決裂の総会

 かくして開かれた国際連盟総会の主だった面々は、ゲルマニアから総統シグルズ、ヴェステンラントから白公クロエ、大八洲から朔、ガラティアからイブラーヒーム内務卿である。


「ガラティア帝国としては、そもそも伊達政権の正統性はないものと考えております。ですので、大政奉還を掲げる北條氏こそに正統性があるとみなし、これを支援することを既に決定しました」


 イブラーヒーム内務卿は開始早々、和平をする気などないと宣言した。それに対してシグルズはあくまで現行の秩序を守ろうとする。


「ガラティアの姿勢はよく分かっている。だが、国際連盟はとうの昔に伊達陸奥守殿を大八洲の正統な君主として承認している。これに反逆する者は、国際連盟に弓を引いているに等しい。よってゲルマニアとしては、国連軍を結成し反乱軍を討伐することを提案する」

「総統閣下、恐れながら、革命や反乱や内乱は、民族自決の内なのでは?」

「どういうことかな?」

「内戦というのはつまり、ある国の正統な支配者を決める運動です。言ってしまえば政争の範疇であり、戦争とみなすべきではないかと」


 王位継承や政権交代が戦争とはみなされないように、反乱も戦争状態とみなすべきではない。イブラーヒーム内務卿はそう主張するのである。


「その理論は無理があると思うけど、だとしたら、いかなる国も内政干渉をするべきではない。ガラティア帝国は静観すべきだ」

「革命において反乱側が不利なのは必定。人民の意志を公正に問うならば寧ろ、反乱側に支援を行うべきでは?」


 ここで、不愉快そうに話を聞いていた朔が口をはさむ。


「お言葉ですが、今回の騒乱は所詮、一時の名利が為に血迷った一部の大名の反乱に過ぎませぬ。既に我らは体制を建て直し、もう間もなく賊徒の討伐を始めるところにございます」

「そう言って、人民の声を武力によって押さえ込もうとしているのではありませんか?」

「左様なことは一切ございません。我らは天道に則り民草の為の政を行ってございます」

「言葉だけなら如何様にも言えましょう」

「そんなことを言ったら、このように会議を起こす意味がないではございませんか!」

「まあまあ、二人とも、落ち着いてくれ。だが……ゲルマニアとしてはやはり、ガラティア帝国の主張を受け入れることは出来ない」

「左様ですか。であれば、我々は我々で勝手に動かせてもらいます」

「本気でそうするのなら、国際連盟は君達を侵略国みなし、武力制裁に踏み切るのみだ。それでもいいのか?」

「そ、それは……」


 流石のイブラーヒーム内務卿もゲルマニアとの全面戦争を目の前にするとしり込みしてしまった。話題が途切れたところで次の提案をしたのはクロエである。


「ヴェステンラントとては、ガラティアの言い分を認めます」

「あ、あなた様もこのような戯言に――」

「そうではありません。ガラティア帝国の仰る通り、政権を誰が握るのかを決めればいいではありませんか。国際連盟の監視の下で選挙を行えばいいでしょう。本当に今の政権が民の為の政治をしているのならば、問題なくあなた方が選ばれる筈では?」


 ガラティア帝国の主張はそもそも無茶苦茶ではあるが、要するに大八洲人に大八洲の政権を決めさせるべし、ということだ。であれば内戦などせずとも選挙をすればよい。そうすればガラティアも介入出来ないだろう。


「そ、それはもちろん。ですが、賊徒が選挙など受け入れるとは思えませぬ」

「そこは国際連盟の力で何とかするまでです。シグルズも、それならいいですよね?」

「ああ。そういう目的ならば、ゲルマニアは力を貸そう。イブラーヒーム内務卿、もちろん、ガラティア帝国も協力してくれるよな?」

「……無論です。我が国は万人の平穏無事を庶幾しておりますから」


 かくして列強は折り合いを付けられた、と思われたが、意外な人物が反対を表明した。朔であった。


「……選挙など行えば、あたかも賊徒に正統性があったかのように思われてしまいます。皇國としては、賊徒と対等な交渉など受け入れられませぬ!」

「選挙をすれば君達が勝つことは間違いない。ことを穏便に収められる方法はこれしかないんだぞ?」

「彼らは賊徒どころか、主君殺しの大罪人にございます。そのような連中と話し合いなど、到底認められませぬ!」

「そ、そこを何とか……」

「これは譲れませぬ。賊徒は我らの手で速やかに討伐いたします」


 大八洲は命より名誉と忠誠を重んじる国である。そんな国で最大の罪である主君殺しを犯した連中に僅かばかりの正統性を与えることすら、朔は許せなかった。


「であれば、ガラティアとしてはやはり、反乱軍――いや、革命軍を支援させていただきます。朔様に本当に私欲がないのであれば、多くの命が失われる戦より面子を優先させるなどありえません」

「何という戯言を!」

「いずれにせよ、朔様が選挙をお認めにならない限り、我が国の意志は変わりません」

「なれば、勝手にすればよろしいでしょう!」

「勝手にさせていただきますとも。これ以上の議論は不要です。失礼」


 イブラーヒーム内務卿は議場を退出してしまった。

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