帝国の意地
「敵航空部隊を確認。およそ200機がここに向かってきています。速度から、恐らく爆撃機かと思われます」
最新鋭の電探を使えばガラティア軍の動きなどすぐにつぶさに分かる。
「こちらの戦闘機は?」
「到着まで10分ほどです。敵の方が早く着くでしょう」
「ならば高射砲で迎撃する。全高射砲撃ち方用意!」
これも想定の内だ。ガラティア軍が航空隊で攻撃してきた時の為に100門以上の高射砲が万全の準備を整えているのである。直ちに兵士達は配置に着き、敵爆撃機が射程に入る時を待つ。
「敵軍、迎撃空域に入りました!」
「全高射砲、攻撃を開始せよ! 一機たりとも生かして帰すな!」
ここに配備されている高射砲は、電探で探知した敵機の向きや速さ、周囲の風速などから最適な射撃を計算するという、画期的な大砲である。もちろんそれでも空を飛び回る敵を相手にしては多くの弾が外れるが、100門で連射すれば当たらない訳がない。
空に打ち上げられた数千の榴弾が次々と炸裂し、まるで花火大会をやっているような光景であった。もちろんその火花は航空機を破壊する金属片を撒き散らす死の火花だが。爆発に巻き込まれたガラティアの爆撃機は次から次に墜落していった。
「これほどまでとは……敵機、残り50ほどです!」
「十分過ぎる成果だな」
「敵機、30秒ほどでここに到達します!」
「全部落とし切れるとは思っていない。総員直ちに退避!」
最終的に生き残った30ほどのガラティア機が爆撃を行うが、その程度の数ではゲルマニア軍に有効な損害を与えることは出来ない。ゲルマニア軍は事前に退避壕を用意しており、人的損害は皆無であった。
「高射砲隊、追撃せよ! 敵を逃がすな!」
残り僅かな生き残りを容赦なく砲撃する高射砲。ガラティアに生きて帰れたのは僅か12機に過ぎなかった。一瞬にして200機の航空隊が壊滅したのである。高射砲の完全な勝利だ。
しかしそれは、あくまで万全の体制を整えていたからこそ。高射砲陣地などそう簡単に造れるものではない。
「閣下! 上陸部隊が敵航空隊の襲撃を受けているとのこと!」
「そちらが本命のようだな」
ビュザンティオンの東側に上陸を開始した部隊が攻撃を受けた。一番防御がおざなりになる上陸時を狙うのは戦術の定石であり、おかしなことではない。
「どうされますか、閣下? このままでは一方的に爆撃を受けてしまいます」
「問題ない。すぐに我が軍の戦闘機が到着する。彼らに上陸部隊の援護を行わせろ」
「ビュザンティオンを飛び越えて向こうの支援を?」
「何か問題があるか? 航続距離は十分な筈だが」
「い、いえ、特には」
「ならばすぐに連絡せよ」
ガラティア軍が航空機を編成するまでゲルマニア軍は航空機との戦闘など考慮する必要が無かったが、ガラティア軍の近代化に伴って遂に戦闘機を開発した。速度に特化した戦闘機はプロペラを廃しジェット推進を採用しており、世界で唯一のジェット機である。
圧倒的な速度を持つ戦闘機は、ガラティア軍の高射砲など意にも介さずビュザンティオンの上空を我が物顔で素通りし、ゲルマニア軍を襲う爆撃隊に襲いかかった。
戦闘機と爆撃機では、最初から勝負になる訳もない。増してやジェット推進とプロペラ推進では、基礎性能が違い過ぎる。戦闘機は十倍以上のガラティア軍機を一方的に蹂躙し、尽く撃墜してしまったのである。
「て、敵軍、壊滅しました。これが戦闘機の威力、ですか……」
「航空機を落とす為の航空機だ。禍々しい存在だが、これで空は我々のものだ」
ゲルマニア軍がガラティア軍に一方的に攻撃出来るという訳でもないが、少なくともガラティア軍がゲルマニア軍に空から手を出すことは不可能となった。ガラティア軍に反撃の余地はない。
「閣下、敵戦車隊が迫っています!」
「爆撃と同時に来ればまだ何とかなったものを。爆撃機と高射砲で迎撃せよ! Ⅴ号の装甲なら十分抜ける」
ガラティアの国産品とは言え、元になっているのはゲルマニアの戦車である。その性能はゲルマニアが最もよく知っている。
ガラティア軍の戦車隊は決死の覚悟で突撃して来たが、一方的に爆撃され、ゲルマニア軍の陣地に近付けたものも高射砲によって粉砕された。
「ガラティア軍機甲師団、撤退していきます」 「追撃はしなくていい。まだこちらから仕掛けるのは危険だ」
オーレンドルフ大将は全ての攻撃を跳ね除けた。後はビュザンティオンを兵糧攻めにするだけである。
○
「陛下、最早これまでかと。帝都は捨てて東に都を移しましょう」
イブラーヒーム内務卿はアリスカンダルに二度目の都落ちを進言せざるを得なかった。が、アリスカンダルがそのような屈辱を認めることはなかった。
「ならぬ。未だ一発の銃弾も撃たずして帝都を明け渡すなど論外だ」
「し、しかし、包囲を解く望みがない以上、我々はただ飢えるのを待つことしか出来ませんが……」
「問題ない。食糧ならば運び込める。ヴェステンラントの潜水船があればな」
「確かにその通りですが、輸送量に限りがありまして……」
「ならば皆で食糧を節約せよ。無論私もそうする」
「承知しました。そのように取り計らいます」
アリスカンダルは諦める気など毛頭ないのである。
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