アトランティス洋大海戦Ⅱ
「申し上げます。第一次攻撃隊、イズーナ級魔導戦闘艦2隻を完全に撃沈したとのこと」
「イズーナ級ですら2隻しか沈められないか。やっぱり奴らを沈めるのは難しいな」
イズーナ級は現在では旧式艦である。イズーナ級を沈めたところでそう嬉しくはないのだ。最新型のレジーナ級魔導戦闘艦を沈められなければ、航空攻撃に大きな意味があるとは言えない。
やがて空母に帰投した航空隊は再び爆弾と魚雷を満載して出撃し、敵主力艦隊に対し攻撃を行うが、戦果は先程と同じくイズーナ級2隻だけだったようだ。
「レーダー上級大将より、艦隊決戦に移行するとのこと」
「ああ。頑張ってくれ。僕は見ているだけだよ」
ヴェステンラント軍の軍艦を破壊するには一撃の破壊力が重要だ。やはり戦艦を動かすしかないだろう。レーダー上級大将が主力艦隊を前進させて砲撃戦に移行しようとした、その時であった。
「主力艦隊より、敵艦隊の潜水船を確認したとのこと! 駆逐隊が攻撃を開始しました!」
「爆雷なんかがヴェステンラントの船に効くかなあ」
ヴェステンラントの軍艦の再生能力は水中でも健在だ。爆雷程度の攻撃力では正直言って効果がないとライラ所長は言っていたが、まあやれることをやるしかないだろう。
駆逐艦隊はありったけの爆雷を投下したが、水中探信儀が乱れ、戦果があったのか確認するには時間がかかる。
「駆逐隊、潜水船を確認出来ずとのこと」
「撃沈したのか、或いは通り抜けられたか、どちらかな」
「通り抜けられた、と言いますと……?」
シグルズの護衛として側に控えるヴェロニカが、不安そうに尋ねた。
「奴らの狙いが僕達かもしれないということだよ」
「私達、ですか? レーダー上級大将は向こうにいますし、空母部隊を狙う意味はないのでは?」
「その情報を敵は知らないだろう。ここに艦隊司令長官がいると踏んで攻撃してくることは十分に考えられる。まあ実際、ゲルマニア総統がここにいるしね」
「ははは……」
魚雷を何十発と喰らおうと平気で復活してくる船が、爆雷ごときで沈むとも思えない。そしてすぐ、シグルズの懸念は現実のものとなってしまった。
「駆逐隊より報告! 敵の潜水船が来ました!」
「やっぱりね」
空母機動部隊を護衛する駆逐艦が、敵の潜水船を捉えた。やはり爆雷など全く効果がなかったらしい。護衛の駆逐隊も攻撃を行うが、まあ効果はない。
「シグルズ様!! 潜水船です!!」
「来たか」
大量の水飛沫を上げながら、グラーフ・ツェッペリンの左右に潜水船が浮上した。イズーナ級よりは小型であるが、ゲルマニアの戦艦並の大きさを誇る船である。彼らの潜水技術だけは22世紀の地球を凌駕していると言えるだろう。
潜水船はグラーフ・ツェッペリンを両側から押し潰すように挟み込み、艦橋に大きな衝撃が走る。他の空母にも同様に潜水船が横付けしてきていた。
「敵軍、本艦に移乗攻撃を仕掛けてくる模様です!」
「し、シグルズ様! 早く避難を!!」
「何を言っているんだ、ヴェロニカ。僕は総統として、兵士達を信じるよ」
「で、ですが――」
「僕達の武器も相当に進化した。潜水船だって別に未知の兵器じゃない。この事態は完全に想定内だ」
「わ、分かりました……」
既に先の大戦の時点で、ゲルマニアの軍艦は多数の対人兵器を搭載していた。20年でそのような武装は更に拡充され、魔導兵など寄せ付けない――筈である。
「敵艦、乗り込んで来ます!」
「陸戦隊、迎撃を開始します!」
飛行甲板の外側に取り付けられているのは、地球で言うところのガトリング砲である。ゲルマニア軍では多砲身砲と呼んでいるが。対空機関砲より取り回しがよく、かつ四連装対空機関砲並の射撃速度を誇る兵器である。
両舷に合わせて40門搭載された多砲身砲は真下に向けられ、その威力は凄まじく、上陸を試みるヴェステンラント兵をまるで紙吹雪のように吹き飛ばした。余りの連射速度が故に魔導装甲など意味をなさず、甲板上の敵はあっという間に消し飛ばされた。
しかしヴェステンラント軍も無策な訳ではない。
「おお、ヴェステンラントの盾か。多砲身砲でも全く効いていないな」
シグルズは艦橋から眼下の戦場を見下ろしながら呟く。ヴェステンラント軍はすぐに鉄の盾を持ち出して身を隠し、その盾は多砲身砲から放たれる無数の機関砲弾をものともしなかった。
「全然効いていない、ですよね……」
「そのようだね。とは言え、奴らも一歩外に出たら蜂の巣。移乗攻撃をするのが奴らの目的である以上、奴らの負けだ」
「ま、まあそうですね」
ヴェステンラント軍の作戦は完封された。
「重巡洋艦隊、敵艦に攻撃を開始するとのこと」
「これで終わりかな」
空母機動部隊を護衛する重巡洋艦達が至近距離から攻撃を開始した。潜水船には対艦兵装がないに等しく、至近距離から砲撃を浴びせるだけの簡単な仕事である。
が、その時であった。
「潜水船に動きあり! 何か、出てきます!」
「増援か? 出てきたところで何が出来る訳でもないだろうが……」
次は何を出してくるのか、シグルズは少しばかり楽しみになっていた。
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