ゲルマニアの反撃Ⅱ

「戦艦カイザー、戦線を離脱とのこと!」

「魔導対艦砲の威力も侮れないね」


 まだレジーナ級を一隻も沈められていないというのに、こちらの戦艦が一隻戦闘不能に追い込まれてしまった。レジーナ級12隻に対してこちらの戦艦は16隻であるから、決定的に不利になった訳ではないが。


「高速戦艦隊、敵艦隊の頭を押さえました。攻撃を開始するとのこと」

「これでどうなるかな」


 高速戦艦部隊は単縦陣を組むヴェステンラント艦隊の進路を阻み先頭を囲い込むように展開する。陣形は非常にゲルマニア軍優位である。


「高速戦艦部隊、攻撃を開始しました。一番近くのレジーナ級に集中砲火を浴びせるとのこと」

「いい作戦だ。それなら流石にやれるかな」


 高速戦艦部隊は理想的な丁字作戦を展開している。部隊の全ての主砲が敵艦隊の先頭にいるレジーナ級魔導戦闘艦に火力を集中させるのだ。数十発の砲弾を一斉に喰らえば、レジーナ級とてただでは済まない。再生も間に合わず、上甲板から船底に至るまで、何もかもが粉砕されていった。


「レジーナ級を一隻撃沈しました!」

「よくやった。この調子で頑張ってくれるかな」


 生半可な攻撃では再生されるだけ。一隻に再生の隙すらないほどの集中砲火を浴びせなければ、レジーナ級を撃沈することは出来ない。だが、それさえ分かればゲルマニアの反撃開始である。


 主力戦艦部隊もレジーナ級を一隻ずつ集中して攻撃し、撃沈することに成功した。更にはダメ押しに艦載機による攻撃も行い、ヴェステンラント艦隊は完全に壊滅したのであった。


「敵艦隊、我に降伏するとのこと!」

「話の分かる指揮官だ。くれぐれも捕虜は丁重に扱えよ」

「はっ」

「ところで、結局こちらの被害はどうなっている?」

「最終的に、駆逐艦4隻、巡洋艦5隻、戦艦4隻、空母1隻が轟沈しました。また駆逐艦2隻、巡洋艦3隻、戦艦2隻が大破です」

「それを差し引いても、十分戦闘能力は残っているな」

「レーダー大将より、このままクバナカン島に向かうとのことです」

「問題ない」


 かつてゲルマニアに割譲されたクバナカン島は、ゲルマニア軍の前哨基地としてヴェステンラント軍の攻撃に耐え籠城しており、これの救援が最優先である。クバナカン島を維持出来れば、ゲルマニア本土との連絡も確保されたことだし、ヴェステンラント本土進攻も容易であろう。


 ○


 一方その頃。ガラティア帝国の国境防衛線を突破し進軍を続けていた南部方面軍は、帝都ビュザンティオンを守る非常に堅固な要塞を前にして休息を取っていた。


「ビュザンティオン大要塞か。前の戦争の時もこれの為に大きな犠牲を払ったが、今度も同じことになりそうだ」


 オーレンドルフ大将は双眼鏡でビュザンティオンを観察しながら呟いた。ビュザンティオンを守る要塞は、無数の特火点、塹壕、砲台が組み合わさった永久要塞である。砲台や高射砲は防護され、空襲でもそう簡単には破壊出来ないだろう。突破は困難を極めることが予想される。


「あれほどの要塞、一体どれだけの犠牲が出ることか……」

「どれほど作戦を練っても、大きな犠牲なしには突破出来ないだろう。だが、別にあの要塞を突破する必要は我々にはないのではないか?」

「ビュザンティオンを落とすことが我々の任務ですが……。ビュザンティオンを迂回されると言うのなら、参謀本部に許可を得た方がよろしいかと」

「いや、ビュザンティオンは落とす。だがその手段は兵糧攻めだ。今の我々なら、ビュザンティオンを完全に孤立させることも出来よう」


 制海権はゲルマニア地中海艦隊が完全に確保している。ビュザンティオンの後方に上陸して東西からビュザンティオンを挟撃することは十分に可能である。敵の指揮官が最後の一人になるまで抵抗するような人間でなければ、敵味方の犠牲も最小限に抑えられるであろう。


「方面軍を半分に分ける。半分は敵の反撃に備えてここで防備を固め、残り半分はビュザンティオンの東に上陸させよう。すぐに海軍に応援を要請してくれ」

「はっ!」


 ガラティア軍の戦力は決して甘く見るべきではない。下手に兵力を分散させれば各個撃破されてしまう可能性もある。オーレンドルフ大将は慎重策を講じた。


 さて、ガラティア軍は特に行動を起こさず、2週間ほどでビュザンティオン東部上陸作戦の用意が整った。そしておよそ60万の大軍団は何の抵抗も受けずビュザンティオンの東側に上陸を開始したのであった。


 だが、それこそがガラティア軍の狙いであった。オーレンドルフ大将が恐れた通り、ガラティア軍は居残りの40万に対して総攻撃を開始したのである。


「閣下、ガラティア軍の航空隊に動きありとのこと。我々に襲撃を掛けてくるかと」

「戦車師団にも動きがあります」

「ここに最後の望みを掛けたか。ここで私達が負ければ、帝国本土までがら空きだしな」

「はい」

「全軍、敵を迎え撃つぞ。絶対をここを通すな。ガラティア軍など全て粉砕してやれ!」

「「おう!!」」


 この戦争始まって以来初めての防衛戦である。ガラティア軍の火力が如何ほどのものか、ここで試されることになるだろう。

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