ルテティア・ノヴァ攻撃
帝都ビュザンティオンは陥落した。オーレンドルフ大将は全ての将兵を逃がすというガラティア帝国の要求に応じ、ビュザンティオンに駐屯していた軍団は全て無事に脱出して、内陸部で抵抗を続けるつもりである。
他方、クバナカン島からヴェステンラント軍を駆逐した帝国軍は、王都ルテティア・ノヴァへの攻撃を開始していた。既にゲルマニア軍が制海権を獲得している以上、ヴェステンラント大陸に上陸することは容易であった。健気な抵抗も、戦艦の艦砲射撃が全て粉砕した。
シグルズは参謀本部に戻っており、大陸派遣軍からの報告をオステルマン上級大将と共に逐一受け取っていた。
「大陸派遣軍グデリアン中将より報告です。ルテティア・ノヴァ総攻撃の用意が整ったとのこと。参謀総長閣下のご命令あり次第、いつでも始められます」
「そうか。我が総統、よろしいですか? かつてこの手で守った都市を灰にするというのは、心苦しいものですが」
「昨日の味方は今日の敵さ。国と国の関係なんてそんなものだよ。やってくれ」
ゲルマニア軍は、ヴェステンラント王都ルテティア・ノヴァに攻撃を開始した。
○
「まったく、酷いことになってしまいましたね」
「ええ、まったくです。ゲルマニア軍め、ここまでするようになったとは」
その日、ゲルマニア軍の爆撃が続く中、クロエとスカーレット隊長はノフペテン宮殿の地下壕に籠っていた。ノフペテン宮殿は既に燃え落ちルテティア・ノヴァ全体が炎に包まれている。
「殿下、爆撃機が去ったようです。火は全く消えませんが……」
「消えるとかではないでしょう。私達が消すんですよ。出せるだけの魔女を出撃させてください」
「はっ!」
ヴェステンラント軍の方がまだ対応力がある。クロエはすぐに土の魔女達を出撃させ消火作業を行わせた。水の魔法では炎は消せず、土で埋め立てて酸素を奪うしかないのである。
火は徐々に収まっていき、クロエ達も地上に出た。宮殿も貴族の邸宅も庶民の家々も、全て尽く燃え尽きていた。だが、休む暇も与えずに、次の悪い報せが入る。
「申し上げます! ゲルマニア軍、動き始めました!!」
「クッ……そう来ると思ってはいました」
「クロエ様、すぐに応戦しましょう! 連中を王都に入れる訳にはいきません!」
「王都の外に打って出る余裕はないでしょう。作戦通り王都に立て籠ります。この王都は世界で最強の要塞ですから」
「そ、そうですね。では私は、前線の指揮に行って参ります」
「ええ、任せます」
先の大戦の時も王都に張り巡らされた地下街がゲルマニア軍を大きく苦しめたが、この20年で地下街は更に拡大され、戦争に向けて整備され、まさしく地下要塞と言った様相を呈している。地上の建物はすっかり燃え尽きてしまったが、地下要塞は健在なのだ。
スカーレット隊長は最前線に向かい自ら戦うつもりである。隊長は地下要塞の一角にある地下司令部に入った。
「スカーレット隊長、お待ちしておりました」
「挨拶はいい。敵は来たか?」
「はい。敵軍はおよそ80万、重戦車を先頭に、王都に侵入して来ています」
「分かった。すくに反撃を行うぞ。弩を持て!」
「はっ!」
ヴェステンラント軍の作戦が開始される。魔導兵達はスカーレット隊長に率いられ、ひっそりと地上に出る。重戦車が大地を鳴らし瓦礫を踏み潰しながら、彼らの眼前を悠然と進んでいる。
「し、しかし、あんな化け物をどうやって撃破するのですか……? ガラティア軍は高射砲で撃破したそうですが、我が軍にそんなものはありませんし……」
「そんなものに頼るな! 我々にもこの弩があるだろ!」
「で、ですが、対装甲弩は敵のⅥ号戦車には全く効果がないと、ガラティア軍が……」
「それは真正面から撃ったからだ。あのデカブツも、前後左右の装甲が均等に厚い訳ではない。行くぞ! 配置に就け!」
兵士達は密かに動き出す。地下壕から静かに這い出して来た兵士達は瓦礫の陰に隠れ、戦車の尻に狙いを定める。
『よし、いいぞ、撃て』
スカーレット隊長は魔導通信機に静かに吹き込む。次の瞬間、周辺の戦車が一斉に燃え上がり、数十の兵士が矢に撃ち抜かれた。
「敵襲だ!! 反撃しろ!!」
「クソッ!! どこにいる!!」
ゲルマニア兵は突撃銃を乱射するが、統制を失っている兵士達では何の役にも立たない。逆に物陰に潜む魔導兵は冷静にゲルマニア兵を狙撃し、あっという間に小隊を壊滅させたのであった。そして敵の援軍が来る前に地下要塞に引き返し、地下への入口も塞いで何の痕跡も残さなかった。
ルテティア・ノヴァのどこからでも神出鬼没に現れるヴェステンラント兵に、ゲルマニア軍はたったの一日で100両以上の戦車を失ったのである。
○
「我が総統、ルテティア・ノヴァの抵抗は予想以上でした。既にガラティア軍の国境防衛線を突破した以上の損害が出ています」
オステルマン上級大将はシグルズに報告を行っていた。二人の長い仲である。誤魔化したりするつもりはない。
「空爆で敵の戦力を削れないと、なかなか厳しいか。ルテティア・ノヴァは我が軍と相性が悪いな」
「ええ、その通りです。このまま攻撃を続けますか?」
「ここで退くのは論外だ。いかなる犠牲を出しても、王都を落とせ」
「はっ。全力を尽くします」
こんな程度で諦めることは許されないのだ。
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