全ての結末

「と、止まった……?」

「あ、ああ……」


 シグルズがルーズベルトを撃ち殺した、まさにその瞬間のことである。地上で激しい戦闘を繰り広げていたアメリカ軍は、突如として止まったのである。兵士達が恐る恐る銃口で小突いてみると、アメリカ兵は何の力もなく倒れた。


「幕僚長殿、こ、これは一体……」

「私に聞くな。分かる訳がない」


 流石のオーレンドルフ幕僚長も、何が何だか分からない。先程まで聞こえていた銃声が一切途絶え、激しい耳鳴りだけが残っている。


「だが……恐らく、我らが師団長殿がルーズベルトを殺すことに成功したのだろうな」

「で、では、我々の勝利、ということでしょうか……?」

「そう信じたいな。まずは念の為、しっかりアメリカ兵を殺しておけ」

「はっ!」


 いつ生き返るかも分からない敵を放置しておく訳にはいかない。ゲルマニア兵はアメリカ兵の兜の隙間から銃口を突っ込んで頭を撃ち抜き、ヴェステンラント兵や大八洲兵は首を斬り落とした。アメリカ兵が生き返るような様子は全くなく、戦いは終わったのだと、兵士達はようやく安堵した。


「幕僚長殿、これから、どうしましょうか……?」

「まずは全軍で海岸に戻ろう。敵がまた現れないとも限らん。海を背にして陣形を整える」

「はっ!」


 今更シグルズのところに駆けつけたところで意味はないと判断したオーレンドルフ幕僚長は、人類連合艦隊の許まで全軍を戻すことにした。


 ○


 一方その頃。大天使ガブリエル或いはリリーは、シグルズ達を施設の更に奥に案内した。そして先程破壊したルーズベルトと同様の、円筒状の機械の前に彼らを連れて来た。


「これは何なんだ? まさかルーズベルトは一つではないとでも?」

「いえ、ルーズベルトはあれで完全に滅びました。これは、あなた方が魔法と呼ぶものを管理する機械です」

「魔法を……? 一体どういうことですか?」


 一番興味を持ったのはクロエであった。これが事と次第によってはとんでもない物体であると直感したからであろう。


「魔法とは、このような機械がこの惑星のあらゆる所に送っているエネルギーを、あなた方がエスペラニウムと呼ぶ受信装置で受け取り、思い描いたものを発動させること、なのです」

「魔法、というよりは魔力が、こんな機械によってもたらされていると?」

「そういうことなのです」

「それは驚いたな」


 魔法とはつまり、遥か昔の人類が残した科学だったということだ。リリーの語るところによれば、魔力もエスペラニウムも全て、かつての人類が用意し、大天使達が管理していたそうである。


「それで、我々をどうして、そんな機械の前に案内したのだ?」


 マキナは強い口調で問う。何か嫌な予感がしたマキナは、剣を握る手に力がこもった。


「この機械を壊せば、世界から魔法は消滅するのです。シグルズ、それはあなたの望みだった筈なのです」

「あ、ああ、そうだが……」

「シグルズ、それは許せませんよ」


 クロエは剣先をシグルズの喉元に突き付ける。シグルズにその気があるのであれば、彼女はシグルズを殺すことを躊躇わない。


「おいおい、落ち着いてくれ」

「落ち着いてはいますよ。あなたの行動次第では、落ち着いて速やかに首を落とします。正直に答えてください。シグルズ、あなたは魔法を消したいのですか?」

「昔はそう思っていたよ。軍に入ったのもその為だった。だけど、流石に今は考えが変わった。結論から言えば、魔法を消したいとはもう思わない」

「その理由は?」

「僕が魔法を嫌っていたのは、魔法が文明の進歩を妨げると思ったからだ。だが、この戦争を見る限り、そんなことはない。魔法は文明を進歩させる原動力になり得ると分かった。それに、今いきなり魔法を消すなんてしたら、世界の軍事力のバランスは完全に崩壊するだろう。それは僕の望むところじゃない」

「ゲルマニアが圧倒的に有利になるのに、それを望まないと?」

「僕はゲルマニアが世界を支配することに興味はないし、寧ろそれは嫌だね。世界平和とは、全ての国が互いを尊重し合ってこそ成り立つものさ」

「理想論ですね」

「理想も語れない人間には何も出来ないよ。まあそんな高尚な理由を抜きにしても、我が祖国がアメリカみたいになるのは御免だからね。もしもそんなことになったら、僕がゲルマニアを滅ぼすよ」

「そうですか。分かりました」


 クロエはようやく剣を降ろした。


「クロエ様、本当に信用していいのですか?」

「昨日今日の仲ではありません。ここまで言われたら、信用はしますよ」

「ありがとう。じゃあとっととここを出よう」

「――ですが、あなたがこの場所を知っている以上、いつの日か気が変わって魔法を消そうとするかもしれません。やはりあなたを生かしておく訳にはいきませんね」

「おいおい、待ってくれよ。信用するって言ってくれたじゃないか」

「人間などすぐに気が変わるものです。それに、どんな国家機密より重要な情報を持ってしまった人間など、殺さざるを得ません」

「それも当然か……」


 一国の軍事力を一瞬で無力化する方法が他国の人間に知られている。大公の一人として、これを放置することは、クロエには出来ない。


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