最終章 第二次世界大戦

第二次世界大戦の幕開け

 2332年、ヒンケル総統は死んだ。その後を継いだのは大戦争の英雄シグルズ・フォン・ハーケンブルクであった。国際連盟の実質的な発起人である彼が総統となり、いよいよ世界に平和が訪れると、エウロパの諸国民は大いに期待を抱いた。だが、人類が存在する限り、戦争がなくなることはないのである。


 ○


 ACU2337 11/23 大八洲皇國 近江國 蒲生城


「下克上で天下を得た俺が、下克上で倒されるか。面白い」

「まったく、こんな時にも強がるのね、あんたは」


 関白伊達陸奥守豊臣晴政の居城たる蒲生城は、三万の軍勢に包囲されていた。南方に出陣する予定だった北條勢が突如として反旗を翻し、晴政を攻撃したのである。


「申し上げます! 一の丸に北條勢が侵入致しました!!」

「そうか。まもなくこの本丸にも敵が押し寄せよう」

「どうするの? 命乞いでもする?」

「馬鹿な。腹を切るに決まっておろう。桐、介錯を頼めるか?」

「ええ、もちろんよ」


 晴政は鬼庭七石桐の介錯で自刃。桐もまたすぐに自ら首を切って果てた。伊達政権は儚くも崩壊し、大八洲はまたしても内戦に突入したのである。


 ○


 ACU2337 11/25 ヴェステンラント合州国 陽の国 王都ルテティア・ノヴァ ノフペテン宮殿


 大八洲が何の前触れもなく崩壊し、ヴェステンラントも混乱していた。女王ニナは大公達を集めて真面目に会議を開いていたが、そこに報せが飛んで来た。


「陛下、大八洲の反乱勢力より、我が国に救援要請の書簡が届いております」

「ほう。見せよ」


 すっかり落ち着いた雰囲気になった女王ニナ。伝令から書簡を受け取りさっと目を通した。内容は予想通り、反乱の首謀者である北條相模守から、伊達政権の不正と自らの正義を訴え、ヴェステンラントに協力を要請するものであった。


「伊達が不正義な政治をしていたとは思いませんがね。北條の私利私欲に過ぎないんじゃありませんか?」


 赤公ノエルは率直な感想を述べた。オーギュスタン亡き後に彼女が赤公の地位も継いでいる。


「余もそう思うぞ。本気で正義の為などに戦を起こす馬鹿がおるものか」

「では、今回は順当に政権側を支持しますか?」


 クロエは問う。ニナは淡々と応えた。


「我が国の利益になる方を、選ぶべきであろうな」

「仮に反乱軍を支援した場合、国際連盟を敵に回すことになると思いますが」

「国際連盟など、今や何の意味もなさぬ。そもそも大八洲も、独立運動を単なる反乱と呼んで、連盟に伺いも立てず、南方へ派兵しようとしていたではないか」

「まあ、確かに」

「じゃあ反乱軍を支援するんですか? もしも反乱軍が勝てば、確かに大八洲を私達の影響下に置けますが」

「ノエル、それは短絡的に過ぎます。そんなことをしたらゲルマニアやガラティアが介入して来ますよ」

「それはそれで、私達の軍事力を試すいい機会になるんじゃないか、姉貴?」

「……本気でゲルマニアと戦争する気なんですか?」


 クロエはノエルを睨みつけながら、暗い声で問う。


「い、いや、冗談だって」

「いいや、ノエルの言葉にも一理ある。国際連盟は機能不全に陥り、我らのみならず列強諸国は軍備拡張を進めておる。戦争はいずれ避けられぬであろう」


 ニナは地球の歴史を知っている。国際連盟のような組織を結成したとて平和は維持出来ず、いずれ次の世界大戦が起こるということも。


「陛下、本気なのですか……?」

「余は本気だ。まあ、まだ決めはせぬ。列強の出方を見てからだ」

「そ、そうですね」


 クロエは勝ち目のない戦いになど挑みたくないし、ニナは逆に勝ち目のない戦いにヴェステンラントを引きずり込みたい。様子見は両者共に賛成するところであった。ヴェステンラントが公式には何の声明も出さず事態を静観していると、最初に動いたのはガラティア帝国であった。


「陛下、申し上げます。ガラティア帝国は先程、反乱軍に義があるとして、反乱軍への支援を公言しました」

「伊達政権に宣戦布告はしておらぬのか?」

「それはしておりません」

「アリスカンダルも随分と慎重になったものだ。とは言え、いずれガラティアは大八洲と戦争に至るであろう」


 未だに領土的野心を捨てていない皇帝アリスカンダルは、これを絶好の好機と見ているに違いない。いずれ何か理由をつけて政権との戦争を開始するだろう。ガラティアは反乱側についたのである。


「ガラティアが反乱側に回ったのならば、我らも反乱側に回るとしようか」

「ゲルマニアと確実に戦争になると思いますが……本当にいいのですか?」

「ちょうど良いではないか。再びガラティア帝国と共にゲルマニアと戦おう」


 先の大戦と全く同じ構図になってきた。クロエはいよいよ焦る。


「と、とにかく、まずは国連総会で話し合うべきです。戦争するか決めるのはその後でいいでしょう」

「……まあよかろう。クロエ、そう言うのならば、お前が国連に行ってくるがよい」

「はい。行ってきます。全力で戦争を止めて来ますので、ご安心ください」

「ふん。期待している」


 混乱に陥る伊達政権で指導力を発揮したのは、レギオー級の魔女たる長尾左大將朔であった。朔は直ちに国際連盟の緊急総会の開催を列強に要請し、ゲルマニアの帝都ブルグンテンで総会が開催されることとなった。

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