アメリカの真の力

「造作もない、ものだな」

「クッ……」


 シグルズとクロエを見下ろすイズーナ。彼女にとってはシグルズもクロエも、少々退屈を紛らわしてくれる存在でしかなかった。敵とすら見なされていないのである。


「お前も、やめておけ。私には、お前ごときでは、敵わん」


 背後にいる朔に睨みをきかせるイズーナ。


「……わ、わたくしを、甘く見るな!!」

「ほう」


 朔は激昂してイズーナに斬りかかった。シグルズは下がるように叫んだが、もう遅かった。瞬く間に朔の両腕が斬り落とされたのである。


「そ、そんな……」

「無駄な、ことを」

「ま、まだまだ……!」


 朔は落とされた両腕を再生させた。しかしかつての青の魔女のように平然と戦闘を続行することなど不可能である。朔は大粒の汗を流しながら何とか意識を保っているという状態である。


「そんなことで、私に、勝てるのか?」

「勝つ他に……ありますぬ!!」

「やめるんだ、朔!!」


 朔は再び刀を作り出してイズーナに突撃する。が、今度は両腕と両脚があっという間に斬り落とされてしまった。


「愚かな、ことだ」

「わたくし、では、何も、出来ないのか……」


 朔は気を失って落ちていった。シグルズはイズーナの前で迂闊な行動を取る訳にもいかず、彼女の落下地点に木を生やすことしか出来なかった。


「無駄、だったな」

「ああ、まったくその通りだよ。化物め」

「何とでも、言うがいい。お前には、更なる絶望を、見せてやろう」

「何を……」

「お前達は皆、アメリカの縄張りの中にいると、忘れるな」


 イズーナは頭上に煌めく炎を出現させ、何かの合図をした。すると次の瞬間、激闘を繰り広げる人類軍の背後に、アメリカ軍が姿を現したのである。


「馬鹿なッ!」

「この地ならば、アメリカはどこにでも、兵士を作り出すことが、出来る。お前達は元より、アメリカの蜘蛛の巣の中で、もがいていたに、過ぎないのだ」

「なんてこった……」


 まさか背後から攻撃されるなどとは思ってもいなかった人類軍は、突如として背後に現れ攻撃を仕掛けるアメリカ軍の前に無力であった。特にゲルマニア軍の背後はガラ空きであり、生身の兵士が次々とアメリカ軍の矢に撃ち抜かれてしまう。


「アメリカは何度でも、こうすることが出来る。お前達に勝ち目など、ない」

「言ってくれるじゃないか……」


 ルーズベルトの本体を直接叩く作戦は失敗した。地上の主力部隊も挟撃を受けて大混乱に陥ってしまった。全滅も時間の問題である。


 ○


 舞台は地上、オーレンドルフ幕僚長が率いる第88機甲旅団に戻る。幕僚長は人類軍全体の指揮をシグルズから任せられていたが、今はそれどころではなかった。


「砲兵隊、全滅!!」

「て、敵軍が接近しています!」


 当然なことながら後方に陣取っていた砲兵隊はあっという間に殲滅され、砲撃が途絶えたことで正面の敵の圧力は増す。にも関わらず、後ろから敵の大軍が迫っているのである。


「こ、このままでは、完全に挟撃され殲滅されてしまいます!」

「分かっている! 狼狽えるな! 我々には逃げ場などないのだ。戦う他に選択肢などない!」

「し、しかし……」

「すぐに陣形を再編する。機甲戦力を半分ずつ、前と後ろに向けよ」


 挟み撃ちにされたのなら、前後に同時に攻撃すればいい。実に単純な発想である。


「し、しかしそれでは、前方から来る敵を食い止められません!」

「後方から来る敵も量は同じだ。こうなった以上、砲撃だけで敵を食い止めるのは不可能。白兵戦に持ち込むしかない」

「はっ……」


 犠牲は致し方なし。機甲旅団に敵を引き込み歩兵による白兵戦闘で決着をつけると、オーレンドルフ幕僚長は命令した。これしか手段はないのである。


「前方の敵軍、100パッススまで接近! 戦車の砲撃だけでは、やはり食い止められません!」

「だろうな。総員、白兵戦に備えよ」


 兵士達は戦車や装甲車の陰に隠れながら、最後に突撃銃の動作を確かめた。


「歩兵隊、攻撃を開始せよ!! 敵を殲滅するのだ!!」


 アメリカ兵が陣形に入り込むと同時に、歩兵達は射撃を開始する。弾丸は全て対人徹甲弾を用意されており、アメリカ兵の魔導装甲などいとも容易く貫くことが出来る。しかし、最初は戦車の陰から安全に射撃出来ていたものの、アメリカ兵は次々に押し寄せ、敵を銃身で殴りつけなければならないほどの白兵戦に突入してしまった。


「白兵戦に突入しました! 味方の損害が増大しています!!」

「想定内だ。ここは……ヴェロニカ、前線を支えるのに出てくれるか?」

「え、は、はい! 私でよろしければ!」


 通常こういう時はオーレンドルフ幕僚長が陣頭指揮に当たるのだが、今は司令部を離れる訳にはいかない。白羽の矢が立ったのはヴェロニカであった。


「お前は優秀な兵士だ。アメリカ兵などに後れを取る訳がないだろう」

「で、ですが、兵士を指揮するというのは私には……」

「別に指揮をする必要はない。お前の役割は兵士を鼓舞することだ」


 ヴェロニカという強大な存在が味方にいると知らしめるだけで、味方の士気は大いに上がるだろう。幕僚長の狙いはその一点にあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る