑問を抱く暇もなく、私はおにいさんが私を守ろうとしてくれていることに気づき反論した。


「でも!貴方は?」


「嬢ちゃんが残るよりはマシだよ。いいから、早く行きな。」


こちらを気遣うような柔らかな声音に、これ以上ここにいても迷惑になると悟った私は一刻も早く助けを呼ぶために走り出した。




#####




おっとりした口調でメグミさんが歩き出した。


「あの、私これからどうなるんでしょうか?」



結局おにいさんは無事で、怪物も退治されて結果は万々歳だったけど、私はどことなく消化不良のようなものを感じた。


自分の不甲斐なさ、未熟さをイヤというほど痛感させられる。

事情聴取も終わり、ひとまず家に帰れると安堵する私の思いを裏切るように道中伝えられた居残り。


どうなることかとびくびくしていると、


「それじゃあ、サクラさんついてきてくださいね。」


道中で緊張している私の様子を悟った諸藤さんは私の緊張をほぐすために話を振ってくれた。


「うふふ、不安に思うのも無理ないけど悪いようにはならないから。まずは、検査を受けてもらいます。」


「検査、ですか?」


「えぇ、その結果次第でサクラさんの処遇が変わってくるんですよね。」


ゴクリと思わず喉を鳴らしてしまう。


案内されたのは清潔に保たれた部屋。

見たこともないような機械が所狭しと並び、スタッフさんだろうか?数人の女性があくせく働いていた。


「メグミちゃん。」

部屋の奥の方から20歳前後の女性が諸藤さんに声をかけつつ、こちらに来た。


「ユキさん、連れてきました。彼女が今回現場にいた、サクラさんです。」


「えぇ、ありがとねメグミちゃん。」


スタッフの人と同じ服を着ているからここの制服なのかな?なんて益体もないことを考えてしまう。


ユキさんという女性は諸藤さんにお礼を言うと、私に向き直った。


「始めまして、八乙女 友紀ヤオトメ ユキです。301小隊の司令官補佐をしています。よろしくね。」


「よ、よろしくお願いします。あの、検査って何の検査ですか?」


「適性検査よ、うーん詳しいことは言えないんだけど病気とかの検査ではないから安心してちょうだい。それはそうと....」

八乙女さんはチラと視線をもう一人に向ける。


「ツバキちゃんはどうしたのかしら?心此処に在らずって感じだけど。」


「討伐が完了してからずっとそんな感じなんです。もしかしたら、助けた男性に一目ぼれしちゃったのかも。」


「あらあら、若いっていいわねぇ。」


二人の会話を聞いてあの人を思い出す。そう言えば、名前を聞いてなかったな。今度会ったら聞いてみようと心に決めて、意識を黄瀬さんに向ける。

気になったので、思わず聞いてしまった。


「そうなんですか?」


「馬鹿言わないで。少し考え事をしていただけよ。」

返ってきたのは辛辣な罵倒だった。



#####



検査は終わり、結果を待つ。

「三人とも、こっちに来てちょうだい。」


連れてこられたのは先程よりもずっと奥。何度も階段を下り、廊下を行き来し八乙女さんは一つの扉の前で止まった。


「えーっと、ここまで来ておいて今更なんだけど、サクラちゃんに検査の結果を報告します。」


首をかしげてしまう。

八乙女さんの言葉を聞くと、検査結果を伝えるためにここまで来たのではなく検査結果を伝えた後でここまで来ないと行けないような大きなな違和感とイヤな予感。

それと同時、ここが自分の人生の分岐点となるような途方もない予感。


喉を鳴らし、八乙女さんの言葉を待つ。



コホン


「サクラさん、貴女が摘み人の適性者であることが判明しました。それに伴い、現時点をもって貴女には日本を守護する義務が発生しました。了承いただけるならこの扉をおくぐりください。我々は貴女を歓迎いたします。逆に、了承していただけない場合、最低限の説明のみ貴女にお伝えしこの場を後にしてもらいます。」


「摘み人....」



国営の組織に属し空を覆う根より産み堕とされる異形を刈る存在、摘み人。

今日のように怪物は突然、日常に現れる。そんな怪物の脅威から人々を守るために日夜を問わず戦い続ける、それが摘み人だ。



その時、私には実感が湧いてなかったと思う。


八乙女さんの言葉を聞いて、最初に脳裏をよぎったのは両親のことでも友達のことでもなく、あの柔らかな声だった。


「あの....」


「どうしたの?」


「その義務を果たせるようになったら、私は誰かを守れますか?...大切な人を守れるようになりますか?」


脳裏をよぎる記憶の怪物はひどく凶悪で、とても恐ろしいものに感じられたけど


「えぇ、もちろん。」


誰かを守れる強さが欲しいってそう思ったから。


「私は―――――」


答えはとうに決まっていた。






ありふれた人生を過ごしてきた少女に突きつけられたこの選択は大きな歯車を動かすための始まりに過ぎなかった。




根は蠢く。


それに意思など存在しない。


それに情など存在しない。


それでも僅かな予感がした。


自らを脅かす者の予感。


自らの子等が蹂躙される予感。


自らの目的が阻まれる予感。





根は蠢く。


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