ゲルマニアの反撃
ゲルマニア最大の空母であるペーター・シュトラッサーは失われてしまったが、グラーフ・ツェッペリンは無事であり、敵軍もいよいよ全滅しかけている。ヴェステンラントとしては多数の潜水船を犠牲にした割に合わない戦果だろう。
さて、空母機動部隊の戦況が落ち着いたところでレーダー大将は気を取り直して艦隊決戦を挑もうとするが、ヴェステンラント軍は次の手を繰り出し来た。
「我が総統、ヴェステンラント軍の飛行船が現れました!」
「やっぱり来たか」
飛行船と言っても、ヴェステンラント軍における飛行船は、イズーナ級魔導戦闘感を空に浮かべたものである。空を飛ぶ帆船というなかなか幻想的な兵器である。シグルズは望遠鏡でその姿を捉えた。
「飛行船は二隻か。まあ一隻造るだけでも大変そうだから、当然かな」
「戦艦部隊、応戦を開始するとのこと」
「戦艦じゃあ対応はキツいんじゃないかな」
戦艦部隊は飛行船に向けて一斉に攻撃を仕掛けるが、シグルズの予想通り、主砲はまるで当たらなかった。それも当然である。海軍の艦砲は水面上にいる敵を狙うように、つまり二次元的に照準するように設計されているからだ。三次元的に動き回るものを狙うようには出来ていない。
唯一命中させることが出来るのは対空用の高角砲であったが、魔女を殺すことを目的としたこれら兵器では、ヴェステンラントの軍艦に与える損害など微々たるものである。
「飛行船、戦艦部隊に攻撃を開始しました!」
「一方的な攻撃だな」
戦艦の主砲は役に立たず、飛行船は魔導対艦砲で一方的に攻撃することが出来た。
「戦艦ケーニッヒ、三番主砲塔を喪失!」
「ティルピッツ、一、二番主砲塔が使用不可とのこと!」
ヴェステンラント軍の対艦兵器も進化しており、先の大戦の時と比べ格段に厚くなった装甲をも貫く力を持っていた。空から攻撃するなら尚更であろう。
と、その時である。レーダー大将からシグルズに緊急の通信が入った。シグルズは一瞬で通信を受けた。
『――我が総統、単刀直入に申し上げます。ミョルニルを使用するご許可をお願いいたします』
これがシグルズの唯一の仕事である。ゲルマニアの新兵器ミョルニルを使用する是非を政治的に判断し、許可を出すことだ。まあ答えなど決まっているが。
「もちろん許可する。存分に使ってくれたまえ」
『はっ。ありがとうございます』
そしてレーダー大将は直ちにミョルニルの発射を命令した。空母機動部隊を護衛する巡洋艦達の甲板後部が開き、複数の円筒状の物体が頭を出した。言うに及ばず、ミョルニルとは対艦ミサイルのことであった。
巡洋艦から射出されたミョルニルは、直ちに敵艦隊に向かって飛翔した。ライラ所長が発明した魔法探知誘導装置によってヴェステンラント艦隊に迷いなく飛んで行くのだ。そしてもちろん、その標的となるのは最も手前に進出して来ている飛行船である。
合計して60本が発射されたミョルニルは、目にも留まらぬ速さで飛行船に突っ込み、満載した炸薬を一斉に大爆発させた。
「敵飛行船、撃沈しました!」
「流石の威力だ。ライラ所長には感謝しないとな」
飛行船は一瞬で複数の欠片に分断され墜落した。無数の瓦礫が戦艦部隊に降り注いだ。ヴェステンラント軍の決戦兵器はゲルマニア軍の決戦兵器に敗れたのである。
「ミョルニルはまだ残ってるし、また飛行船が来ても大丈夫だろう」
ゲルマニア艦隊に対する脅威は消え去り、シグルズはほっと息を吐く。
「レーダー大将より、改めて艦隊決戦に移行するとのこと!」
「ようやくだな」
ようやく主力艦隊同士の戦いが始まった。最高の火力と装甲を持った主力戦艦8隻が敵艦隊と同航戦に移行し、機動力を重視した高速戦艦8隻が敵艦隊の頭を抑え込むように展開する。
今のゲルマニアの戦艦は完全に超弩級戦艦に進化した。対艦兵装を巨大な主砲に統一し、対空用以外の副砲を廃したのである。これにより戦艦の対艦戦闘能力と射程は一気に向上した。
「主力部隊、砲撃を開始します!」
「ここからだとよく見えないが、頑張って欲しいものだね」
これまでの戦闘は前哨戦だ。両軍の主力艦隊同士が真正面から撃ち合う艦隊決戦で勝負は決まるだろう。
戦いの火蓋を切ったのはゲルマニア艦隊である。そしてほぼ同時に、ヴェステンラント艦隊も砲撃を開始する。両軍共に最初はほとんどの弾が外れるが、次第に照準を定めて命中弾を出していく。
戦艦の大口径砲から放たれる、ちょうど敵艦の中で爆発するように調整された榴弾の威力は凄まじく、イズーナ級なら一撃で前後真っ二つにするほどであった。しかし最新型のレジーナ級は防御力もある程度はあるようで、上甲板を剥ぎ取るくらいしか出来なかった。
「レジーナ級は最低限の装甲を持っているのか……。それで信管が早く起動してしまうみたいだね」
「レジーナ級は戦艦に撃たれても再生しているようです」
「化け物じみた木造船だよ、まったく」
イズーナ級は次々に沈めることが出来たが、レジーナ級は未だに一隻も沈められず、戦いは一進一退だ。
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