またしても白兵戦
「な、何か飛び出しました!!」
潜水船の甲板から何かが投射された。その正体はすぐに判明した。気付いた時には多砲身砲を操っていた兵士達を、魔女が斬殺していたのである。
「なるほど。魔女を高速で射出するという訳か。これなら水際防御を突破出来る」
「し、シグルズ様、これはマズいのでは……」
「ああ、マズいな」
ゲルマニア兵は多砲身砲を奪還すべく魔女を攻撃するが、魔女はとっとと砲を破壊してしまい、奪還は不可能になってしまった。
「敵軍、乗り込んで来ます!!」
ヴェステンラント軍は速やかに長い梯子を何十本とグラーフ・ツェッペリンに立てかけ、飛行甲板と格納庫に侵入を試みる。だが、これもゲルマニア軍の想定内である。
「グラーフ・ツェッペリン、白兵戦に移行するとのこと!」
「これで耐えられなかったら、僕達の負けだね」
直接侵入されることが想定される飛行甲板とその下の格納庫では、兵士達が既に戦闘の準備を整えている。グラーフ・ツェッペリンが戦闘態勢に移行すると、甲板から直方体の鉄塊がせり出してきて、兵士達の遮蔽物となる。数十秒のうちに甲板を遮蔽物が取り囲み、グラーフ・ツェッペリンは城のような姿に様変わりしたのである。
ヴェステンラント兵が乗り込んで来た。兵士達はここに隠れながら、突撃銃や機関銃で応戦する。最初に甲板に乗り込んで来た者は一瞬で消し飛ばしたが、次から次に乗り込んでくる魔導兵への対処は次第に間に合わなくなってきた。
「我が方、押されているようです……」
「別に敵が多少侵入しても構わないんだ。まだまだ下がれる。防衛線とはそういうものだよ」
「はっ……」
既に一番外側の壁は放棄され、兵士達は少しづつ後退している。とは言えグラーフ・ツェッペリンのような巨艦なら、隅っこが多少取られた程度、どうということもない。潜水船から次々に湧き出してくる敵軍と激烈な戦闘が続く。
「重巡洋艦隊、敵船に対し攻撃を開始するとのこと!」
「これでお互い、逃げ場はなくなるね」
空母機動部隊を護衛する巡洋艦が潜水船に攻撃を開始した。巡洋艦とは言っても先の大戦で最初に投入されたアトミラール・ヒッパー級戦艦と同等の攻撃力を持ち、潜水船程度なら簡単に沈められる。
至近距離から多数の砲撃を浴び、潜水船は次々と沈んでいった。だが既にほとんどの兵士がグラーフ・ツェッペリンに乗り移っていたらしく、状況は特に改善されない。
「我が総統! 敵軍が艦内に侵入したとのこと!」
「押されてるな……。まあまだ危機的な事態ではないけど、たまには僕も戦おうかな」
「シグルズ様が戦いに出ることはないと思いますが……」
「兵士の犠牲を少なくするのは総統の仕事だ」
「そ、そうでしょうか」
「この程度で死にはしないよ。安心してくれ」
かくしてシグルズは艦橋から打って出た。総統にあるまじき行動ではあるが、咎める者もいはしない。シグルズは二丁の対魔女狙撃銃を作り出し、前線に向かった。
○
グラーフ・ツェッペリンだけに留まらないが、ゲルマニアの軍艦の白兵戦への備えは非常に充実している。艦内の通路にはどこでもすぐに展開出来る遮蔽物が用意され、機関砲がすぐに取り出せるように配備してある。
とは言えヴェステンラント軍の技術も進化しており、機関砲でもなかなか魔導装甲を破ることが出来ない。外に配備してある多砲身砲があればよかったのだが、生産数の問題と保管上の問題で艦内には配備されていない。
ヴェステンラント軍は極めて堅牢な盾の後ろに隠れながら射撃を繰り返し、ゲルマニア軍も遮蔽の後ろから射撃を行い、膠着状態に陥る。だがヴェステンラント軍はすぐに状況の打破を試みた。
「奴ら突っ込んで来る気です!!」
「迎え撃て!! ここを通すな!!」
攻撃が不自然に途絶え、敵が攻勢に出るつもりだと兵士達は感じ取る。予感の通り敵兵は盾から打って出て、ゲルマニア兵に向かって突撃して来た。
「撃て撃て!! 撃ちまくれ!!」
「ダメです! 効きません!!」
全体的に先の大戦の重歩兵と同等の防御力を持っているヴェステンラント軍だが、こういう時の先鋒は盾を携え鎧も重装甲のようだ。機関砲弾ですら跳ね除けて突進してくる彼らが、ヴェステンラント軍を導いたのであろう。
が、その時であった。全く弾丸の通用しなかった敵兵が、突如として弾け飛ぶように死んだのである。立て続けにヴェステンラント兵の鎧は撃ち抜かれ、戦闘は終息した。
「わ、我が総統!? ど、どうして、こんなところに!?」
煙を吹く銃を二丁携えたシグルズが、兵士達の後ろに立っていた。
「僕もたまには戦いたいんだ。僕も25年前までは一介の兵士だったんだぞ」
「そ、そうは言いましても……」
「まあ細かいことは気にするな。全員無事だな?」
「は、はい! 我が総統のお陰です!」
「それはよかった」
「し、しかし、その銃は一体……。あの魔導兵を一撃で撃ち抜くとは……」
シグルズの銃は軍には配備されていないものである。
「対魔導装甲用炎熱弾を撃ち出す、特製の対魔女狙撃だ。魔力がないと撃てないから、量産は無理だね」
この銃は魔導弩の機構を銃に落とし込んだものであり、言わば魔導銃である。エスペラニウムがないと使えないこの銃は、残念ながらゲルマニア軍では使えないのであった。
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